FREAKS vol. 326(2022/11)より 〜アントラーズの選手としてあるべき姿〜

2022.11.26(土)
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アントラーズの選手としてあるべき姿

初めてキャプテンとして臨んだ2022シーズンは
リーダーとしても、選手としても悔しさだけが残る結果となった。
それでも人として成長できたと語る土居聖真は課題を見つめ、奮起を期す。

キャプテンとしてプレーで
示すことができなかった悔しさ

──天皇杯準決勝で甲府に0-1で敗れ、決勝進出を逃しました。この敗戦をどのように感じていますか?
「天皇杯はみんなで決勝にいけると信じていましたし、必ず決勝に進出しなければいけない大会だとも思っていたので、敗れたショックは大きいです。この敗戦の重みをかみ締めるとともに、これが今の自分たちの実力だということを受け止めたいと思っています」

──試合後にはファン・サポーターから厳しい声が届いたと思います。キャプテンとしてその声をどのように受け止めましたか?
「試合に負けて、応援してくれているファン・サポーターの皆さんから厳しい声をかけられるのは、アントラーズというチームでプレーする選手である以上、当たり前のことだと思っています。自分の責任だと思い、ファン・サポーターから投げかけられた言葉の一言一言をしっかりと聞きました。毎回、この言葉しか返せず、本当に申し訳ないのですが、それでも僕らは歯を食いしばって勝つために、前に進むためにやるしかないし、やり続けるしかないと改めて感じています。それに、現状に満足している選手はアントラーズには一人もいないですし、ここ6年、国内タイトルを獲れていないという現状を考えると、何かを変えなければいけないとも感じています」

──天皇杯準決勝で敗退した結果は、改めて自分たちの現在地を突きつけられたところもあったと?
「大事な試合で勝てていないという傾向は、今回の天皇杯準決勝だけに限らず、ここ最近、増えています。本来、アントラーズがチームとして持ち合わせていた勝負強さを、今の自分たちも身につけるために、日ごろの練習から、もっとやらなければいけないですし、向き合っていかなければならないとも思っています」

──甲府戦の内容に目を向けると、37分に失点した場面では、相手のロングフィードからFWに抜け出される際に、土居選手が前線から相手DFにプレッシャーをかけにいっていました。相手DFにロングボールを蹴られる前に、自分が止めていればという思いもよぎったのではないでしょうか?
「チームの戦い方として、前線の選手は相手DFにプレッシャーをかけ、ある程度、相手のパスコースを限定し、次の場面でボールを回収するという狙いがありました。それまでの流れにおいても、相手CBにわざとボールを持たせてロングボールを蹴らせ、セカンドボールを拾って攻撃に打って出る展開を作れていました。あの場面も同様に、自分としてはパスコースを制限するためのプレッシャーをかけたつもりでしたが、失点につながってしまった結果を踏まえると、自分がロングフィードをブロックできていれば……と考えたところはありました」

──試合後のロッカールームで岩政大樹監督からはどのような話があったのでしょうか?
「大樹さん(岩政監督)は、この敗戦は監督である自分自身の責任だと言っていました。大樹さんはそう言ってくれましたが、僕自身は選手たちの責任だと思っています。それはチームメートの表情を見ると、みんなも同じ考えだったように思います。誰か一人のせいではなく、チーム全員が心のなかで自分自身を責めているように感じました」

──天皇杯準決勝敗退を受けて、今季も無冠でシーズンを終えることが確定しました。この現実をキャプテンとしてどのようにとらえていますか?
「今シーズンの自分たちの弱さやもろさが、あの甲府戦にすべて出てしまったというのが正直な感想です。今シーズンは細かいところをチームとして突き詰めることができず、どこかそのときどきで何とか対応して、やり繰りしてきた印象がありました。例えば、レネ・ヴァイラー前監督が率いていたシーズン当初も、チームとして向き合わなければならない課題があったにもかかわらず、試合に勝っていたことで見過ごしてきてしまったところがありました。そうやって進んできてしまった結果、本来は改善しなければならないところや見直さなければならないところを、曖昧なまま過ごしてしまい、最後の大事な一戦で露呈してしまったように感じています。だから、あの結末は自分たちがシーズンを通してやってきたことが出てしまった結果だと、個人的には思っています」

──土居選手は今シーズン、初めてキャプテンを務めましたが、チームを引っ張っていくことができなかったという悔しさはありますか?
「それはもちろんあります。やはり試合に出て、プレーでも、言動でも示したかったという思いを強く抱いています。でも、今シーズンはなかなか試合に出場できない状況が続き、何かチームのために言葉をかけようと考えても、どうしても頭のなかで『自分は試合に出ていないじゃないか』と思ってしまい、声をかけることができなかった。ただ、そうしたなかでも、自分にできることを考え、練習では自分にできる精いっぱいの力で取り組んできました。試合に出られていないからといって、腐ったり、悲観したりするようなことは一度も考えなかったですし、とにかく毎日の練習を全力でやり続けてきました。それでも、自分にとっては初めてのキャプテンという役割だったので、チームのために何かしたい、何かを伝えたいという思いは強く、なかなかキャプテンらしい行動や振る舞いを見せられず、形として表すことができなかった悔しさが残っています。コンディションが上がってきて、ここから試合に出続けることができれば、チームに対して声をかけられるようになると考えていた矢先に、再び出場機会を得られなくなり、出鼻をくじかれるような感覚がありました。チームが試合に負けたときや苦しいときに先頭に立って、ファン・サポーターの皆さんに思いを伝えることができなかったことには、申し訳なさと、ふがいなさ、そして悔しさがあります。そういう意味でもキャプテンとして、チームのために何も示すことができなかったという思いだけが残っています」

