FREAKS vol. 323(2022/8)より 〜“積極的”を体現するゴールへの動き〜

2022.08.26(金)
photo

縦に速いフットボールを紐解く“積極的、攻撃的、効率的”のキーワードのうち、
特に“積極的”を体現しているのが運動量を武器にする仲間隼斗だ。

常に相手DFの背後を狙い続け、ゴールに直結する動きを見せている。

チームのために走り、チームのために戦う男の犠牲心やタイトルへの思いに迫る。

ゴールを目指してアグレッシブに
その姿勢に自分の積極性がある

──明治安田生命J1リーグ第19節の柏戦に2─1で勝利したことは、チームにとって大きな意味があったように思います。
「個人的にも古巣との対戦でしたが、今シーズンのなかでも価値のある勝ち点3になったと思っています。Jリーグ全体を見渡しても、綺世(上田選手)のようにあれだけ点を取ってくれるFWは数えるほどしかいません。その選手が移籍し、戦力的にはダウンすることになりますが、綺世が抜けたから勝てなくなるアントラーズではダメだと思っています。だから、綺世の移籍が決まった直後の柏戦では、チーム全員が一丸となり、綺世が抜けた穴を埋めるのではなく、チームとしてまた違った戦い方を見せたいと考えていました」

──上田選手の移籍が決まり、選手同士で話をする時間を設けたと聞きました。
「少しの時間でしたが、もう一度、優勝を目指して、今いるメンバーでしっかりと戦っていこうという話をしました」

──今、話してくれたように柏戦は上田選手の穴を埋めるのではなく、チームとして新たな色が出ていました。
「自分もそれを強く感じました。綺世がいなくなったぶん、違う誰かが入り、チームとして今までとは異なる特長を発揮できていました。そのときピッチにいる11人がハードワークし、球際も強く戦い、攻守の切り替えも速かった。それはアントラーズでは当たり前のことですが、チームとしてやるべきことを徹底したうえで、それぞれのポジションに入った選手が自分のよさを出していく。その当たり前のようで、決して簡単ではないことに、これからもチーム全員で取り組んでいきたいと思います」

──柏戦後に鈴木優磨選手は、縦に速いフットボールを目指している今シーズンは、気温が高く、湿度もある夏場の戦いにおいてペース配分が課題の一つになると語っていました。
「ペース配分については、自分たちでコントロールできる部分と、サッカーは相手がいるスポーツなので、自分たちだけではコントロールできない部分の両面があると考えています。確かにペース配分は一つの課題ですが、個人的には選手一人ひとりが力を出し切ることが大切だと思っています。現行のルールでは最大5人が交代でき、フィールドプレーヤーの半分が代わることができます。90分間、体力を持たせなければいけないことはわかっていますが、自分がスタートから出る役割を考えたとき、最初からペース配分を意識してプレーを抑えるのではなく、とにかく相手の嫌がるプレーを続けてバトンタッチすることもチーム戦術の一つだと考えています。だから、大切なのは自分の力を出し惜しむことなく、100%の力を出し切ること。個人的にはそれを大切にしています」

──目指している縦に速いフットボールを紐解くと、レネ・ヴァイラー監督が就任当初にコンセプトとして挙げた“積極的、攻撃的、効率的なフットボール”を選手たちは体現しています。そのなかで運動量を武器に積極性を示しているのが仲間選手です。試合ではその積極性をどのように意識していますか?
「常にゴールを目指してアグレッシブに戦う姿勢にあると思っています。自分はとにかく相手の嫌がるプレーをしたい。DFの背後に抜ける動きにしても、相手の嫌がるスペース、ゴールに直結するプレーを意識しています。前線には優磨に加え、以前までは綺世、今はエヴェ(エヴェラウド選手)と、国内でもフィジカルの強いFWがいます。彼らが競り合ってつないでくれる、もしくはこぼれ球を拾って相手の裏を狙う役割を、誰が担っているのかといえば、サイドハーフだと自分は解釈しています。チームとしても縦に速いサッカーを目指しているなかでは、必然的にFWにつけるボールは多くなります。そうしたとき、強さのあるうちのFWが競り合えば、こぼれる場所は前になる確率が高い。だから、彼らの後ろで構えるのではなく、相手DFの背後、裏を常に狙っています。実際、2トップがそらしてくれることでゴールまで到達するシーンも多くなってきています」

──名古屋戦(第18節)の33分に仲間選手が決めたゴールがまさにその形でした。
「縦を狙ったパスを含む計2本のパスで効率よく得点を奪うことができました。あのゴールがチームとしても理想的な形だと思うので、自分でも名古屋戦の得点はよかったと思っています」

──試合では、常に相手の背後を狙って動き直している仲間選手の運動量が印象的です。
「CBがボールを持ったときも、常に相手の背後のスペースに走り込むことを意識しています。FWにマークが集中するぶん、サイドハーフである自分が効果的にそこを狙っていきたい。また、頻繁に自分が相手CBの裏を狙うことで、相手に次もそこを突いてくるだろうと思わせることができれば、今度は足元で受けるプレーが有効になります。自分が何度もその動きを繰り返せば、相手CBが自分のことも警戒するようになり、FWへのマークが緩みます。そうなればチームとしてはしめたもの。優磨やエヴェが楽にプレーできる状況を作り出せれば、得点できる確率も上がります」

