FREAKS vol. 317(2022/2)より 〜“渇望”と“覚悟”〜

2022.02.26(土)
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タイトルを獲るために戻ってきた
健斗の責任の半分でも背負いたい

──お帰りなさい。2年半ぶりにアントラーズの選手としてクラブハウスに足を踏み入れた心境はいかがでしたか?
「どこか懐かしい感覚も抱きました。小さいころから、このクラブハウスに来ていたので、そのときの記憶がよみがえりました。同時に、このクラブの歴史を知っているので〝やらなければいけないな〟と強く感じました」

──シント=トロイデンVV(ベルギー)からの復帰については、国内のメディアにも大きな驚きをもって報道されました。復帰に至るまでの経緯について教えてください。
「決断するまでには、それほど時間はかかりませんでした。というのも、ヨーロッパの夏の移籍市場で5大リーグに挑戦したいと思っていましたが、自分が希望しているようなオファーが届きませんでした。そのタイミングで、これ以上、シント=トロイデンVVでプレーしていても、同じような心境を繰り返すだろうなという思いに至りました。環境を変えずにもう1年、もう2年と、頑張る気持ちにはなかなかなれなかったんです。それで自分自身を見つめ直したとき、もしアントラーズにもう一度、必要とされるのであれば、またここでプレーしたいという気持ちが湧き起こってきました」

──2021年の夏に移籍が実現しなかった時点で、アントラーズに復帰したいという思いを抱いていたということですか?
「そう考えていたなかで、日本では21シーズンが終わり、満さん(鈴木満前フットボールダイレクター)と話す機会がありました。そこで『僕はアントラーズに帰りたいです』と、率直な気持ちや考えを伝えさせてもらいました。その言葉を聞いた満さんも、アントラーズとして自分のことを必要としてくれたので、このタイミングで復帰することを決めました」

──会話を交わしていくなかでは、どのような言葉をかけてもらったのでしょうか?
「ストレートに『優勝するためにお前を獲得する』と言ってもらえたことはうれしかったです。復帰に向けて話を重ねていくなかで、何度もそうした言葉をかけてもらいました。今のアントラーズに能力の高い選手がたくさんいることは、いつも試合映像を見ていたのでわかっていました。そこに自分らしさを加えられたら、タイトル獲得は決してできないことではないと感じていました。だから今は、アントラーズがタイトルを獲るために、自分らしさを出していければと思っています」

──復帰に当たって事前に相談した人はいましたか?
「安西だけには、『帰るかもしれない』という話はしていました。でも、いつもアントラーズの試合を見ていて、健斗(三竿選手)が一人でチームを背負おうとしている印象を感じていました。彼が一人で背負っているものが大きいということは、画面越しに見ても感じていたので。自分がチームに加わることで、その負担を軽減し、自分もその半分でも背負うことができればと思っていました」

──シント=トロイデンVVで過ごした2年半で、成長を実感した部分もあると思います。ヨーロッパでのプレーを経験して得たことを教えてください。
「この2年半で精神的にも肉体的にもタフになりました。日本にいたときと比べて、シント=トロイデンVVではトレーニングの量も違いましたからね。順位的に残留争いをするようなチームだったので、より多くの練習をしなければ、試合に勝つことはできなかったからです。だから、どのチームよりもたくさん練習をしていたように思いますし、それによって自分自身も強くなることができました。当時はめちゃめちゃ嫌でしたけどね(笑)。また、チームが残留争いをしていたことで、状況的に過酷な試合も多く、精神的にも鍛えられ、タフになったように思います」

──2020―21シーズンはリーグ戦で17得点を記録しています。それだけの数字を残せた要因は?
「まぐれじゃないですか(笑)。でも、その理由をかみ砕けば、自分自身がチームにはまった感覚がありました。得点を重ねていくことで、次第にボールが集まるようになりましたし、チームメートのみんなが自分を見てくれているとも感じていました。それがプラスに作用したのは間違いないと思います」

──点を取ったことで、徐々に周りが認めてくれたと?
「それ以外に点が取れた理由はないと思います。ヨーロッパでは特にFWは点を取らなければ認めてもらえない。だからこそ自分もゴールにこだわっていましたし、そこで自分の価値を高めようと努力してきました」

──その評価は想像以上でしたか? それとも想定の範囲内でしたか?
「どちらかというと思い描いたとおりでした。ヨーロッパではやっぱり点を取った選手が評価されるし、点を取らなければ評価されない。すごくシンプルでした」

──日本とはストライカーに求められる役割に違いがあったのでしょうか?
「日本ではFWにもいろいろなタスクが求められますよね。もちろん、ヨーロッパでも監督から求められるタスクを遂行しなければならないのですが、それをやりつつ、点を取ることができるかどうか。現代サッカーにおいて守備をしないFWはまずいないですよね。だからこそ、チームに求められる役割をこなしつつ、点も取れるFWというのが重宝されるんだと思います。ベルギーでプレーして再認識しましたが、それはきっと、全世界共通なのだと思います」

──日本とは異なるサッカーに触れたことで、守備意識にも変化があったのでしょうか?
「シント=トロイデンVVでは多くの時間を守備に割くことが多かったですからね。FWも、まずは守備をしなければ試合に出ることはできなかった。だから、その守備もやりつつ、どこで自分の〝我〟を出すか。僕は、自分の〝我〟を出すために、まずは監督が求めていることを忠実にやり、なじんできたと思ったところで、自分のスタイルを徐々に出していくことを意識していました」

──話を聞くと、ベルギーでプレーしたことで考える力も養われたように感じます。
「そういった部分は大いにあるかもしれません。シント=トロイデンVVには2年半しか在籍しませんでしたが、その短期間でも頻繁に監督交代がありました。誰が監督になっても、その監督が求めるプレーにアジャストするという意味では、大きな経験になりました」

