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FREAKS vol. 316(2022/1)より 〜今のアントラーズは—〜
2022.02.01(火)

プロフットボール選手になって約2年半。上田綺世はシーズンを追うごとに着実にステップアップを遂げ、今や名実ともにアントラーズのエースとして、ピッチ上で大いなる存在感を示している。
チームを引っ張るに立場になったからこそ、その目に映るものや感じることがある。プレー面やチームワークにおける長所や伸びしろを理解しつつ、上田はアントラーズの現状をこうとらえている。
「今のアントラーズは決して強いチームではないし、僕らはもっともっとうえを目指して強くなっていかなければならない」
チームとしても個人としても、さまざまな葛藤と戦い続けた2021シーズンを糧に、背番号18はさらなる進化を誓う。
理想と現実の間で思いどおりに
いかないジレンマと向き合った
──2021シーズンが幕を閉じました。アントラーズの1年間について、上田選手はどう振り返りますか?
「昨シーズンも似たようなところがありましたが、プロサッカー選手として、チームの一人ひとりが難しさを感じた年だったのではないかと思います。やはり苦しいシーズンだったというのが率直な感想で、自分たちが目標として掲げているイメージと現実の結果には、明らかな違いが生じていました。選手たちはその理想と現実の間で思いどおりにいかないジレンマと向き合いながら、目の前の試合に向けてモチベーションを高め、1試合1試合を乗り越えてきました。どのように戦っていくべきなのかと考えたり、思い悩むようなこともありましたが、そういった状況でもピッチのうえでは自分を表現しなければいけないし、勝たなければいけない。求められていることは理解しつつも、ファン・サポーターの皆さんの期待になかなか応えることができず、チーム全体がその葛藤と戦い続けたシーズンだった気がします」
──クラブ創設30周年のシーズンに臨むにあたり、タイトル獲得への意欲は例年以上に高いものがありました。
「必ずタイトルを獲得するという目標を掲げ、昨シーズンに続いてザーゴさんに率いられて開幕を迎えました。監督や選手をはじめ、チーム全体に『節目のシーズンにタイトルを獲りたい』という意識がありましたし、それに向けて昨シーズン終盤の勢いを今シーズンにも持ち込みたいと考えていました。でもふたを開けてみると、清水とのリーグ開幕戦でいきなりつまずいてしまった。誰もが『すぐにチームを立て直さなければ』と焦りましたし、その焦りがやや空回りしてしまったのか、その後もなかなか思うようにはいきませんでした。内容も結果もイメージどおりのサッカーが展開できた、昨シーズン終盤の試合とのギャップに苦しんだ部分もありました。ただ、開幕直後ということもあって、当時は苦しみながらもチーム全体のモチベーションは高い水準を維持できたような気がします。ザーゴさんは就任当初から選手をローテーションして起用していましたし、ポジションの入れ替えやさまざまな戦術の導入などもあったので、いろいろな選手にチャンスがありました。だから全体的には、『やってやるぞ』という気持ちの高まりが感じられました」
──ザーゴ元監督のもとでは、若手の起用も目立ちました。
「最近は若手がチームの主軸を担うようになってきましたし、その土台を築いたのはザーゴさんだったと言えるのかもしれません。例えば僕や沖、他にも郁万(関川選手)、タロウ(荒木選手)、マツ(松村選手)。コンスタントに出場機会をもらったことで若い芽がどんどん育っていきましたし、そのなかで世代交代を進め、新しいアントラーズのベースを作ってくれました。僕自身の土台を確固たるものにしてくれたのも、ザーゴさんだったと思っています。だからこそ、退任の知らせを耳にしたときは悲しかったし、もっと一緒にやりたかったと素直に思いました。チームの成績はうまくいっていなかったけれど、ザーゴさんのサッカー観は興味深く、僕らにとっては刺激の連続でしたから」
──4月半ば以降、チームは新しい体制でリスタートしました。
「もちろんタイトル獲得を目指すうえで、監督の交代という判断も仕方のないことだと考えていましたし、相馬前監督のもと、チームとしてより結果を追求するスタイルにシフトチェンジしました。方針の転換にともない、攻守における戦い方や選手の起用法にもやや変化が生じました。シーズン途中のこの環境の変化は、チーム全体にとっても選手個々にとっても、大きなポイントになったことは間違いありません。特に、ザーゴさんのもとで出場機会を与えてもらっていた若手にとっては、不完全燃焼の時期が続き、気持ちを保つのが少し難しくなったのではないかと思います。そのあたりの積み重ねがモチベーションのバラつきへとつながり、もしかしたらチームとしての一体感に影響を与えたのかもしれません」
──上田選手は以前から、アントラーズの強みとして、さまざまな選手が気持ちを一つにして戦える団結力の高さを挙げていました。
「僕も含め、若手選手たちにとってはアントラーズという〝タイトル獲得を目指さなければならないチームにいるだけ〟であって、実際のところ、タイトル獲得を経験したこともなければ、その方法もわかりません。そう考えると、正直、今のアントラーズは決して強いチームではないし、僕らはもっともっとうえを目指して強くなっていかなければならない。リーグ戦のトップ3などと比べると、選手構成は若いし、一人ひとりの経験や実績、知名度の面でも劣っていると認識しています。ただそれでも、アントラーズがリーグ戦やカップ戦で勝利を手にできるのは、チームとしての一体感や団結力、そして若さゆえのアグレッシブさが大きな要因なのではないかと僕は考えているんです。特に、アントラーズの一員として共通理解が求められるプレーや動きに対しては、選手間に独特な共有力や協力態勢があります。僕らにはこうした〝つながり〟という強みがあるからこそ、勝ち点を積み上げられ、ここまで首の皮一枚をつなげてこられたのだと思っています。だから今後も、チーム内の〝つながり〟を大切にし、より一層強固なものにしていきたい。同時に、来シーズンに向けては新監督や新戦力がもたらす新しい風が、チーム全体にフレッシュな影響を与えてくれる部分もあるでしょう。若いチームであるだけに、より激しい競争が選手たちの意欲を駆り立て、チーム全体を活性化させてくれるのではないかと思っています」
──チームとしての長所を伸ばしつつ、恐れることなく新たな変化も取り入れるということですね。
「先ほども話しましたが、今のアントラーズは決して強いチームではないと思っています。これまでの歴史に目を向け、『アントラーズはタイトル獲得を目指さなければならない』という言葉を用いることで、現在の弱さを濁しているような気もします。現状をしっかりと見つめ、『どのようにしてタイトルを獲得するか?』という部分を、戦術面も含めてもっと突き詰めて考えていかなければならない思うんです。攻守において積極的に前に出て戦うというスタイルとともに、現状を打破し、より上位を狙っていくための戦い方が必要なのではないかと個人的には考えています。来年以降、既存の選手はもちろん、新監督や新戦力など、いろいろな要素が絡み合うことによって、新しい変化と成長が見込めると信じています」
スタンドの一人ひとりの存在が
僕ら選手のモチベーション
──今シーズンの上田選手は、リーグ戦で29試合に出場して14ゴールをマーク。自身の成績やプレーぶりをどう評価していますか?