自分のゴールよりもチームの勝利
考え方を変えたきっかけ

──名古屋戦の今季リーグ戦初ゴールだけでなく、YBCルヴァンカップの福岡戦や天皇杯3回戦の大宮戦でも得点を記録しています。ゴールという結果を残している自身の出来についてはどう評価していますか?
「自分のなかで、絶対に自分がゴールを奪ってやるとは考えていないんです。今は優勝したいという一心でプレーしています。だから、常にチームが勝つために何をすればいいのか、チームが負けないためにはどうすればいいのかをずっと考えています。自分がゴールを決めたとしても、それは自分だけのゴールではなく、チームで奪ったゴールです。たまたま最後に自分がボールに触っただけにすぎません。それよりも、チームのために何ができたか、チームのために100%の力で役割を果たすことができたのかを大事にしていきたいです」

──自身の活躍よりもチームの結果に重きを置く考え方は以前から持っていましたか?
「いや、明確なきっかけがありました。以前の自分は試合中にすぐ熱くなってしまうところがありました。熱くなり、ときにラフプレーに走ってしまうなど、感情に任せてプレーしてしまうような選手でした」

──今の仲間選手からは想像できません。そのきっかけについて教えてください。
「岡山に加入した2018年の(明治安田生命J2リーグ)開幕戦で、途中出場からわずか3分で退場してしまったことがありました。そのとき、落ち込むのではなく、自分自身に心底、あきれました。もうサッカーをやめたほうがいいのではないかと思うほど、自分のことが嫌になったんです。その後も練習には行きましたが、当時の監督は自分を見捨てることなく、試合に起用し続けてくれ、いろいろと話もしてくれました。そのとき、自分のためだけでなく、周りの人たちのためにもプレーしようと思うことができたんです。自分にできることを100%出し切るという考えは以前から持っていましたが、それまでは自分のためにしかプレーしていませんでした。でも、自分のことを見捨てず、真摯に接してくれた監督やチームメート、スタッフ、家族といった周りの人たちに触れ、チームのことを考えるようになりました。自分にできることを100%やり切って、それがチームのためになればいいなと。姿勢や考え方が変化したのはそれからです。あのきっかけがなければ、アントラーズでプレーする選手どころか、J1リーグでプレーするような選手にもなれなかったと思っています」

──2011年に熊本でプロキャリアをスタートさせたときには、今の自分の姿は想像できなかったのでは?
「想像どころか、1、2年でプロのキャリアが終わってしまうのではないかと思ったこともありました。でも、アントラーズに加入できた今、遠回りはしましたけど、自分がやってきたことが間違いではなく、一歩、一歩進めていたのかなと思えています」

アントラーズは目標が明確
タイトルを獲るために来た

──アントラーズに加入し、チームの伝統や強さを感じている部分はありますか?
「確実にあるのですが、それを言葉で表現するのは難しいですね。空気感といえば空気感なのですが、それも一つではなく、いくつもの要素が染み込んでいるような気がします。でも、確かに何かを感じるんです。自分にもっと語彙力があれば、言語化できるのかもしれませんが、感じているのに言葉にできない(苦笑)。それが逆にアントラーズが築いてきた強さなのかもしれません」

──では、アントラーズに加入して自身が変わったところはありますか?
「一番変わったのは目標です。目指すところが明確ですし、そこに対して自分がどうアプローチしていくかだけなので。それだけでも考え方は大きく変わりました。他のチームでプレーしていたときも、何となく優勝したいという思いはありましたが、アントラーズではその志をチームの全員が持っている。もちろん、他のチームも優勝という目標はありますけど、アントラーズでは選手全員が本気でそれを思っている。その違いは大きい。プレッシャーも違いますし、ファン・サポーターが求めているものにも違いを感じています」

──先ほど伝統や強さについて聞いた質問の答えを話してくれているように思います。
「自分も話しながら、そう思っていました(笑)。アントラーズは個々のことよりも、常にチームが先にある。チームが勝つために、チームが負けないためにという考えや思いが根底にあるところが強さの一つなのかもしれません」

──ファン・サポーターについても触れてくれましたが、声出し応援運営検証対象試合も実施されています。カシマスタジアムで聞いた声援はどうでしたか?
「自分は(6月11日の)YBCルヴァンカップの福岡戦で初めてアントラーズのファン・サポーターの声援を聞きました。アントラーズのファン・サポーターは日本一だと思っていましたが、実際に声を聞いて、やっぱりすごいなと。鳥肌が立ちましたし、体のなかから力が湧いてくるようでした。声援があるだけでチームは勢いに乗れますし、耐えなければいけない時間帯も我慢できる。ギアが一つ上がるような感覚がありました」

──後押ししてくれているファン・サポーターにメッセージをお願いします。
「リーグ優勝を狙える位置にいますし、今季こそアントラーズはタイトルを獲らなければいけないと思っています。これから僕らが声援を聞くことができる機会も増えてくると思うので、スタジアムに足を運んでもらえたらうれしいです。ホームでは毎回、勝ち点3を獲れるような試合を見せたいですし、アウェイにも来てくれた方たちと一緒に勝利をつかめるような戦いを見せたい。そのためにも一緒にスタジアムで戦ってもらえればと思います」

──最後に、仲間選手にとってタイトルとはどのようなものですか?
「アントラーズにとってタイトルとは欠かせないもの。自分自身はまだタイトルを獲ったことはありませんが、一度は見たい景色。獲った人にしかわからないものがあると思うので、今はそこに向かって突き進むだけです。それをつかむために自分はアントラーズに来たのですから」

photo

photo