SPECIAL INTERVIEW
ジュニアユース年代の育成
つくばジュニアユース 山尾光則監督

アントラーズアカデミーでは中学生年代まで、鹿島、ノルテ、つくばの3カ所で多くの子どもたちが切磋琢磨している。
人の成長とともに、各年代でまた違ったアプローチが必要となる指導において、アカデミースタッフはどのようなことを考えながらフットボールに向き合っているのか。
つくばジュニアユースを率いる山尾光則監督の指導論に迫る。
動きながら、速く、正確に
―まず、山尾監督のこれまでのキャリアを教えてください。
「大学卒業後の2016年に名古屋グランパスに加入しまして、その後はヴァンフォーレ甲府、FC東京、セレッソ大阪、横浜FCでプレーしました。引退してからは指導者として、自分の育ったクラブである愛知FCに戻り、高校生の指導にあたりました。それから愛知FC一宮ジュニアユースの監督を務め、尾張クラブ、モノリスFCという街クラブでもジュニアユース、ユース年代の育成に携わりました。それと並行して愛知県のユースダイレクターという仕事も行い、国体の愛知県選抜チームでも監督になりました」
―豊富な指導歴をお持ちですね。
「ちょっと多いかもしれませんね(笑)。また、国体で監督を務めた後は1年間、ドイツに研修にも行きました」
―ドイツでは、どのような活動をされていましたか?
「育成環境も含めて、ドイツがどのように選手育成に取り組んでいるのかを学びにいきました。ドイツ南西部のザールラント州にある5部リーグのクラブにお世話になり、主に指導の勉強していました。5部リーグのクラブなのに天然芝と人工芝のピッチを1面ずつ持っていて、そこのクラブハウスに住まわせてもらっていたんですよ(笑)。当初はあまり言葉がわからなかったのですが、だんだんと話せるようになってくると8歳以下の子どもたちのスクールを担当させてもらえるようにもなりました。さらに、選手としてその5部リーグのチームの試合や、セカンドチームの試合に出場したりもしましたね。また、アントラーズOBの内田篤人さんも在籍していたシャルケのアカデミーの活動を見たり、ドイツサッカー協会が海外の指導者向けに実施していたセミナーに参加したり、日本でいうトレセンのような活動も現地で見ました。ドイツから戻ってきてからは、静岡県御殿場市で活動していたJFAアカデミー福島のU-18監督になり、U-13、U-15チームも指導し、FC岐阜ではヘッドオブコーチングとして働きつつ、2年目はU-15監督も兼任しました」
―以前はアントラーズアカデミーにどのような印象をお持ちでしたか?
「JFAアカデミー福島を率いていたときに高円宮杯でつくばジュニアユースと対戦し、0-2で負けました。そのときの印象から、つくばジュニアユースは選手が勝負強かったり、勝ちに対して粘り強かったり、やはりトップチームと似ていると考えています。当時のJFAアカデミー福島は東海地方で優勝して大会に臨んだチームだったのですが、1点も取ることができませんでしたので、つくばジュニアユースには中学生ながらもしぶとさや勝負強さを持っている選手がいるように感じました」
―実際につくばジュニアユースの監督となり、このチームの特徴や特異性をどのあたりに感じていますか?
「まず、関東の選手たちは基本的な技術レベルが高いと思います。それは、この地域はフットボール人口が多く、それゆえに競争相手も多いのだから当然のことなのかもしれません。そのなかでもつくばジュニアユースの選手たちはボールを扱うテクニックや、ボールを上手に蹴る技術に秀でていることが第一印象としてありました」
―2023年8月のブラジル遠征では鹿島やノルテの選手も指導されましたが、アントラーズのアカデミー全体にはどのような特徴があると感じますか?
「やはり勝負にこだわる姿勢だったり、あきらめずに戦う姿勢だったりを強く感じます。それはこのクラブとして選手たちに求めていることであり、特に鹿島ジュニアユースの選手たちから強く感じました」
―アントラーズには献身・誠実・尊重というフィロソフィーがあるなかで、これまで他のクラブで活躍されてきた山尾監督が指導において心がけていることは?
「ジーコCAの言葉にも“尊重”とあるように、チームスポーツであるフットボールでは周りの選手たちを尊重しながら自分のプレーを発揮することが大切だと考えています。自分のプレーだけに集中しすぎて周りの選手との関係性を疎かにすることなく、周りの選手の良さも引き出して、自分自身もストロングポイントを示す必要性があるでしょう。また、“献身”という言葉のように、チームのために戦うこと、仲間のために走ることも重要です。選手たちがそういったメンタリティーを持ってプレーするように、指導においても心がけています」
―そのメンタリティーをつくばジュニアユースの選手たちにも植えつけるために、工夫されていることはありますか?
