
フットボールダイレクターとしてアントラーズの強化部門のトップに立つ中田浩二。未来のアントラーズの主力となる選手たちを育成するアカデミーグループのマネージャーを務める鈴木修人。二人が語る、アントラーズアカデミーの存在意義とは。
目指すべきスタイル確立のために
「完成しましたよ、見せないけどね(笑)」。
2024年10月。フットボールダイレクターに就任した中田浩二は、「アントラーズとしてのスタイルを確立させたい」と就任当初から目指す狙いを掲げた。その骨子となるものを言語化して、クラブ全体で共有できる資料化を目指すことを明言した。
「アントラーズのスタイルを作らないといけないなかで共有できる資料化の作成は根本のところ。トップとアカデミーをまず、しっかりとつなげることが必要だと考えたんです」
その実現の過程で、イメージは明確にあった。それは、2020年にアカデミーDNAの作成に携わっていたからだった。自然と言葉が続いていく。
「資料化を目指すなか、すでにあるものとして『アカデミーDNA』があった。それに近い内容としてトップ版を作りました。これを言うと順番が逆になってしまうのですが、アカデミーの方が最初からしっかりとスタイルを持っていたんです。2020年に『アカデミーDNA』(https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202110170046-spnaviow)を作成しました。その作成には僕自身も入って、当時の育成部長の高島雄大さん(現アスルクラロ沼津代表取締役社長)を中心に、(小笠原)満男やヤナさん(柳沢敦)、里内猛さんやクロさん(黒崎久志)たちと、”アントラーズのサッカーとはこういうものだ”というものを言語化、そして映像も合わせて可視化することができました。アカデミーにはあるが、トップにはない。そういった矛盾があるなか、今回FDになって、そこをトップでも作らなければいけないということで実際に作りました」
外部に示すものではなく、”アントラーズ内の監督・コーチ・スタッフたちが持っていなければいけないもの”というコンセプトで作成した。トップのDNAに紐づくような形で『アカデミーDNA』がある。過去のアントラーズの選手たちのキック一つに特化したものなどのプレー映像からジーコスピリットなどメンタル面の言語化したものまでをまとめたものだ。それによって、トップからジュニアまで一貫した指導ができていくだろうと中田は創造した。現状のアカデミーについて、こう言葉にする。
「アントラーズアカデミーとして、どう指導していくのか。そこに対して全体がしっかり取り組めていると感じています。『アカデミーDNA』というベースになるものをしっかりと作って、今はそれに沿ってみんなが一貫した指導ができています。各カテゴリーで結果が出たり、年代別代表選手が増えたり、トップの試合に吉田湊海選手が出場(※)しましたが、1、2年で今のような成果が出たかというと、そうではない。クラブとして2010年に育成改革を掲げましたが、これまで様々な取り組みを積み重ねてきたことで、今やっと形として現れてきているのではないかと思っています」
※16歳9カ月14日でのJ1デビューはクラブ最年少記録
とはいえ、ベースを作ったから終わりではない。
あくまで必要最低限のものを共有し、スタートラインに立ったばかり。さらにはサッカー界におけるピッチ上の変化のスピードアップは増すばかりだ。
「これがすべてというわけではなくて、これから時代が変わればサッカーも変わっていくでしょう。それに合わせてアントラーズのサッカーも変えていかなくてはいけない部分も出てくると思っています。これで完成というわけではなくて、少しずつブラッシュアップさせながら、ただ変えてはいけないところは変えないように。引き続き、継続して作っていければいいかなと思っています」
トップとアカデミー。
その垣根を取っ払い、うまく連携させることで今後の発展を見据えている。

「アカデミーDNA」というベースのもと、育成現場で進む”アントラーズらしさ”の開発
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2025年 年代別鹿島アントラーズアカデミー選出選手一覧
【U-20日本代表】
6/1~6/17:フランス遠征
大川 佑梧
【U-17日本代表】
6/1~6/12:スペイン遠征
元砂晏翔仁ウデンバ、吉田 湊海
3/23~4/21:AFCU17アジアカップサウジアラビア2025(サウジアラビア)
元砂晏翔仁ウデンバ、吉田 湊海
8/28~9/9:U17リモージュ国際大会(フランス)
大貫琉偉、平島大悟、元砂晏翔仁ウデンバ、吉田湊海
9/8~9/15:U17国際ユースサッカーin新潟
倉橋幸暉
【U-16日本代表】
4/10~4/23:モンテギュー国際大会2025(フランス)
大下幸誠、岩土そら、髙木瑛人
6/2~6/8:インターナショナルドリームカップ
大下幸誠、岩土そら、小笠原央、髙木瑛人
7/1~7/9:CFA PEACE CUP(中国)
大下幸誠、岩土そら、小笠原央、髙木瑛人
