止まらず、動き続ける
樋口 雄太インタビュー
特集
樋口 雄太
無尽蔵のスタミナと機動力を持ち味に第17節までのリーグ戦すべてに出場している。
その特長が示すように、プレーエリアは中盤だけでなくピッチ全域に及ぶ。
樋口雄太は、アントラーズのダイナモとして止まらず、動き続ける。
距離感よく密集している
アントラーズは負けない
チームは明治安田生命J1リーグ第5節の横浜FM戦から4連敗を喫しました。しかし、第9節の新潟戦からは5連勝し、第17節の湘南戦まで9戦無敗を続けています。今季すべてのリーグ戦に出場している樋口選手から見て、何が変わったのでしょうか?
「連敗していた時期は、僕自身もチーム全体もネガティブになっていました。チームの雰囲気としても、『次の試合も負けてしまうのではないか』といった空気が漂っていたように思います。そうした状況のなか、(第9節の)新潟戦の勝利が、再び自信を取り戻すきっかけになりました。また、その試合でチームの戦い方が整理され、ピッチに立つ選手たちも迷いなくプレーできるようになりました。チームのベースである全員守備、全員攻撃をすることによって、チームがまとまり、その後の5連勝につながったと感じています」
チームとしてのプレーが整理され、選手個々が同じ方向を向けるようになったことが、復調の大きな要因になったと?
「アントラーズには、チームのために『自分が何とかしたい』と思っている選手が数多くいます。勝てない試合が続くと、それぞれにその意識が強くなりすぎて、個々はチームのためを思ってプレーしているけど、その足並みがそろわなくなってしまっていたところがありました。チームとしての戦い方が整理されたことにより、チームとして力を出すベクトルがそろい、その出力もより強くなったと思っています」
では、チームの戦い方として整理されたのは、主にどういったところだったのでしょうか?
「まずは、守備が整理されたことが大きいと思っています。チームとして集中してボールを奪いにいく姿勢や状況、エリアの意識が統一されました。一つ例を挙げるとすれば、ボールを奪いにいっているサイドとは、逆のサイドにいる選手が中へと絞ることで、中央を空けない守備をするようになりました。大樹さん(岩政監督)はよく、『ヘソを空けない』という言い方をするのですが、相手に中央から攻め入るスキを与えない守備ができていることが、失点の軽減にもつながっています」
一方、攻撃で変化を感じているところはありますか?
「ボールを奪ったあとに、みんなが休むことなく、攻撃に打って出るようになりました。それにより攻守のつなぎ目がなくなり、チームとして連続したプレーができています。守備から攻撃に転じたとき、ボールを持っていない選手も走っているので、相手のマークを引きつけることもできています。FWをはじめ、前線の選手にボールが入って、アクションを起こしたとき、僕ら中盤の選手たちもそれに続くことができ、さらにサイドの選手も追随してくれているので、迫力ある攻撃が展開できるようになっています」
まさに攻守が一体になっているのですね。
「攻撃だけでもなく、守備だけでもない。守から攻、攻から守がつながっているからこそ、安定した守備も、迫力ある攻撃も構築することができています。特に2─0で勝利した名古屋戦(第13節)のあと、個人的に思ったことがありました。僕はまだアントラーズに加入して2年目ですが、アントラーズが強いときというのは、選手が狭いエリアに密集しています。名古屋はリーグのなかでも強度が高く、当たりの激しいチームだと思うのですが、そうしたスタイルの相手に対しても、距離感よく密集してチームとしてボールを奪えたことで、素早く攻撃に転じられた場面がいくつもありました。そこに強い手応えを感じ、『密集できているときは、アントラーズは負けない』と再認識しました」
プレーエリアを限定せず
ピッチ全域に顔を出す
〝密集〟する状況を作り出すカギを握っているのがボランチではないかと思います。
「ボランチはピッチの中央でプレーするポジションなので、僕らが攻撃の起点であり、攻撃の一歩目を担っているという自覚はあります。ボランチから攻撃のスイッチを入れることができれば、ボールがスムーズに回っている印象があります。特に、手応えを感じた名古屋戦では、ボランチが主導権を握ってゲームをコントロールできたことで、チームがまとまっていたようにも感じました。自分の特長も、さまざまなところに顔を出して、いろいろな場面にかかわっていくことなので、プレーエリアを限定することなく、ピッチ全域に顔を出せる今の役割に、やりがいを感じています。本当にちょっとした気遣いなのですが、パスを出したあとも必ずサポートするために動いています。そうした小さな動きの積み重ねが、チーム全体の流れを作ることにつながっていくと考えています」
試合を見ていると、昨季以上に、常にパスを受けられるポジションを取っている印象があります。
「昨季もその意識を持ちながらプレーしていたつもりですが、今季は周りの選手がより自分を見てくれる機会が多くなりました。実際、自分にボールを預けてくれる回数も増えているので、そこから自分がターンして、攻撃の起点になる場面を作り出せています。あとは、チームメートを助けたいという気持ちが、より強くなっているので、ここにいたらチームメートが助かるだろうなというポジションに動く意識は、昨季よりも強くなっているかもしれません」
第14節からは3試合連続で引き分けましたが、試合に勝ち切るための課題はどこにあると考えていますか?
「(第15節の)鳥栖戦のように、特徴がつかみにくい相手と対戦したとき、同時に自分たちの色も薄れてしまうところが課題だと思っています。タイトルを獲るチームは、どういったスタイルのチームと対戦しても相手を圧倒できますし、自分たちの色やサッカーを示し続けているように思います。もちろん、相手に合わせてプレーすることも大切ですが、自分たちが目指しているサッカーを出せる試合や時間帯をさらに増やしていくことが成長につながると思っています。また、それを貫くことによって、自分たちのサッカーが、スタイルとして定着していくとも信じています」