「僕自身のトレーニングメニューは、もしかしたら一度に関わる選手の人数がやや多いのかもしれません。それは、先ほどの話題に出たように、周りの選手との関係性を常に保ちたい狙いがあるからです。そういったトレーニングの方法を工夫しています」
―これまでの指導経験も踏まえ、ジュニアユース年代の指導において大切なのはどのようなことだと思いますか?
「技術面では選手が動きながら、速く、正確にプレーすることが大事になってきていると思っています。なぜなら、現代フットボールではスペースがなくなっているし、インテンシティーも高く、プレースピードが上がり、攻守の切り替えも速いからです。そのなかでクオリティーの高いプレーが必要になります。また、先ほども言ったようにメンタリティーの部分もすごく大事です。中学生は大人になっていく過程の年代なので、僕はいつも選手たちに自立しようと話しています。オン・ザ・ピッチでもオフ・ザ・ピッチでも、常にそのときの状況を見て、自分で何をすべきかを考えて行動に移せるような選手になること。例えば、ピッチ上では小さな変化に気づき、それに応じて自分のプレーを変えることのできる選手、ピッチ外では率先して道具を片付けたりすることができる選手。ピッチ上とピッチ外の行動はつながっているという考えのもと、そういったメンタリティーを身に着けることを選手たちに要求しています」

育成年代のゴールはここではない
―山尾監督自身、指導者として強く意識していることはありますか?
「指導者である前に、一人の大人として選手たちにリスペクトされるような行動を示していくことを意識しています。フットボールの指導者としては、競技を通じてそれを示していくことが大事になるでしょう。フットボールのプレー面の指導をしていきつつも、選手たちに自然と“あのような大人になりたい”と思ってもらえるような存在であり続けなければなりません。僕は、経営者の松下幸之助さんの本が好きで、よく読んでいまして、そのなかで“率先垂範”という言葉が出てきます。“先頭に立って模範となる”というような意味合いの言葉です。松下幸之助さんは経営のトップにいた方なので、やはりトップに立つ人がそういった姿勢を見せないと下の人はついてこないだろうと、強く考えさせられています」
―常に模範となる行動を心がけることが大切なのですね。
「それは選手たちにも伝えていることです。選手だって、いつ、誰に見られているのかわかりませんから。もしかしたら日本代表の監督に見られるときがあるかもしれないし、時にはスカウトの人に見られているかもしれない。フットボールの世界とはそういうものです。オフ・ザ・ピッチの場面においても、常にアントラーズのエンブレムを背負う選手としての自覚を持って行動しなければいけませんよね。他人に見られていることを意識することで、彼らの行動にも責任がともなってくるだろうと期待しています」
―また、育成年代でよく議論されるテーマである“結果を追い求めることと、結果だけにとらわれないこと”についてはどのように考えますか?
「難しいテーマですが、選手たちには常に勝利を目指してピッチに向かわせたいです。ただ、目先の結果にとらわれすぎるとプレーが単調になり、選手の能力が伸びにくい弊害も少なからず生じてしまうことでしょう。我々のような育成年代の指導者の一番の目標は、選手たちがプロになるように成長させることですから、大前提としてそこから逆算しなければいけません。本当に難しいことなのですが、一番は選手たちの将来を見据え、育てながら勝つこと。どちらかの考えに偏るわけではなく、そのバランスを取りながら取り組んでいくことが大切なのではないかと考えています」
―敗戦から学ぶものの大きさをどのように捉えていますか?
「“勝って自信を得る、負けて経験を得る”という印象深い言葉があります。負けることによって、選手たちは悔しがり、そこからまた努力しようという気持ちになりますよね。一方で、勝てば自信はつくでしょうが、それが過信に変わり、努力をしようとする気持ちが疎かになってしまうリスクもはらんでいるように思うので、時には負けることもすごく大事な経験ではないでしょうか」
―最後に、つくばジュニアユースの選手たちへの思いを聞かせてください。
「今年度の3年生も高い能力を備えた選手ばかりです。ただ、その能力を最大限に発揮させられなかった思いもあります。話題にも挙がった自立することだったり、メンタリティーの部分がさらに成長すれば、彼らはより能力を発揮できて、もっとフットボールの喜びを感じるはずです。彼らにも直接伝えたことですが、育成年代のゴールはここではありません。日本だと高校を卒業する18歳、あるいは大学を卒業する22歳のときが、プロになれるか否かの分岐点。そこに向けて、高校の3年間がプロになるための勝負の時期になります。現在の中学3年生は、ここからの3年間をより頑張ってほしいです。また、来年もつくばジュニアユースで活動する現在の1、2年生とは、新チームでもまとまって戦っていきたいです。選手たちはこの中学3年間でフットボールに没頭し、最後までやり切ってほしい。彼らもさらに成長した姿を見せてくれることを期待しています」