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2025年 年代別鹿島アントラーズアカデミー選出選手一覧
【U-20日本代表】
6/1~6/17:フランス遠征
大川 佑梧
【U-17日本代表】
6/1~6/12:スペイン遠征
元砂晏翔仁ウデンバ、吉田 湊海
3/23~4/21:AFCU17アジアカップサウジアラビア2025(サウジアラビア)
元砂晏翔仁ウデンバ、吉田 湊海
8/28~9/9:U17リモージュ国際大会(フランス)
大貫琉偉、平島大悟、元砂晏翔仁ウデンバ、吉田湊海
9/8~9/15:U17国際ユースサッカーin新潟
倉橋幸暉
【U-16日本代表】
4/10~4/23:モンテギュー国際大会2025(フランス)
大下幸誠、岩土そら、髙木瑛人
6/2~6/8:インターナショナルドリームカップ
大下幸誠、岩土そら、小笠原央、髙木瑛人
7/1~7/9:CFA PEACE CUP(中国)
大下幸誠、岩土そら、小笠原央、髙木瑛人
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2025年、年代別日本代表。
メンバー発表がされるたび、アントラーズの選手が名を連ねる。今年はU-15、U-16、U-17、U-20の4チームすべてでアントラーズアカデミーの選手が選出され続けている。
「やっとここに来て、しっかりとサッカーができるようになってきた。そう思っています」
アカデミーマネージャーを務める鈴木修人は、順調に見える選手育成にも満足の表情はない。近年のアカデミーの躍進をこう振り返る。
「僕がアカデミーのスタッフになって今年で6年目になります。同じタイミングで満男さん(小笠原AA)、ヤナさん(柳沢トップコーチ)がアカデミーに加わった。今のユースの平島大悟たち(高校2年)が当時小学5年、大川佑梧たち(高校3年)が当時小学6年だった。そこから6年間の積み重ねだと思っています。正直、やっとここに来て、しっかりとサッカーができるようになってきた。1、2年では絶対にできないと思うし、きちんと技術ある選手に育て続けてきたからこそ、今ができているんです。それは、育成スタッフやスクールスタッフがどんなときも選手と向き合い続けてきてくれた結果だと思っています。レジェンドはもちろん、ほかにも優秀なスタッフがたくさんいますから」
まだまだ今は途上。取り組んできたことが正しかったのかどうかは、この先に分かるという。
「だから、結果として表れたかどうかでいうと、あと5年後にどうなっているのか。小学生から育ててきた選手たちが、プロでどれぐらい活躍しているか。今は優れた選手が入ってきて、アントラーズアカデミーで挑戦してくれている選手が増えているのも事実です。ただ、ユースはじめアカデミーで活躍した選手がトップでタイトルを獲ったり、プロになって活躍して海外へ行って、クラブに移籍金を残したり。そういったことこそがクラブへの恩返しになると思うので、まだまだ全然成功という感じはないですね
どれだけ活躍してもトップでタイトルを獲ってくれなければ何の意味もありません。プロになって活躍して、海外に行ってクラブに移籍金を残してくれる。それこそが恩返しになると思うので。まだまだ全然成功という感じはないですね」
鈴木修人アカデミーマネージャーは現役時代引退後、明治学院大学で監督やコーチとして結果を残し、2019年に強化部スカウトとしてアントラーズに戻ってきた。学生を指導する経験を重ねた後に見た、アントラーズアカデミーに違和感を覚えた。
「当時、監督やコーチが戦術ボードを持って子どもたちに難しい戦術を落とし込んでいる姿が目立ったんです。そこで一度現状を確認しようということでスクールから見て周り、すべての年代を見始めました。よく見れば練習中のプレー時間が少ないとか、いろいろと思うところが出てきた。そこをシンプルにしました」
里内、黒崎、小笠原、柳沢を中心に、アカデミーの今後をどうしていくのか。指導現場に主眼を置いて、様々なディスカッションを重ねた。
「まずは、一対一の強化から。一人で局面を打開できる選手にさせたかった。そして、相手を背負ってボールを受けて前を向けるか。背負った状態で相手をはがせるか。そこがプロで生き抜くためには一番大事なこと。パスはいつでもできると思っているので、そこの指導にフォーカスしました。それこそコーンドリブルでポイントをたくさん教え続けたり、一番難しいことを何度も何度も取り組んだ。そうすると、試合で使えるようになってくる、個人ではがせるようになってくるんです」
アカデミースタッフたちが自信を持つきっかけになった大会がある。個に特化した指導の積み重ねが、結果につながった。
2021年、全日本U-12サッカー選手権大会の鹿島ジュニア準優勝。
2022年、チビリンピック2022 JA全農杯 全国小学生選抜サッカー決勝大会のつくばジュニア優勝。
2023年、高円宮杯JFA第35回全日本U-15サッカー選手権大会の鹿島ジュニアユース優勝。