──コンスタントに先発出場する機会を得られなかったことで、チームを代表して行動することや発言することができなかったもどかしさがあったと?
「クラブハウスや練習場で個別に相談に乗ったり、話をしたりすることはできましたが、チーム全体に対してメッセージを発信することがなかなかできませんでした。やはり、どうしても何かを発言しようとするときに、『試合に出ていない自分が言っても説得力がない』と思ってしまうところがありました。そのとき、(小笠原)満男さん(アカデミーテクニカルアドバイザー)や(内田)篤人さんが同じ状況に陥っていたときに、何かを言うのではなく、背中で見せようとしていた姿を思い出しました。今なら自分もその行動や姿勢がよくわかります。そうした経験を、自分自身も30歳という年齢でできたことで、人として成長させてもらえたと思っています」

──キャプテンとしてプレーや発言でチームを引っ張れないもどかしさを、姿勢でカバーしようとしていたのですね。
「シーズン途中からは、プレーでチームを引っ張ることができないのであれば、別の形でチームに貢献しようと考えるようになりました。文句を言わず、淡々と練習に取り組む姿勢を見せることで、チームに何かを還元する。自分自身がそうしたマインドになれたことも、成長させてもらえたことの一つなのかもしれません。また同時に、自分自身もそれだけのキャリアを積み、それだけの年齢になったということも実感しました」

戦う、走るといった姿勢の先に
プラスアルファはある

──岩政監督が就任してからチームは新たなフットボールにトライしています。アントラーズでプロとして12年間にわたりプレーしてきた土居選手は、どのような可能性を見出していますか?
「大樹さんが目指すサッカーを形にするには、選手一人ひとりがさまざまなことをできるようにならなければいけないと感じています。攻撃においては、縦に速く攻める意識を持ちつつ、ボールを保持するところは保持する。守備においても、サイドに追い込む、ゴール前で跳ね返すだけではなく、いかなる局面でもボールを奪い切ることが求められています。そうした目標があるように、大樹さんは例えばカウンター、例えばポゼッションといったどちらかに振り切ったサッカーを目指しているわけではありません。そのため、選手自身も、どんな状況にも、どんな相手にも臨機応変に対応できる技術、柔軟性、そしてチームとしての団結力を養っていく必要性があります」

──練習や試合を重ね、臨機応変に戦えるようになってきている実感はありますか?
「大樹さんは、練習からいろいろなことを提示してくれていますが、練習ではできていても、まだまだ実際のピッチでは表現できていないところが多いと感じています。練習ではボールを受けようと顔を出しているけど、試合では状況が苦しくなると、顔を出せなくなってしまうときがある。個人的には、試合でもチャレンジしなければ、変わることはできないと考えています。僕ら選手がミスを恐れずにチャレンジしていく姿勢が、チームが変わっていくためには必要だと思っています」

──チームに新たなコーチ陣も加わり、土居選手自身にも発見はありましたか?
「新たに加わったコーチ陣が合流してから間もないですが、フットボールとフットサルを融合させるという鈴木隆二コーチの考えに魅力を感じています。僕自身も小学生のときはフットサルで全国大会に出場していますし、今もフットサルの試合を見る機会があります。フットサルで見られる攻撃の崩しの形を、チーム全体で取り入れられれば、攻撃のバリエーションは広がっていくと思います。アントラーズは、これまで個の力で局面を打開する傾向が強かったので、コンビネーションを築き上げるには、時間がかかるかもしれませんが、続けていくことで徐々に変わっていくと信じています。例えば、自分がアントラーズに在籍している期間で振り返れば、右サイドで自分と、(西)大伍さん、ヤっさん(遠藤康)の3人があうんの呼吸で相手を崩していたように、即興で3人目の動きができるようになれば得点も増えていくはずです」

──新しいフットボールを構築している一方で、ジュニアユースからアントラーズで過ごしてきた土居選手が考える、アントラーズがなくしてはいけないものとは?
「アントラーズには、どのような試合であっても、負けていい試合はなく、その1試合の1分、1秒、一瞬に至るまで、僕らは全力でプレーしなければいけません。そこだけはアントラーズとして絶対に失ってはいけないところだと思いますし、試合が終わる最後の1秒、試合終了のホイッスルが鳴るまで、勝利を追い求め、最後まで諦めない姿こそが、僕がジュニアユースのころから教わってきたアントラーズの選手としてあるべき姿だと思っています」

──ケガにより今シーズン中の復帰は難しいかと思いますが、最後にファン・サポーターへメッセージをお願いします。
「僕自身も、このままでは終われないと思っています。今年はピッチに立つ機会が少なく、僕のプレーを楽しみにしてくれていたファン・サポーターの皆さんも、さみしかったかもしれません。でも、ケガが癒えて復帰したときには、万全な状態の土居聖真を見せることができたらと思っています。今シーズンはいろいろなことに自分自身もチャレンジしましたが、それによって、以前までできていたことを維持していくことが、いかに難しいかを知る機会にもなりました。それはおそらくチームも一緒で、理想を追い求めるだけでなく、まずは〝戦う〟や〝走る〟といったできることをしっかりとやった先に、プラスアルファがあるでしょう。その当たり前のことをしっかりとやっていくことで、おのずと結果もついてくると思っています」

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