
INTERVIEW
鹿島アントラーズユース
中野洋司監督
7月31日、第49回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会(クラブユース)決勝が行われ、鹿島アントラーズユースがベガルタ仙台ユースを3-0で下して初優勝を飾った。今シーズン、アントラーズユースはどのような歩みを進めてタイトルまで辿り着いたのか。また、これからさらなるタイトル獲得に向けたテーマと課題とは。アントラーズユースを率いる中野洋司監督に話を聞いた。
クラブユース初優勝!「強い個性がチームとして団結した」
――クラブユース優勝、おめでとうございます!
ありがとうございます!
――獲れそうで獲れていなかった初の“夏の日本一”となりました。
大会前から選手たちにも「このタイトルは獲れていない」と意識させていました。試合前のところからいい準備をしていたし、選手たちからも「歴史を変えたい」というモチベーションを感じました。
――表彰式の後に選手たちから水をかけられていましたね(笑)。
率直に嬉しかったです(笑)。
――一発勝負が続くトーナメント方式。今年は試合時間が70分でした。
予選3試合で35分ハーフの戦い。暑さを考慮したレギュレーションでしたが、試合時間が短くなる分、一つの流れが一気に試合を左右することにつながります。先に点を取った方が勢いに乗ってしまうので、最初に失点しないように、決め切れなくてもカウンターで決められないように。そのマネージメントは大会前に選手たちにも伝えました。
――大会を振り返ると?
大会を通じて内容も結果も求めるなか、うちの良さを出すことが出来ました。1試合を通じてハードワークを積み重ねた結果が優勝につながったなと思います。また、プレミアリーグも含めてですが、ボランチ2人(2年大貫琉偉選手、2年福岡勇和選手)の貢献度が高かったなと感じています。今大会も2人のところでボールを回収したり、球際で負けない、ハードワークをしてくれていた。最後の決勝では福岡選手がゴールまで取れて、本人としてもチームとしてもすごくうれしい得点でした。
――福岡選手はムードメーカーでチームに欠かせないキャラクターです。彼が大舞台で結果を残したのはチームにとっていい影響があったのでは?
チームに欠かせない存在で、汗かき役としてチームのために戦える選手です。彼の活躍に他の選手たちも喜んだし、最後もいじられていましたが(笑)、そういうキャラクターの選手が最後に結果を残す活躍をしたことは、チームとして一つになる要素かなと思います。今年のチームは個性の強い選手が多いですが、今大会はいろいろな個性がまとまって、チームとしての団結につながったなと思います。

アカデミーの“積み重ね”を表現することが大事
――2016年からアントラーズアカデミーの指導者としてジュニア、ジュニアユースの監督・コーチを務めてきました。今年から自身初となるユース監督に就任。どのように臨みましたか?
長く在籍して感じるのは、“積み重ねがある”ということ。これまで指導してきた多くのスタッフが積み重ねてきたことを表現することが第一だなと考えていました。何か特別なことをやろうということではなく、持っている力、そして今までやってきたことを出してあげること。そこを意識して入りました。
――ジュニア、ジュニアユースでの指導経験がある分、違和感もなく?
そうですね。昨年もユースの試合は見ていたし、ジュニアやジュニアユースのときに指導した選手もいたので、選手の特徴も頭に入っていました。
――チームが始動してどんな印象でしたか?
プレシーズンでいろいろな大会に出場したのですが、選手の能力は非常に高いと感じました。各年代の日本代表にも選ばれているし、力のある選手がいるなというところで、プレシーズンもある程度いい状況で日々を積み重ねることができた。それぞれの力を出せればプレミアリーグでもいいところまで行けるなと考えていました。ただ、代表活動などで抜ける選手もスポットで出てくるので、そういったときに代わりに出る選手たちの底上げもすごく大事になると感じていました。当然、“力があるから試合に出られる”という前提ですが、今のところプレミアリーグでスタメンの選手に代わって出た選手たちの活躍で勝利を引き寄せられています。そこはチーム全体のモチベーションとしていい形で進んでいるなと思っています。
――プレシーズンが12月から3月末までと非常に長い期間でした。どのような調整を?
ものすごい数の試合をこなしました。3年生の大川佑悟選手、2年生の吉田湊海選手、元砂晏翔仁ウデンバ選手、1年生の髙木瑛人選手、大下幸誠選手が代表や選抜の活動でチームを抜けるタイミングもありましたが、チームとしては特別に戦術を落とし込むということではなくて、個人の能力を上げていくところにフォーカスしていました。試合でも前からバンバンプレッシャーをかけるし、攻撃だったら前にチャンスがあればどんどん出ていく。プレシーズンはフィジカル面も含めて、追い込みながら、鍛えながらという感じでしたね。
――プレシーズンが3カ月ほどありましたが何試合ぐらい?
