SPECIAL TALK
小笠原満男テクニカルアドバイザー×柳沢敦ユース監督
特集
小笠原 満男
柳沢 敦
見据える未来について
育成――。それは選手たちの未来を見据えた、日々の地道な積み重ねでもあるだろう。
その一瞬から生み出される収穫と課題を見つめながら、理想の姿を追い求めていく。
トップチームの歴史を紡いできた小笠原満男テクニカルアドバイザーと柳沢敦ユース監督が見据える未来とは――。
発言に責任を持って行動し、成長につなげてほしい
—今年、アントラーズアカデミーを支援するための「アカデミーサポートクラブ」が発足しました。
柳沢まず、このようなアカデミーを対象としたファンクラブを創設していただき、とてもありがたいと思っています。これまで以上に、いろいろな方々にアントラーズアカデミーのことを知ってもらい、より応援してもらえるようになるのではないかと期待しています。
小笠原僕も、すごくありがたいことだと思っています。僕たちコーチングスタッフとしては、選手の能力を伸ばしてあげることはもちろん大事なことですが、それと同時に応援してくださる方々に選手たちの活躍する姿を見せてあげることも大事な役割です。このアカデミーサポートクラブには各チームの試合動画を配信する特典もあるので、映像を通して選手たちのプレーや成長ぶりに注目していただきたいですね。アカデミーの試合は土日に行われることが多く、どうしてもトップチームのJリーグの試合と重なったりするので、ファン・サポーターの皆さんにはぜひ映像でも小中高校生の試合を見ていただきたいです。
柳沢皆さんに試合を見てもらう機会が増えることは、選手たちにとってもありがたいことです。
小笠原プロ選手のような注目度まではいかなくても、より多くの人に見ていただくことで、選手たちのモチベーションも変わってくるでしょうね。やはり、よりしっかりとプレーしなければいけない責任感も生まれてくるはずです。
柳沢僕もそう思います。見てもらえる機会が増えることで、選手たちの間での競争力も高まるでしょうからね。
小笠原ましてや、いろいろな人たちからの評価を得ることで、選手自身は自分のことをより客観的に見ることもできるようになるはずです。例えばユースの選手たちはまだ高校生で、高校生って大人のようで、実はまだ子どもだったりもします。だから、「自分は頑張っているのに」とか「俺はもっとやれるのに」といったように自分本位な考え方になりがちな年代でもある。
柳沢確かに、そういった面はあるかもしれないね。
小笠原それが、より多くの人に見ていただくことで、選手たちは普段のプレーで“ごまかし”が利かなくなる。だから、多くの人たちから多様な評価を受けることは、選手たちが成長するうえで重要なことですよね。
柳沢きっと選手たちも「多くの人たちに自分のことを知ってもらいたい」と思っているはずです。僕自身も子どものとき、たまに自分のチームの名前が新聞に載ったりするだけですごくうれしかったから(笑)。そういった面でも、アカデミーサポートクラブの存在が選手たちに好影響を与えることはすごく多いはずです。
小笠原プロを目指して頑張っている子たちにとっては、いろいろな人たちから見ていただけることによって、より本気になって日々の生活に向き合えるでしょうね。
柳沢ファン・サポーターの方々から声をかけていただいたりすれば、選手たちにはすごく励みにもなると思います。日々のやりがいも感じられるでしょう。だからこそ、より多くの人にこの「アカデミーフリークス」に目を通していただけるとありがたいですね。
小笠原何より、アカデミーの選手たちの名前や、各チームの活動内容を知ってもらえることが一番の良いところです。ユースの選手をはじめ、アカデミーで頑張っている子たちを知ってもらう機会があまり多くはないなかで、アカデミーフリークスによって発信する場が設けられることは貴重なことですよね。
柳沢ただ、注目されることが逆に選手たちのプレッシャーになる可能性も、指導スタッフの僕たちは考慮しなければいけないよね。正直、僕も取材されることは苦手でした(苦笑)。たぶん、あまり好きな人はいないんじゃないかな。満男(小笠原テクニカルアドバイザー)はどうだった?