「僕も『目標はタイトル獲得』と何度も口にしてきただけに、このような結果となり情けないですし、ゴール数に関しては〝全然足りない〟というのが自分なりの答えです。FWにはそれぞれの考え方がありますが、僕としては20点取ることや得点王になることを目指しているわけではありません。チームが掲げる目標を達成するために、FWとして最大限に貢献できるプレーをすることが大切だと考えています。そのなかで、試合展開に応じてFWには求められる得点数があると思っていて、例えば0-1の状況であれば、チームは僕に2点以上決めることを求めるでしょう。同様に、もしリーグ優勝を成し遂げるためにFWである僕が40点取る必要があるならば、達成できるかどうかは別にしても、シーズンを通して毎試合1点以上を取らなければならないし、僕はそれを目指してプレーします。実際のところ、今シーズンのアントラーズがそれぞれの試合で僕に期待してくれた得点数を全部合わせると、おそらく50点くらいになっていたと思います。それと比較すると僕は14点しか達成できておらず、結果的に〝全然足りない〟という結論になるんです」
──ただ、今シーズンは特長であるゴールに直結するプレーとともに、前線からのプレスやビルドアップへのかかわりなど、さまざまなシーンで存在感を発揮していました。
「昨シーズンに続き、今シーズンも出場時間は決して長いほうではなかったと思います。ピッチに立つ時間を延ばさないことには僕としても点を取れる確率が下がりますし、そのためにはいい意味での凡庸性も必要だと考えました。汎用さが特徴の選手は非凡な選手には勝てないかもしれません。ただ一方で、特定のプレーに汎用さが目立つ選手は、出場機会が限られることもあります。例えば、僕やエヴェ(エヴェラウド選手)、マツのように汎用さよりも非凡さが長けている選手は、途中出場のほうが長所を発揮しやすいと見られやすいからです。だから、スタメンに名を連ね、長い時間ピッチに立つならば、意識して守備面や献身的なプレーを身につける必要があると思って取り組みました。五角形や六角形のような図形で選手の能力値を示すレーダーチャートを少しでも大きくし、より多くの引き出しを持ち得ることが、出場時間を延ばすことにつながると考えていたんです」
──アントラーズでのプレーが評価され、今夏には東京五輪に出場し、11月と12月には日本代表に選出されました。個人的には手応えを感じられる部分もあったのではないですか?
「正直なところ、手応えという感覚はあまりありません。チームの結果も自分自身のプレーも、うまくいかないことや失敗することのほうが多かったので、手応えをつかめたとは言えないのが現状です。ただ、1年前と比べると新たにできるようになったこともありましたし、そういった一つひとつの積み重ねが自分に還元され、手応えとして感じられるようになるのはもう少し先のことなのかなと思っています。今はまだまだ自分のプレーに物足りなさを感じていますし、だからこそ、また来シーズン以降に向けて新しいことにトライできるのだと思います。個人的には東京五輪を経て、ゴール前への入り方という部分でバリエーションを増やせたと感じています。もっとも、動き出しの新たな方法やタイミングにトライすればするほど自分に足りないところが見えてくるので、『もっとこうしたい』『もっとこうなりたい』という思いが膨らんできます。そういう気持ちが湧き出てくるのはポジティブなことだととらえているので、今後もさまざまな形にトライし続けて、試合を見たファン・サポーターの皆さんに『以前と比べてプレーの幅が広がったな』と思ってもらえるようにできればと思います」
──ファン・サポーターの皆さんも、上田選手のさらなる成長を楽しみにしていると思います。
「そう思ってもらえると、僕としてもうれしいです。僕らにとってここ数年は本当に特殊な状況で、観客が0人という試合も経験しましたし、僕自身は満員のカシマスタジアムでプレーしたこともあります。やはりその違いはものすごく大きくて、後押しの声もブーイングも、すべてが僕らの力になります。スタジアムに足を運んでくれる方々が思っている以上に、僕らのなかでは〝スタンドの一人ひとりの存在がモチベーション〟になっているんです。試合を見に来てくれた皆さんが最高の環境を作ってくれ、僕らに大きな刺激を与えてくれています。今のところ、来シーズンは入場制限なくお客さんを迎え入れられると聞いています。カシマスタジアムが真っ赤に染まる姿はアントラーズらしさの一つだと思いますし、今から来シーズンのホーム開幕戦を楽しみにしています」