──アントラーズで培ったものが生きたと感じた部分はありましたか?
「一つ挙げるとすれば、勝者のメンタリティーです。自分はどこでプレーしていようが、どこと対戦しようが、絶対に試合に勝ちたいという気持ちで臨んでいました。でも、シント=トロイデンVVに所属している何人かの選手たちは、ビッグクラブと対戦するとき、どこか腰が引けているというか、戦う前から戦意を喪失してしまっているところが見えました。まるで最初から負け戦に行くようなスタンスで試合をやっていたんです。そうした雰囲気を感じ、常に優勝争いをすることができていたアントラーズのありがたみを実感しました」

──では、タイトル争いに飢えているところもあるのではないでしょうか?
「間違いないですね。もしかしたら、アントラーズに戻ってくる決断をしたのも、その部分が一番大きいかもしれません。自分が在籍していた19年まで、アントラーズは常に優勝争いをしていて、タイトルも獲っていました。そうした環境でプレーできるのは、選手にとって本当にすばらしいこと。そうした戦いを欲していたというのが、戻ってきた理由としてもデカいかなと思います」

──18年にAFCチャンピオンズリーグで優勝したのを最後に、アントラーズはタイトルから遠ざかっています。
「僕どうこうではなく、優勝を知る選手たちが引退や移籍によって、チームから抜けてしまったという事実があります。それでもタイトルを知るメンバーが、今のアントラーズにはいるので。自分も含めてそうした選手たちが中心になって、チームを強くしていきたい。僕をはじめ、聖真くん(土居選手)や安西、健斗といった経験者たちが、チームをいい方向に導きたいという思いは一緒のはず。その思いが相乗効果を生むように自分もサポートしていきたいと思います」

強いアントラーズを作ってくれ
小笠原TAからかけられた言葉

──今回、復帰に当たって、小笠原満男TA(アカデミーテクニカルアドバイザー)が現役時代に着けていた背番号「40」を選びました。その理由について教えてください。
「満男さんと自分を比較するのは、本当におこがましいのですが、このクラブに在籍している誰よりも、満男さんが偉大な人だということを知っているつもりです。僕は小学1年のときから、満男さんやソガさん(曽ケ端準GKアシスタントコーチ)のプレーを見てきました。彼らがこのクラブをタイトルへと導き、日本サッカー界をもけん引してきたことを理解しています。アントラーズにとって、他にも9番、10番、11番など、歴史や伝統のあるFWの背番号はありますが、自分自身の決意を示すためにも40番しかないと思いました。40番を背負えるのは、このクラブの歴史や価値を知っている自分しかいない、と。また、40番を背負うことで、自分自身にプレッシャーをかける狙いもあります。そうしたことを、勝手ながらに思ったんです。それで満さんに『40番がほしいです』と伝えたら、最初は『検討します』と言われました」

──そこから?
「おそらく満男さんにも聞いてくれたのだと思うのですが、その後、自分が背番号40を着けることを快諾してもらいました」

──事前に自ら小笠原TAにも伝えたのでしょうか?
「言いませんでした。でも、練習に合流したタイミングで満男さんにお会いする機会があったんです。そこで『すみません。40番をもらいました』と伝えたところ、『お前がまた強いアントラーズを作っていってくれ』と、言葉をかけてもらいました。素直にうれしかったですね。満男さんは、自分にとって本当に尊敬できる人。満男さんへのリスペクトも含めて、改めてアントラーズのために頑張らなければいけないという気持ちになりました」

──今シーズン、アントラーズでどんなプレーを見せたいですか?
「もしかしたら話が矛盾してしまうところもあるかもしれませんが、FWとして点を取ることはもちろん重要です。でも、そこにプラスして、チームを勇気づけるプレーやチームが奮い立つようなプレーというものがあると思います。少なからず自分が見てきたアントラーズには、満男さん、ソガさんを筆頭に、(内田)篤人さん、ヤスさん(遠藤康)と、そういったプレーを見せる先輩たちがいて、その背中を見てきました。そこはアントラーズとして絶対に変えてはいけない部分、なくしてはいけない部分だと思っています。だから、僕は僕らしく、そうしたプレーを見せていければと思っています」

──チームにはご自身よりも年齢の若い選手が増えました。
「だからといって、自分がチームを引っ張っていこうという思いはないですね。先ほどの言葉にもあるように、自分らしくプレーすることが、チームにいい影響をもたらすと思っています。自分もまだ25歳。自分が見てきた先輩たちがそうだったように、チームを引っ張っていこうとするのではなく、自分自身のやるべきことを全力でやる。その結果が、チームにいい影響をもたらすことができる。そう信じています」

──改めてタイトルへの思いを聞かせてください。
「ジーコさんが以前のミーティングで、『選手が自分のキャリアを振り返ったとき、その選手の価値は獲ったタイトルの数で決まる』と言っていました。その言葉がずっと心に残っているんです。やっぱり、自分のキャリアをよりよいものにしたいと思ったら、タイトルというものは大きいですし、その思いが結果的にチームのために頑張るという意識に直結する。頑張る理由は自分のためだったり、チームのためだったり、応援してくれる人のためだったりと、人それぞれ違っていてもいいと思うんです。ただ重要なのは、選手全員がタイトルという目標に向かって同じ方向を向くこと。それができれば、その思いでチームは一つになれるはずです」

──最後に、プレーを待ちわびているファン・サポーターにメッセージをお願いします。
「みんなで戦って必ずタイトルを獲りましょう!! シンプルですが、以上です」

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