数えたら42試合やっていました。大学生と試合を重ねるところからスタートして、そこからは広島遠征。帰ってきて卒業旅行を兼ねたオーストラリア遠征。プロのチームと試合をやらせてもらって、終わったらJヴィレッジカップ。帰ってきて今度は沖縄遠征。その後も鹿嶋市長杯、船橋招待に参加してシーズン開幕を迎えました。開幕前にかなり仕上がっていましたね。
プレシーズン合計42試合
練習試合 8試合
広島遠征 4試合
オーストラリア遠征 5試合
Jヴィレッジカップ 8試合
沖縄招待 6試合
鹿嶋市長杯 5試合
船橋招待 6試合
――なるほど、いい準備ができたのですね。
そうですね。数多くの試合をこなすことで、個の力といろいろな選手の組み合わせを見極めながら、全体として底上げをすることで公式戦を迎えることが出来たかなと思います。
上のレベルへ導く日々の指導。「これが出来たら次はこれがあるよ」
――中野監督自身、初めてユース年代の監督となりました。コーチでの指導はありましたが、他の年代との違いを意識して指導されているのですか?
ピッチ内のところに対してはより緻密に細部にこだわってやらないと難しいのかなと感じます。ジュニアやジュニアユースだと、ちょっと感覚的な部分だったり、目で見せることが大事かなと思っていたのですが、ユース年代になるといろいろな知識も入っています。より頭で理解させることが必要で、知性の部分も大事なのかなと思います。
――伝え方のところ?
そうですね、伝え方や与える情報の種類を意識しています。例えば映像の見せ方は大事だなと思っていて、いろいろな映像を見せて刺激を与えています。チームとしてのいいところや悪いところを見せるのもそうだし、日本代表選手のハードワークしているシーンをピックアップして、「代表の選手がやっているんだから、当然僕らもやらないとダメだよね」という伝え方をしています。
――感覚から具体的に表現して伝えると受け取りやすそうですね。
サッカー観を広げてあげることが、ユースでは大事なのかなと思います。やはり選手それぞれに得意なプレーがあるし、ユース年代ではそれぞれの主張も出てきます。それぞれの武器や主張を指導者が活かしてあげることも必要です。ただ、それだけだとチームとしてなかなかまとまっていかない。みんながみんな、ゴールを取りたいとゴール前に行っても当然うまくいかないわけです。そこで、チームのためのハードワークの必要性や、ゴールに向かわないけれどフリーランニングで相手のラインを下げることだったり、11人で戦うことの重要性を理解してもらうことも意識して伝えています。
――ピッチ外でチームとしての考えを伝えながら、シーズン前も個の能力向上に特化したということでしたが、実際にピッチ上ではどんな練習を積み重ねているのですか?
これはアントラーズアカデミーとして大事にしていることですが、やはり目標は“トップで主役となる選手育成”です。対人形式の練習をたくさんやりながら、当然1対1では負けない。守備では1対2でも守り切れるように。攻撃であれば1対1では1人剥がせるように。プレッシャーが来てもボールを持てるようにしながら、チャンスがあれば攻め込んで決め切ること。プレーの質については、トレーニングの中から突き詰めて取り組んでいます。シュート、ラストパス、クロス、ロングパス、ショートパスの練習は個別でよくやります。当然、選手によってパーソナリティが違うのでアプローチは変わりますが、求めるプレー基準は人によって変えていません。
――プロの技術基準を体感している中野監督はじめ小笠原満男クラブアドバイザー、本田拓也コーチの存在は大きいと感じます。
技術的なところに関しては、突き詰めていけばボランチだったら小笠原クラブアドバイザーや本田コーチのキックです。やはり上のレベルを知るスタッフが多いので、それはものすごく選手にとって良いことではないかと思います。求めれば求めるほど、上のレベルに導ける経験がある指導者がそろっているので、「もっともっとやれる、これが出来るなら次にこれがあるよ」と提示する毎日です。こういうボールが蹴れるようになった、次は巻いて蹴れるように、次は縦回転に蹴る方法もあるし、違う回転もあるよ、という会話が多くある日常はすごくいいなと思っています。そこは今後ももっともっと増えていくようにしていきたいですね。
――日々の会話からレベルが上がっているのですね。
そうですね。選手の中でなんとなく出来るようなことが、より具体的になってよりサッカー感みたいなものが、少しずつ上積み出来てきているのかなと思います。自分たちが過信したら当然ダメですが、本当の意味の自信を持って、自分たちは出来ると実感出来るものが今あるのではないかと思います。
理想は相手陣地でサッカーをし続けること
――改めて前半戦を終えましたが、振り返って現状のチームの手応えは?
