FREAKS vol. 318(2022/3)より 〜挑戦に臨む者たち〜

2022.03.26(土)
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機は熟した

アントラーズで刻んできたプロのキャリアは12年目になる。
在籍最長となり、文字どおりチームの伝統を示す選手になった。
30歳を迎える今季、キャプテンに就任したのはきっと偶然ではない。
機は熟した―土居聖真がその決意と覚悟を語る。

今、明かすキャプテン就任の
経緯と決意、そして覚悟

──今シーズンからキャプテンを務めることになりました。就任に際してクラブとはどのようなやりとりがありましたか?
「今シーズンが始動して1週間くらいが経ったときだったと思います。吉岡(宗重)FD(フットボールダイレクター)から『キャプテンについて相談がある』と声をかけられました。〝相談〟という言い方だったので、誰かにキャプテンを任せたいという話だと思っていました。部屋に行くと、まず、今シーズンは優磨(鈴木選手)とピトゥカに副キャプテンを任せたいという話がありました。自分のなかでも適任だと思い、『いいと思います』と伝えたところ、『キャプテンは聖真にやってほしい』と言われました。まさか自分が指名されるとは思っていなかったので驚きましたけど、現場のスタッフを含めて満場一致だとも言われました。それで吉岡FDから『やってくれるか?』と聞かれたので、『はい。やります』と即答しました」

──即答する際に、瞬間的に頭をよぎったことがあれば教えてください。
「実は2、3年前から、シーズン終了後に行われる面談のときに、『自分にキャプテンをやらせてください』という話はしていたんです。そのときは、選手それぞれのキャラクターもあるからといった感じで流されていました。でも今回、吉岡FDからは『機は熟した』という言葉をかけてもらいました」

──数年前からキャプテンを担いたいと考えていた理由はあるのでしょうか?
「もしかしたら上から目線で話をしているように聞こえてしまうかもしれませんが、〝土居聖真〟としてほぼ経験し尽くしてしまったという思いがありました。代表というカテゴリーにおいては、確かにW杯予選やW杯本大会は経験していません。ですが、クラブではFIFAクラブW杯も経験しているし、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)も優勝している。クラブレベルで見れば、かなりの国際経験を積んできました。そうしたとき、さらに自分が成長するために、今以上の刺激を得なければならないと考えると、キャプテンを務めることなのではないかと思っていました。自分自身をアップデートするためにも、そのきっかけになるのではないかと」

──アントラーズのために、さらに自分自身を成長させるためには、何かを背負う必要があると。
「そのとおりです。ありがたいことに、アントラーズに長く在籍し、Jリーグでも長くプレーさせてもらってきました。それだけに30歳を目前にして、初めて挑戦することが少なくなってきました。吉岡FDと話していて感じたのは、クラブもそうしたタイミングを見計らってくれていたように感じています。だから今シーズンこそが、僕がキャプテンに就任するタイミングだったのではないかと思っています」

──個人に目を向けると、今季でプロ12年目になります。節目となる30歳を前に、何か決意したことはあったのでしょうか?
「そこは特に変わらないですね。毎年、優勝したい、勝ち続けたいという気持ちは若いころから少しも変わっていません。ただ、長くプレーしてきて感じているのは、一人がどれだけ頑張っても変わらない世界だということ。例えば、一人の選手が10点、15点取ったからといって、必ずしもチームが優勝できるわけじゃない。もちろん、優勝するチームから得点王が生まれることはありますが、そうじゃないケースも多いですよね。そう考えたとき、やはり大切なのは〝チーム力〟だということ。一人がスーパーなだけでは、タイトルを手にすることはできないと思っています」

──土居選手が指す〝チーム力〟とは、ピッチに立っている11人だけでなく、チーム全員を指しているように聞こえます。
「そうです。僕も年齢の若いころは、自分が頑張ればいいと思っていました。でも、こうしてタイトルを獲れないシーズンが続き、なぜかと理由を考えたとき、1人や2人の活躍が目立つようなシーズンではダメなのではないかと感じるようになりました。ヤスさん(遠藤選手/現仙台)ともよくこの話をしていたんです。一人ひとりが、『俺が、俺が』となっているチームは優勝できない、と。それを聞いて、強かったときのアントラーズを知っている人の言葉だなと思いました。僕は、ヤスさんだけでなく、多くの先輩たちから心に響く言葉をたくさんもらってきました。実際に自分自身が感じたことを含めて、そうしたメッセージをキャプテンとして発信していくことができればと思っています」

ポジティブな空気が
充満するチームにしたい

──改めて先輩たちのどのような姿が脳裏に焼き付いていますか?
「振り返ってみると、自我や感情を押し殺してでも、周りの選手が活躍できるように仕向けてくれる先輩たちばかりでした。自分が若いころに(小笠原)満男さん(アカデミーテクニカルアドバイザー)から言われた言葉が思い浮かんだり、自分が調子よくプレーできていたのは先輩たちのおかげだったなと思い返してみたり。今度は自分に、今の若手選手たちがのびのびとプレーできるように働きかける番が来たということですよね」

