
「Obrigado! ユース3年生」 第2回
GK菊田 修斗/GK黒澤 奨永
DF大川 佑悟/DF近藤 大祐/DF朝比奈 叶和
三冠の舞台裏で、ユース3年生たちはお互いをどう見ていたのか。用意されたカードのテーマを手がかりに、仲間が仲間を語り描いた物語。練習、試合、日常の一場面から浮かび上がるのは、14人それぞれの輪郭だった。数字や結果だけでは伝わらない、チームを支えたパーソナリティとは。(第2回/全4回)
GK 菊田 修斗

規律と応援の間で学んだ、チームの支え方
「菊田はあの試合でしょう」(髙木輝人)
7月29日、クラブユース選手権準決勝のFC東京U-18戦。90分で決着つかず、PK戦へともつれ込んだ。ここで存在感を示したのが菊田修斗だった。2人目と4人目のPKをストップし、決勝進出に導いた。“流れを変える存在”になった瞬間だった。
チームメイト誰もがその存在とうなずくのはそれだけではない。
プレミアリーグファイナルでメンバー外。菊田修斗は最後の最後にピッチに立てなかった。それでも試合当日、逃げるように距離を取ることはしなかった。スタンドへ向かい、誰よりも早く声を出す側に回った。キックオフの瞬間、不思議と気持ちは切り替わったという。
「試合が始まったら、もう“勝ってほしい”という気持ちしかなくなりました」
先制点でスタンドが一気に沸き、失点しても応援は止まらない。PK戦に突入したときも、ピッチ外の選手たちは声を枯らし続けた。勝利が決まった瞬間、出場していない選手も含めて全員が一体となった。
自分のミスでピッチに立てなかった悔しさがあった。それでも、チームの一員として戦える場所は確かにあった。ここでも流れを変えた。
ゴールマウスの中だけが、GKの戦う場所ではない。2025年、菊田修斗は“支える側”としての覚悟と責任を学んだ一年になった。
GK 黒澤 奨永

言葉はいらない。日本一の基準を背中で示す
「黒澤は背中で引っ張る」(近藤大祐)
3年生座談会で自然と出てきたこの言葉が、黒澤奨永という選手をもっとも端的に表している。
毎週火曜はフィジカル練習だった。坂道ダッシュの帰り道、誰もが歩きに切り替える場面でも、黒澤だけは走り切った。無理をしているように見えるわけでもなく、ただ当たり前のように前へ進む。
「引っ張ろうとか、全然考えてないです。一生懸命にやっているだけでした」
だからこそ、その背中は効いた。誰かを鼓舞する言葉がなくても、「あいつがやっているなら」という空気が生まれる。口数は少ないほうだ。それでもチームメイトから愛されるがゆえ、みんなが背中を見て続く。結果として、練習の強度は自然と上がっていった。
意外な一面として明かされたのが、「実は緊張しい」というスタッフ情報だった。本人もそれを否定しない。
「正直、緊張はします。でも、それを出したくないっていう気持ちはあります」
緊張を抱えたまま、淡々とやるべきことをやる。それを毎日続けられること自体が、黒澤の強さだ。
日本一の練習は、誰か一人の才能で生まれるものではない。だが、その基準を無意識に体現し続けた存在がいたのも確かだった。
DF 大川 佑梧

