常に前を向いた体勢で
佐野 海舟インタビュー
特集
佐野 海舟
中盤の底で披露するダイナミックかつパワフルなプレーで、アントラーズ加入後すぐに周囲の信頼を勝ち取った佐野海舟。
背番号25が掲げるボランチとしての奥義、理想の選手像に迫る。
攻撃時に強く意識している
岩政監督からのアドバイス
シーズン序盤は思うような結果が出せない時期もありましたが、新潟との明治安田J1リーグ第9節以降は安定した試合運びができています。
「新潟戦以降は、見ていてもプレーしていても〝やられない雰囲気〟が感じられます。開幕当初は、試合の終盤になると失点してしまいそうな気配が漂うこともありましたが、今はそういうことがないし、チーム全体として守るべきポイント、試合の流れを決めるポイントを認識しながらプレーできている感覚があります」
共通認識を高めるうえで、岩政監督からもアプローチがあったのでしょうか?
「そうですね。選手同士の距離感、みんなで連動すること、どこでボールを奪うのかというポイントを大事にしています。特に最近は、まず中央のエリアをしっかり守るということをチームとして体現できているので、崩されるようなイメージがありません。また、お互いの距離感が近いことで、ボールを奪ったあともいい形で攻撃に移ることができています」
佐野選手のプレースタイルにも合っているような気がします。
「ボールを奪った直後に、パスをつけられる選手が近くにいてくれるというのは、自分としてもすごくやりやすいです。距離感が近いと、守備から攻撃に切り替わった瞬間に複数の選手が連動しながら攻め上がっていけますが、遠いと一人ひとりが孤立してしまって、すぐに奪い返されることもありますからね」
岩政監督に対する印象を教えてください。
「守備の面では、約束事を明確に提示してくれます。それがチームにすごく浸透してきたからこそ、いい結果に結びついているのだと思います。どちらかといえば、守備に重きを置いているようなイメージを持っていますが、ビルドアップの部分をはじめ、攻撃面でも僕らがチャレンジしやすい環境を作ってくれています。また、選手個々に求めていることをストレートにわかりやすく伝えてくれるので、とてもやりやすいです」
佐野選手に向けられた言葉で、特に印象に残っているものを挙げるとすると?
「シーズン当初は守備面についてアドバイスや指摘をしてもらうことが多かったんですが、最近では攻撃面について声をかけてもらうことが多いような気がします。『前線に出ていって何か変化を起こせるような選手になることができれば、もう一つ上のレベルにいけるだろう』と言ってもらえたので、個人的にも強く意識しています」
浦和との明治安田J1リーグ第16節では、10分過ぎに相手のエリア内に進入して、フィニッシュまで持ち込むプレーがありました
「大樹さん(岩政監督)の言葉を聞くまで、前に出ていくようなプレーはあまりしませんでしたが、今では守備面が特長の自分があえて攻め上がっていくことで、相手の裏をかくこともできるし、チームにもいい影響を与えられるのではないかと考えています。ただ、あのシーンは決め切らなければいけませんでしたね(苦笑)。これからはフィニッシュの精度をもっと高めて、攻撃面でもチームに貢献し、勝負を決められるような選手にならなければいけないと思っています」
小学生のころからやっていた
相手選手との細かな駆け引き
佐野選手が考える、現代フットボールのボランチに必要な要素とは?
「真ん中のポジションなので、すべてのことをやらなくてはいけません。僕の特長は守備の部分になりますが、今や守備だけに専念していればいいという時代ではありませんからね。自分らしさを生かして守備のタスクもしっかりとこなしつつ、先ほども話したとおり攻撃にもどんどん出ていって、点も奪えるような選手でないと、今の時代はより高いレベルには上がっていけません。だからこそ、自分の特長をしっかりと発揮させながら、試合中のすべての場面にかかわることができるぐらいのボランチになりたいですね」
子どものころからボランチ一筋の佐野選手ですが、学生時代はどのような選手に憧れていましたか?
「エンゴロ・カンテ(チェルシー/イングランド)です。もはや、『カンテのプレーしか見てこなかった』と言ってもいいくらい、カンテに注目していました。ボランチとして非常に守備力が長けた選手でありながら、意外と点も取れるし、勝負を決めるようなプレーもする。僕のなかではまさにお手本ですね」
佐野選手のプレーのなかで印象的なものの一つに、インターセプトがあります。あのポジショニング、的確な読み、鋭い動き出しはどのように培ってきたのでしょう?
「インターセプトを狙ううえでの相手との駆け引きは、小学生のころからやっていました。あえてパスコースを空けておき、ボールが出る瞬間に動き出してカットするようなプレーですね。ただ、対戦するチームや選手のレベルが上がっていくにつれて、そういった駆け引きは難しくなっていきました。自分の感覚で動き出し、ボールを奪えるときもあれば、奪えないときも増えていったので、それぞれの要因を比較して考えることで、成功の回数を増やしていった感覚があります」
失敗を糧に成長を続けてきたんですね。
「そうですね。今にも通じることですが、逆にボールを奪えなかったときのほうが、個人的には楽しんでいるような気もします。『相手選手は、あの瞬間に何を考えていたんだろう?』とイメージしてみたり」
守備面でいえば、佐野選手の球際の強さを挙げないわけにはいきません。フィジカルコンタクトの瞬間は、どのようなことを意識しているのでしょうか?
「特別に意識しているようなことはありません。ただ、あまりそういうタイプの選手には見えないかもしれませんが、『目の前の相手に絶対に負けたくない』という気持ちが、僕のなかではものすごく大きいんです。小さなころから、とにかく負けるのが嫌だったし、それが今の自分へとつながっているようなイメージです。だから、体をぶつける際に何か意識していることや、特別なやり方があるわけではなく、ただただ相手に勝つこと、必ずマイボールにすることだけを考えています」
攻撃面では、ボールを持ったときの選択肢の多さとともに、ギリギリまで最善のプレーを選択しようという意欲が感じられます。
「ボールを持った瞬間は、まず遠くを見ることを意識しています。『次はあの選手にパスを出そう』と決めつけてしまうと、他の有効なスペースは見つけられませんが、遠くを見ていれば、自然と近くのエリアも視界に入ってくる。だから、まずは相手ゴールを見ます。それによっていろいろな選択肢が生まれているのだと思います。また個人的には、『ボールを奪う瞬間の工夫一つで、スムーズに攻撃へと転じられる』ということも常に考えています。やっぱり、うしろ向きでボールを取ると、すぐには前を向くことができないし、選択肢も限られる。だから、できる限り前向きの体勢で相手にアプローチし、相手ゴールに向かってボールを奪うプレーを意識しているんです」