昨年までのアントラーズユースの良さを継続して出すというところで、守備のハードワークや強度の部分はある程度出来てきたのかなと思います。シーズンが序盤から中盤になるにつれて、徐々に自信を持ち始めていると感じています。やはりボール保持の時間を長くすることや、押し込むことが出来るようになってきました。攻撃の時間が少しずつ長くなっています。今やボールを持つことに対して、自信を持ってやっているなと感じます。プレミアリーグの流通経済大学付属柏高校戦やFC東京U-18戦もそうですが、ボールをずっと保持しているなか、カウンターでやられたりすることもありますが、やはりボールを握る時間を長くして押し込んでというところに関しては、ある程度自信を持ってみんながやれています。あとはカウンターを受けたときにしっかり潰すところや守り切るところ。カウンターを受ける前に相手陣地で止めるなど、より一歩進んだサッカーが出来つつあります。
――前からプレスをかけて、相手陣地でサッカーをすることが目指すところでしょうか?
そうですね、理想はプレッシャーをかけて、そこからずっと相手陣地でサッカーをし続けることです。相手の背後に対していかに早く入るかという引き出しを持ちつつ、間にうまく入っていって、そこから展開して二次攻撃だったり、サイドに展開してクロスを上げたりが出来ています。あとは中央のところで、いかにコンビネーションで崩していくか。そこは必要かなと思っているのですが、今はサイド攻撃からよく点が取れているので、その精度を上げていくことを考えています。加えて、例えば押し込んだときに、相手がいっぱいいるところを、中央からサイドに展開して揺さぶることで、一度相手を広げてから空いた中央を攻めることも、レベルを上げていく上では必要なことだと考えています。
――課題はやはり前線で奪い切ることと、カウンターのリスクヘッジでしょうか?
奪われた瞬間に2人、3人が奪い返してという回数も、プレミアリーグのFC東京戦では実はすごく多くて。そのまま抜けられたとしてもプレッシャーがかかっているので、苦しまぎれになったところでカット出来ているので、さらにもう一つ精度や強度、そして予測力を上げていければと思っています。あとは試合中にどうしても何回かは抜けられてしまうことがあると思うので、そうなったときに、1人で守り切れる個人能力や個人戦術を上げていくこと。やはりうまく時間をかけても守り切れなければ意味がありません。カウンターでやられて、それで負けに直結する可能性も出てきます。他のチームは夏から成長してくると思うので、そこの精度を上げていくところが必要かなと思っています。
ワンプレーの精度を上げることが、自然と勝利につながる
――夏はアカデミー年代にとってものすごく成長の度合いやスピードが上がる大きなタイミングになります。後半戦に向けて、どのような強化を進めていこうと考えていますか?
特別に何か決めているわけではないのですが、やはりそれぞれのレベルアップですね。クロスの精度、シュートの精度、ラストパスの精度を上げること。そこを意識してやっていければと思っています。今年はプレミアリーグに加えてBチームがプリンスリーグ関東に参加していますが、やはりそこが全体のボトムアップに繋がっているなとすごく感じています。1、2年生を中心に戦っているのですが、関東なので当然レベルも高いなか、その強度に慣れてきた1年生がここ1、2カ月でグッと成長してきています。やはりプリンスリーグで戦う意義や価値をすごく感じますし、後半戦に向けても今出ている選手以外の台頭が楽しみですね。
――チーム全体の成長はコーチ陣を含めていい指導体制が出来ているからではないでしょうか。どのような体制で指導しているのですか?
基本的にトレーニングからAチームとBチームに大きく分けて指導しています。プレミアリーグを戦うAチームは僕が中心となって見ながら、プリンスリーグを戦うチームは本田コーチ、小笠原CAに見てもらう分け方もありますし、最近は一緒にやったりもしています。チームの状況を見ながら振り分けているといった状況ですね。本当に経験があるスタッフばかりなので、僕としては安心して皆さんに各セッションをお願いすることができています。セットプレーとか攻撃や守備など、セッションごとに分けていろいろなスタッフが全体を見ている形が出来ています。フィジカルは里内さんと大岩コーチが毎日見てくれているし、スタッフ全体でやっている感覚がありますね。
――これから後半戦が始まる首位を走るプレミアリーグがますます楽しみです。
半分が終わって、みんな選手として成長している部分があると思います。成長のために結果を求めていくことは必要なことですが、やはり一番はプロになるために必要なことをしっかりやっていくことがもっとも大事だと思っています。自分の武器やできることを増やしていって、短所を埋めていく。その作業を継続出来れば、自然と勝つ確率は上がると思っています。やはり個々のレベルアップを各個人がしっかりと意識して取り組んでいくことが一番ですね。そうすればチームの結果はおのずとついてくると思うし、優勝しても選手が成長していないのであれば意味がないと思うので。選手が成長して、出来ることが増えて、その結果優勝できたというのが一番クラブとして大事かなと思います。1試合1試合をやり続けるしかないと思うし、1日1日を積み重ねていくしかありません。選手は日々成長していいサッカーが出来ているので、ぜひアントラーズサポーターの皆さんにも試合を見に来てもらえたらうれしいです。