「今のユースで1年生の小笠原央や髙木瑛人の代、2年生の平島大悟たちが、それぞれ全国大会で準優勝、優勝を成し遂げました。さらに、今中学3年の土井空芽たちが小学生の大会で優勝。そのとき、みんなが1人で打開しまくっていたんです。やっぱり個ではがしてゴール前に迫るサッカーでも勝てるんだということが分かったんです」
1対1で球際は負けない。相手を背負っても前を向いてドリブルで抜き去る小笠原。ゴールを決め切る髙木。局面で個が打開することでチームを勝利に導いた。個の技術に特化する指導方針が正しいと、結果で裏打ちされた。アントラーズアカデミー全体として、大きな自信になった。
「これで良かったんだ」。その育成方針の積み重ねが、今につながっていった。

「アカデミーはクラブの根幹」
「アカデミーはクラブの根幹だと思っています」
アントラーズでは、トップとアカデミーで構成されるフットボールディビジョンが存在する。そのトップを務める中田浩二FDが断言する。
「やはりアカデミーがしっかりしていないと、今の時代はチームの強さを維持していけません。その意味で、今後はよりアカデミーが重要になっていくでしょう。アントラーズはこれまでも特にアカデミーを大事にしてきたクラブなので、これまで以上にうまくトップとつなげていくことで、そこからアジアや世界へ向けて一体感を持って進んでいければと考えています」
アカデミーを大事にする姿勢は、指導陣にも現れる。「満男(小笠原アカデミーアドバイザー)、里内さん、中野ユース監督はじめ、経験ある指導者がいる。さらにアカデミー年代で指導だけでなくスカウトも経験した鈴木修人がマネージャーとしていて、モト(本山雅志アカデミースカウト)とともに、選手を見る目がある。アカデミーで様々な角度で高いレベルの日常環境を作れているのは、今のアカデミーの大きな強み」(中田FD)と体制構築の強化に余念がない。
「トップとアカデミーを別で考えるというよりは、トップの選手数をある程度絞ったなか、足りないところはユースからどんどん参加してもらう。良ければトップでどんどんプレーするようになる。それこそがより良いことだと思っているし、世界的にはそれが当たり前になっています。だからこそ、17、18歳から主力が生まれているんだと思います」
バルセロナ、パリSG、レアル・マドリード、マンチェスター・U。世界のビッグクラブでは、17歳や18歳の選手が主力としてチームを引っ張っている。一方、Jリーグでは若い世代から海外へ移籍するケースが増えている。一人の選手が10年にわたりスタメン出場するのはひと昔前の話で、今や大きく様変わりした。
「若い選手が出てくるのは、いいことだと思っています。本当に力があればどんどん試合に出していけばいい。その意味で吉田湊海選手がトップで試合に出場しましたが、ユースの選手にとってもすごく刺激になったんじゃないかと思います。ユースのチームメイトがプロの試合に出ている、自分も頑張れば出られる可能性があるんだと実感する。それによって、競争力が高まり、本当の意味でプロが具体的な目標になったのではと思います」
ただ、主力になったと思ったらすぐに海外移籍というケースも少なくない。となれば、クラブとしては代わりの選手を見つけることは容易でなく、チームの戦力維持が難しい時代となってきた。そこに対するリスクヘッジもすでにフットボールディビジョン内で議論を進めている。
「強化部の視点としては、選手の早期海外移籍のリスクが生まれます。その対策として、これまでと違った考え方や対応をしていかないといけません。選手の海外へ行きたい気持ちを止めるつもりはない。ただ、『行きたいです』『じゃあ行ってらっしゃい』とはならない。そこはしっかりビジネスとして形にならないといけない。今は海外に行くサイクルが早い。まあ、今の選手はだいたい海外へ行きたいでしょう」
選手の気持ちをおもんぱかりつつ、クラブとしての視点は明確にある。
「今は選手の海外移籍を止めることに注力するよりも、そのサイクルにしっかりとついていけるように、アカデミーの選手を鍛えて、いつでもトップへ入っていける選手を常に充実させていくことが重要だと思っています。そのためには外部からの選手獲得も必要だし、資金も必要になる。もちろんアカデミーの選手の海外移籍もあるだろうけど、そこでしっかりと移籍金を取れる形になっていないといけません」
トップとアカデミーの連携を密にすることで、ユース選手の日々のクオリティ向上、そしてトップの練習参加によるレベルアップの両輪を回していく。それが、アカデミーの向上とトップの将来的リスクヘッジにつなげていく考えだ。未来のアカデミーを中田FDはどう描くのか。
「もっともっとアカデミー出身の選手が出てきてほしい。それに尽きます。ただ今に満足せず、やっぱりトップの選手を脅かす選手が出てくることが大事。それが吉田湊海選手じゃないけれど、16、17歳でもどんどん出てくるように。それに加えてさらなる競争が出てきてほしい。可能性ある選手がどんどんプロの選手と競争しながら、いい選手になっていく環境を作っていけるように。引き続きアカデミーと連携していければと思っています」
少しずつ結果があらわれてきているアントラーズアカデミーの現状。見据える理想はまだ先にある。未来へのワクワクは、まだ始まったばかりだ。