基準を下げない。キャプテンの役割
練習の空気が少し緩んだ瞬間、真っ先に声を上げた。大川佑梧の言葉は、怒りからくるものではなく“基準”だった。
「質が落ちていると、すぐにもっと上げろと檄を飛ばしてきた」(中川天蒼)
日常の練習でバチバチにやり合うのが当たり前のなか、基準を示し続けるのは簡単ではない。それでも、大川は一貫していた。質が落ちれば指摘し、強度が下がれば引き戻す。その姿勢が、練習の当たり前を作っていった。
準備へのこだわりも人一倍強い。試合前日の過ごし方や食事内容、カフェインの摂り方まで、AIに聞いて細かく確認していたという。チームメイトから「そこまでやるか」と驚かれながらも、その姿勢は“勝つための準備”そのものだった。
クラブユース決勝前日、自然と行われた選手ミーティングのときのこと。試合に向けて気合いを入れるはずの場で、正木が支えてくれる人の存在への感謝の言葉が空気を変えた。
「そんなつもりはなかったんですけどね。支えてくれている人たちのことを言葉にしたら……自然と」(正木裕翔)
思わぬ感情が溢れた。まだ何も勝ち取っていない。その段階で、キャプテンの目に涙が浮かんだ。背負ってきたものの重さ。このチームで勝たなければならない理由。それらが一気に込み上げた瞬間だった。
勝つ前に泣けるのは、準備ができている証とも言える。大川佑梧は、言葉と姿勢でチームの軸をつくり続けたキャプテンだった。
DF 近藤 大祐

明るさと誠実さで、日常を積み重ねる
2024年8月、勝って次のステップへ進んだ試合後のことだ。ちょうど誕生日を迎えた曽ケ端準GKコーチに水をかけようという流れになった。みんながボトルに手をかけると、「近藤がいない!」。その直後、バケツを持った近藤大祐が現れた。
「全部、かけました(笑)」
ボトルではなくバケツ。遠慮はないが、悪意もない。2年時のことだったが、もっとも近藤を表すエピソードとして3年生みんなの記憶に残る。チームメイトからは「いつも明るい」(髙木輝人)「常に面白い」(三浦直人)という声が次々に挙がるキャラクターだ。
一方で、近藤は自主練を欠かさない選手でもある。平日は朝と練習後、土日は練習後にピッチへ向かう。誰かが行けば、そこにはいつも近藤がいた。
「やろうと思ったら、自然とグラウンドへ行っています」
黙々と続ける日常に、派手さはない。だが、その積み重ねがコンディションを整え、安定したプレーにつながっていた。練習では真面目に取り組み、それ以外の時間では人を笑わせる。その切り替えが、チームの空気を柔らかくしていた。
明るさと誠実さ。その両方を自然体で持ち合わせる近藤大祐は、日常の積み重ねでチームを支える存在だった。
DF 朝比奈 叶和

1対1で、チームの流れを守る
クラブユース選手権、準決勝のFC東京U-18戦。対峙する相手はJ1最年少出場記録を更新した北原慎だった。それでも関係ない。朝比奈叶和はサイドでの1対1に勝ち続けた。
「負けたくなかった。ただそれだけでした」
彼が1対1で勝つたび、味方は前を向けた。守備が安定することで、攻撃は迷いなく仕掛けられる。朝比奈の存在は、チーム全体のリズムを整えていた。チームメイトは口を揃える。
「このチームで1対1といえば朝比奈」「日本一のサイドバックだと思う」
同サイドの中盤で組んだ中川天蒼は全幅の信頼を寄せた。
「北原選手を完封してくれた。あそこで朝比奈が負けちゃうと自分も守備に戻らないといけない。それを全部勝ってくれたので、攻撃に集中することができた。点を取れたのも自分と朝比奈と吉田とかいろいろ関わっていい連携が取れたおかげ。まず朝比奈の守備があったからこそ流れが生まれたなと思います」
彼がサイドで勝ってくれるから、攻撃に人数をかけられる。その信頼が、自然とチーム全体のプレーの選択肢を広げていた。
昨季、彼は自分のミスから失点し、優勝を逃す経験をしている。その悔しさは、今も忘れていない。
「今年は、チームを助けられる選手になりたかったんです」
派手なプレーではない。だが、対面する相手に確実に勝つ。その積み重ねが、チームメイトの信頼へと変わった。朝比奈の1対1は、相手の攻撃を止めるだけではない。チームを前へ押し出す“静かな起点”だった。