小笠原僕も苦手でしたね(苦笑)。でも、特にユースの選手たちは、取材を受けて、しっかりと受け答えできるようにはしておいたほうがいいと思います。
柳沢確かにそうだね。みんなが目指しているプロサッカー選手になったら、発する言葉一つひとつに重みが増し、いろいろな人たちに影響を与えていきますからね。僕自身も現役時代に失敗しているので……(苦笑)。自分の意思をしっかりと言葉で表現できなければ、意図したこととは違った意味合いに捉えられてしまう。それはファン・サポーターの方々に受け入れてもらえないことにもつながるので、発信力を磨くことは大切だと思っています。
小笠原何か発言したからには、その覚悟も持たなければいけなくなりますからね。例えば「明日の試合に勝ちます」って宣言したならば、そう発言しただけの覚悟と責任をプレーで示さなければいけない。それは決して悪いことではなく、選手たちには自分の発言に責任を持って行動してもらいたい。そうすることで、さらなる成長につなげてほしいですね。
柳沢本当にそうだね。責任を持って発言することが大事になるので、このアカデミーフリークスは、選手たちが大人になる前に経験を積む場としても活用させていただきたいと思います。読者のファン・サポーターの皆さんには、ぜひ温かい目で選手たちの発信を見守っていただければと思います。
世界にはさらにすごい選手がいることを感じ取ってほしい
—お二人はアカデミーの重要性について、どのように捉えていますか?
柳沢このアントラーズにとって、アカデミーが非常に重要なポジションになってきていることを実感しています。
小笠原アントラーズのトップチームでも、鈴木優磨選手や土居聖真選手らが主力として活躍してくれています。上田綺世選手や町田浩樹選手はヨーロッパに渡り、それぞれ日本代表にも選ばれるなど、頑張っている。これまでにアカデミーが尽力してきたことが実りつつあると感じます。
柳沢ただ、これはアントラーズだけに限ったことではなく、さらに若い年代の育成を強化していかなければいけないとも思います。世界的に見ても16歳や17歳くらいの選手たちが、すでに世界のトップレベルで活躍しているというような現状がありますからね。
小笠原僕は2018年のクラブW杯でリバープレート(アルゼンチン)と3位決定戦を戦ったのですが、そのときに18歳の選手が相手チームで出てきました。メンバー表を見たときは「18歳の選手が試合に出るの? 俺たち、なめられているのか?」と思ったりもしたのですが、実際に対戦してみるとすごくうまくて、一生懸命に頑張っていた。その彼が、現在はマンチェスター・シティ(イングランド)で活躍するフリアン・アルバレス選手だったんです。
柳沢2022年のW杯カタール大会で優勝したアルゼンチン代表のメンバーでもあったよね。
小笠原そうなんです。アルバレス選手もそのくらいの年齢からヨーロッパに行きたくて必死だったんだなと、今振り返ると感じます。たぶん、その頃からクラブW杯のような国際大会で活躍したらヨーロッパに行けるって思っていたんでしょうね。だから、アントラーズアカデミーの18歳以下の選手たちにもそういう選手のプレーを体感してほしいし、できることならばそういうチャンスの場や、経験の場も作ってあげたい。
柳沢世界のトッププレーヤーになるような選手と対戦すれば、いろいろなものを感じることもできるでしょうね。満男もU-20W杯でシャビ(現バルセロナ監督)と対戦したわけでしょ?(笑)
小笠原そうですね。シャビは僕よりも体が小さかったけれど、当時からすごい選手でした。「20歳なのに、もうバルセロナで(試合に)出ている!」って驚いた記憶があります。
柳沢満男よりも小さいような選手でも、世界のトッププレーヤーになっていくんだからね。アントラーズアカデミーの選手たちもさまざまな国際大会に参加しているので、そういった経験も積んで日本に帰ってこられればいいですね。
小笠原例えばユースの選手たちは、鹿島、つくば、ノルテのジュニアユースや、セレクションを経て選抜された、いわばアントラーズのエリートなわけだけれど、世界にはさらにすごい選手がいることを感じ取ってほしい。UEFAチャンピオンズリーグでもバイエルン(ドイツ)やベンフィカ(ポルトガル)、リバプール(イングランド)やパリ・サンジェルマン(フランス)などで17歳、18歳の選手が活躍しています。そういった同年代の選手のプレーを映像で見せて、ユースの選手たちに刺激も与えているつもりではいるけれど、やはり実際に対戦して、彼らのすごさを体感してほしいです。