FREAKS vol. 321(2022/6)より 〜新たな一歩を踏み出すために〜

2022.06.26(日)
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アントラーズ加入3シーズン目を迎えた和泉竜司。
クラブが培ってきた“カシマらしさ”の要因を日々体感しながら、
次なるステージへ向けてタイトル奪還を力強く誓う。


勝ちながら成長を続け、
自信を深められている

──2022シーズン、チームはいいスタートを切ることができました。
「アントラーズに加入して3年目になりますが、過去2年間は開幕直後にチームとしても個人としても出鼻をくじかれ、なかなか思うような展開に持ち込むことができませんでした。その点、今年は久々に開幕戦で勝利を収め、その後もしっかり勝ち点を積み上げられました。いい状態を維持できている実感がありますし、ようやくアントラーズらしい戦いぶりを表現できているという手応えもあります」

──チームの好調の要因についてはどのようにとらえていますか?
「ここ2年間もチームの雰囲気はとてもよかったと感じていますが、今年はチーム全体が若返ったなかで、選手同士の距離間が近すぎず遠すぎず、これまで以上にいいバランスを保てているような気がします。昨年途中に幸輝(安西選手)、今年は優磨(鈴木選手)が復帰しました。年齢的に彼らがチームのちょうど真ん中あたりに入ってくれたことで、上の選手と下の選手をうまくつないでくれています。また、2人と同世代の健斗(三竿選手)の存在も大きいですね。ここ2年間はキャプテンという立場で本当に大変だったと思いますが、今年はいい意味で肩の荷が下り、ピッチ内外で本来の健斗らしさを発揮してチームに刺激を与えてくれています」

──なかでも、鈴木選手の存在感は圧巻ですね。
「そうですね。僕としては、特にプレー面でその存在の大きさを感じています。優磨に対しては、どちらかというとザ・ストライカーというイメージを持っていました。でも一緒にプレーしてみると、天才的なタイプであり、本当に何でもできる選手。皆さんもご存じのとおり闘志をむき出しにして戦えるし、走り回って守備もできるし、さらに気の利いたプレーもできる。何より、勝負どころやピンチを察した的確なポジショニングをはじめ、サッカーIQも高い。優磨がいるのといないのとでチームはずいぶん変わりますよね」

──新体制となった監督、コーチ陣もチームに刺激を与えているように見えます。
「レネ監督が来日する前は大樹さん(岩政コーチ)が指揮を執っていましたが、シーズンインの段階から常に言っている『今年、自分たちにはチャンピオンになれる可能性がある』という言葉が印象に残っています。もちろん今までも優勝を目指して戦ってきましたが、今年は大樹さんがこの言葉とともに、試合をこなしながら成長していくことの大切さをしっかりと伝えてくれています。実際に序盤戦の試合で勝利をつかめたこともあり、僕ら選手にとっては大きな自信になりました。また、レネ監督が合流してからは、試合の進め方や求められることに新たな要素が加わりましたが、チーム全体としてしっかり理解し、体現できていると思います。大樹さんのアプローチとレネ監督のスタイルが融合して、勝ちながら成長を続け、自信を深められているのが、今のアントラーズの強みなのだととらえています」

──レネ監督が選手たちに求めていることは具体的にどのような部分なのでしょう?
「簡単に言えば、『相手が嫌がること』『ゴールに向かってプレーすること』を常に求められているなと感じます。それを実現するために、前線の選手は型にはまることなくポジションチェンジを繰り返したり、相手陣内ではリスクを負ってでも仕掛けていきます。また、レネ監督が大事にしているのが選手同士のコミュニケーション。守備面であれば、前から取りにいくときには一斉にいくし、ブロックを作るときはポジションを後方に移す。ピッチ内では常に声をかけ合いながら、選手間でコミュニケーションを取っています。それに、選手同士でそれぞれの特長や武器を認識していますから、コミュニケーションを密に取り合うことで、一人ひとりのよさをうまく生かし合えている感覚もあります」

タイトル獲得に向けて
チームの勢いを感じている

──今シーズンの和泉選手自身の出来についてはどのように評価していますか?
「ゴールやアシストという結果を残せていないので、個人的にはまだまだ満足できていません。とはいえ、一番大事なのはアントラーズが勝利すること。今年はボランチやサイドなどいろいろなポジションで試合に出させてもらっていますが、どこでプレーするときでも目立たないランニングを繰り返したり、前線のスペースに進入しながら相手にストレスを与えることなどを意識しています。なかなかゴールに直結するプレーではありませんが、それがチームのためになるのならば、僕はハードワークし続けるつもりです」

──アントラーズ加入3年目。過去2年間の経験から、今年に懸ける意気込みも大きなものがあるのではないですか?
「この2年間はなかなか思うような結果を得られず、年間を通じて自信を持ってやり切れたシーズンはありませんでした。その点で、今年はチームとしても僕自身としても自信を持って日々を過ごせています。負けて得られるものももちろんあると思いますが、勝って得られるもののほうが圧倒的に多いなと改めて感じていますし、勝ちながら成長していくことの大切さを実感しています。かつてのアントラーズは、それを積み重ねることで強くなっていったのだと思うんです。始動のタイミングから『今年は絶対に優勝する』という決意がチーム全体の雰囲気から感じ取れました。ここ数年はタイトルを獲れず、直近の2年間は苦しいシーズンを送りましたが、そのなかでも若い選手たちが自信をつけて台頭し、優磨や幸輝といった頼もしい選手たちが復帰しました。タイトル獲得に向けてチームの勢いを感じていますし、僕自身も今年こそはという覚悟で3年目を戦っています。繰り返しになりますが、今年は勝ちながら成長することができていることで、1、2年目とは違った形で歩みを進められている実感があります」