──どのようなキャプテンシーを発揮していきたいですか?
「ネガティブな空気ではなく、ポジティブな空気が充満するような働きかけをしていきたいですね。ただ、キャプテンという肩書はつきますが、あくまで一選手であることに変わりはありません。チームには昨季までキャプテンを務めてくれていた健斗(三竿選手)もいるし、副キャプテンの優磨もいます。性格的にも、言うべきところは彼らに託そうかなと(笑)。僕は逆に、先輩から強く言われて落ち込んでいる若手選手をフォローすることでバランスを取ろうかなと思っています」

──先ほど名前が挙がった遠藤選手が移籍し、文字どおり在籍最長選手になりました。アントラーズの伝統を知る選手の一人として、今の選手たちに何を伝えていきたいですか?
「勝つこと……『どんなことをしてでも』といったら語弊があるかもしれませんが、僕は結果として試合に勝てば何でもいいと思っています。ここ数年、その1勝へのこだわりが、チームとして少し足りていなかったのではないかと感じています。これはあくまで一例ですけど、いわゆる1点差を守り切る〝鹿島る〟プレーも足りていなかった。そう表現されるプレーは、まさに勝利への姿勢が表れている場面の一つ。見ている人からブーイングされようとも、周りから『違うだろ、キャプテン!』と言われようとも、そこへのこだわりは曲げたくない。あくまで一例ですけどね」

──より最後まで勝ちに対するこだわりや執念を持って戦っていきたいと?
「要するに〝勝つためにやるべきことをやる〟ということです。勝つために手段を選ばないという覚悟を見せる。〝これくらいでいいよね〟というところを、もう一度、見直して、〝ここまでやろう〟という段階まで突き詰めていくことで、タイトルというものは獲れると思っています」

一瞬も相手を休ませない
アグレッシブなサッカー

──コロナ禍によりレネ・ヴァイラー監督は入国できない状況でキャンプを終えましたが、どのような取り組みをキャンプで積み重ねたのでしょうか?
「監督も合流してないですし、まだ多くを語ることはできませんが、アグレッシブなサッカーにトライしています。相手に一瞬たりとも休む隙を与えない。それくらいスピード感のあるサッカーに取り組んでいます」

──攻守の切れ間すらないようなサッカーということでしょうか?
「大樹さん(岩政コーチ)も、よくその言葉を僕らに伝えています。まるでバスケットボールのように、ボールを奪ったら素早く相手陣内に押し込んでいく。自分自身もそうしたサッカーに魅力を感じていたので、かなり充実感を得ています」

──キャンプ中は岩政コーチを中心に指導を受けていたと思いますが、個人的にもその存在は大きかったのでは?
「大きかったですね。自分がまだ若く、試合に出られなかった時期には、いつも大樹さんからアドバイスを受けていたことを思い出しました。その当時は、監督ではなく、まずはチームメートである大樹さんに認められるプレーをしようと思っていました。大樹さんに『できるようになったな』と言われたくて、練習を頑張ったことが、結果的に試合に出ることにもつながった。その当時を思い出して初心に帰った感覚がありました」

──指導者としてアントラーズに戻ってきた岩政コーチから感じたことは?
「言葉のチョイス、伝え方が的確だと感じています。以前と変わらない内容にしても、伝え方一つで、チームとしての理解度に影響があるように思います。指示にしても具体的かつ正確なので、周りを見ていても日々課題が解決できている印象です」

──その岩政コーチからキャンプ中によく言われた言葉はありますか?
「『相手を見てサッカーをしろ』ということは、チームとしてよく言われています。自分たちがやりたいようにやるのではなく、相手を見たうえで考えて判断し、動くことを求められています。サッカーは自分たちだけでなく相手がいるスポーツ。チームが始動したときから、相手を見てプレーすることの重要性について説かれています」

シーズン最後にキャプテンとして
初めてトロフィーを掲げたい

──今シーズンの目標を聞かせてください。
「目標は毎年変わらず、やはり優勝、すべてのタイトル獲得です。ただ、ここ2年はACL出場圏内にも入れていないので、そこは確実に目指していきたい。そのためにもやはり、〝チーム力〟を見せなければと思います」

──今シーズンの躍進をファン・サポーターも期待してくれていると思います。
「アントラーズにかかわるすべての人々が近年の結果に満足していないように、僕自身も常に勝利を、そしてタイトルを望んでいます。そのために、自分自身が何をしなければいけないのか。今シーズンから新たにキャプテンを務めさせてもらうだけに、それを常に考え、実行していきたい。ただ、もちろん僕も頑張る一人ではありますが、アントラーズとして一つになり、タイトルという目標に向かっていかなければならないと思っています。また、そこにはファン・サポーターの人たちも含まれていますし、僕は一緒だと思っているので、ともに戦ってもらえたらうれしいです。選手たち自身が変わることはもちろん、アントラーズとしても変わらなければいけない1年だと思っています。全員が同じ方向を向き、自分たちの力を信じて戦っていかなければ、きっと優勝には手が届かない。そのためにチームとして、もがき苦しみながらも一つひとつの課題を乗り越え、シーズンの最後にはキャプテンとして初めてトロフィーを掲げることができればと思います。例年以上に熱い応援をしてもらえたらうれしいです」