──今シーズンは和泉選手の持ち味の一つであるユーティリティー性が存分に発揮されています。なかでもボランチでプレーする姿はとても新鮮なものがありました。
「ここ2年間はサイドでの起用が中心でしたからね。ただ、名古屋に在籍していたときにもボランチでプレーした経験があり、高校や大学ではFWやトップ下も務めていました。だから、ピッチの中央でプレーすることには全くストレスがなく、むしろ好きなポジションの一つなので、ボランチをやるとなったときには『うれしい』というのが率直な感想でした(笑)。もっとも、立ち位置としてはボランチになりますが、攻撃のときには雄太(樋口選手)とバランスを取って縦関係になるので、トップ下というイメージでプレーすることも多いですね」

──自分自身のどのような能力が評価され、ボランチでの起用につながっていると感じていますか?
「一つは、ボールを前に運べるという部分。同様に、前へのランニングを繰り返せるところや、自分のパワーを前に向けながらプレーに関与できるところが、僕が真ん中で起用されている理由なのかなと思っています」

──守備面では、ピッチ中央でボールを回収するシーンが目立ちます。
「僕や雄太のところでボールを奪い返せているときは、チームとしてもいい時間帯なんです。監督からも周囲とコミュニケーションを取ることとともに、そういう働きを求められています。ボランチとして試合に出るときはやはりチームの中心になりますから、自分のことだけでなく周りを動かす役割も常に意識するようにと。特に守備面では選手個々が連動して動けるように、雄太や健斗らと声をかけ合いながらプレーできています」

──そのうえで、攻撃面ではゴールやアシストを狙っていくと?
「そのとおりです。最近はマツ(松村選手)やカイキといったサイドの選手のゴールが増えてきました。今年のアントラーズでいえば、まず2トップが非常に強力ですし、彼らに加えてサイドやボランチの選手も積極的にゴールを狙って得点を重ねていければ、相手にとっては守りづらくなり、とても怖いチームになっていけると思うんです。だからこそ、ゴールやアシストという結果をすべてのポジションの選手が意識してこだわっていけたら、より優勝に近づけるのではないかと思っています」

アントラーズがいつも
上位にい続けられる理由

──アントラーズにとって、明治安田生命J1リーグ第10節C大阪戦はリーグ戦通算1000試合という節目の一戦となりました。そのなかで挙げた555勝という数字は、リーグトップの勝利数です。
「アントラーズを対戦相手として見ていたときは、こちらが手応えを感じられる内容で試合を進めていたとしても、なぜか最終的には負けていて、結局いつも勝つのはアントラーズというイメージがありました。やはり、粘り強さ、最後まで諦めない姿勢、選手全員がチームの勝利のために走るという部分は、アントラーズの強さの要因ですよね。実際にチームの一員になって、その部分を改めて実感しました。それらを体現できていない選手は許されないし、少しでも欠けている部分があれば選手が厳しく指摘するというところもアントラーズらしさの一つだと思っています。時代が移り変わり、選手が入れ替わったとしても、最後まで勝利のために戦い抜くという部分はチームに浸透していますし、選手一人ひとりに求められていると感じています」

──「すべては勝利のために」というクラブミッションに通じるものがありますね。
「そうですね。また、20個のタイトルを獲得してきたという実績がチームのベースにあるところも、アントラーズ特有のスタイルなのではないかと思います。ここ数年のように思うような結果が出せない時期もありますし、数多くの優勝を成し遂げたのは過去のことでありながら、それでもアントラーズには常時タイトル獲得が求められます。『優勝』や『奪還』という言葉を常に意識しながら日々を過ごすチームというのは決して多くないと思うんです。そういう環境が日常にあること自体が、アントラーズがいつも上位にい続けられる理由なのだと思います。最近は優勝から遠ざかってしまっていますが、一つ獲ることができればアントラーズとして新しい時代に足を踏み入れられると思うので、今年はその意欲を持って戦い続けたいと思っています」

──ピッチ上の和泉選手からも、そういった意志が感じられます。
「僕自身、今シーズンは開幕当初からスタメンで試合に出られていたわけではありませんでした。僕自身はプロである以上、ピッチに立ってチームを勝たせることが一番大事だと考えていますから、レネ監督が合流して以降、試合で使ってもらえることへの感謝の気持ちや、改めて試合に出続けて勝利に貢献したいという思いが大きくなりました。個人的にはそういう思いを胸に戦っているつもりですが、タイトルを獲得するにはやはりすべての選手の存在が大事。選手一人ひとりが練習のときから試合で勝利するため、チームとして成長するために取り組み、その積み重ねが最終的には試合での結果につながってきますし、日々のトレーニングで繰り広げられる激しい競争はアントラーズの強みの一つといえるでしょう。若い選手も多いですし、練習の質や強度を上げていくためにも、日本人選手最年長の聖真くん(土居選手)や隼斗くん(仲間選手)とともに、僕も年長者の一人としてチーム全体を引っ張っていかなければいけないと思っています」

──今シーズン中盤戦以降の戦いに向けて、意気込みを聞かせてください。
「僕はタイトルを獲るためにアントラーズに加入しました。それがこの2年間はチームとしても個人としても結果を残せず、ふがいなさを感じてきました。だからこそ、今年はタイトル獲得への思いがこれまで以上に高まっています。そのために自分がやれることはすべて出し尽くしますし、優勝するためなら何でもするつもりです。僕自身はあまり先のことを考えるのは得意ではないのですが、アントラーズの未来のことを考えると、次なるタイトルを獲得することで新たに見えてくる景色があるのではないかと思うんです。そこに到達するためにも、今シーズンは必ず優勝することだけを考えて、一戦一戦で全力を出し切って戦いたいと思っています」

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