
7月31日(木)、第49回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)初優勝を遂げたアントラーズユース。その裏には、さまざまな準備と決断があった。決勝前日の津波警報とメルカリスタジアムへの避難。緊急事態で見えた“クラブ力”とは。
クラブユース初優勝前日に津波警報
鹿島アントラーズクラブハウスに警報音が鳴り響いた。「本当に試合はできるのか」。混乱に見舞われると思われた一日だが、クラブ全体で支え合うことで、クラブユース初優勝への舞台を整えていた。
7月30日(水)朝9時40分、茨城県鹿嶋市に津波警報(津波高さ3m)が気象庁より発表された。練習中のユースチームは、即断即決の対応に迫られた。鈴木修人アカデミーマネージャーが当日を振り返る。
「クラブユース決勝前日は、もともと9時に練習が予定されていた日でした。そのなかで、まず8時10分に注意報が鳴ったんです。そこから9時ごろに警報へ変わったのですが、何かあるかもしれないと、8時10分の注意報の時点でマイクロバスを用意しました」
すぐさま選手・スタッフは荷物を持たずにメルカリスタジアムへマイクロバスで避難した。スタジアムスタッフの配慮から試合時のインタビュールームが開放された。居場所が確保され、隔離された形で身を寄せることになった。昼食もままならない状況のなか、急きょスーパーで食料を調達し、最低限の食事を確保した。迅速な対応の裏には、2011年の東日本大震災で故郷を被災し、復興活動に尽力した経験を持つ小笠原満男アカデミーアドバイザーの存在があった。
「(小笠原)満男さんがいろいろとアドバイスをくれたんです。何かあるかもしれないということでマイクロバスを持ってきておいたり、アカデミーハウスも警報が解除されていないなかで戻るのは危険じゃないかとか、車が混んだりするのでなるべく早く行動した方がいいとか、いろいろと声をかけてくれた。最後に決断するのは僕の役目だったのですが、アドバイスに従ってすぐに決断して行けたので、とにかくスムーズでしたね」
警報下にもかかわらず、大きな混乱なくスムーズに対応できた背景には、早めの準備と冷静な決断があった。支えてくれたのはクラブスタッフだけではない。ともに避難をしたトップチームからの配慮もあった。
「ユースも一緒に練習すればいい。明日決勝だからキツいだろうけど」(鬼木達トップチーム監督)
ともに避難したトップの鬼木監督の一言に、ユースの監督スタッフはじめ選手たちの気持ちは救われた。気にかけてくれる存在がいる。その安心感が、張りつめた空気を少しだけ和らげた。

異例の“前泊”という逆転の一手が生んだ落ち着き
13時の気象庁による会見を待ったが状況は変わらず、トップチームの練習は中止に。ユースは14時からメルカリスタジアムのサブグラウンドで練習を実施することとなった。
津波警報が解除されず、ユース選手の寮であるアカデミーハウスに戻るのは危険と判断。中野ユース監督から「前泊したい」との提案を受け、鈴木マネージャーは中田浩二フットボールダイレクターに相談すると前泊を即決。クラブ役員の春日洋平、村田章らが前泊における諸条件を整え、「すぐに行け」「行ってこい」と背中を押したことで、即座に決断されたのだった。宿泊手配はクラブのツーリズム事業を担うアントラーズDMOに入った、一本の電話から始まった。
「最初に連絡が入ったのは、決勝前日の昼前ぐらいでした。警報が出ていて、避難しなければならないというタイミングで電話があったんです。『こういう状況だから、できればユースを前泊させたい。鹿嶋に泊まらせるよりは、試合会場近くの横浜近辺まで行かせたい。宿泊先を探してほしい』と」
決勝の舞台は神奈川県横浜市のニッパツ三ツ沢球技場。急な依頼だったが、決勝前日のコンディションを整えるためにも、まずは試合会場周辺から探し始めた。だがその日は横浜で横浜FMとリバプールの一戦があり、市内のホテルはどこも混雑。観光需要も重なり、都内も含めて空きが見つからなかった。
「試合会場近辺はどこにもない。そこでエリアを広げました。前職で関東遠征の際によく利用していた川崎のホテルを思い出したんです。当たってみたら、ちょうど空いていました。しかもチェックアウトを後ろ倒しまでできたのが大きかった。決勝は18時キックオフ。もし10時や11時にホテルを追い出されるようだったら試合まで困りますからね」
これまでの経験から“閃いた一手”を導いた。
「電話をするのは簡単ですけど、どこだったら可能になるか、どう優先順位をつけて連絡するか。そこはこれまでの経験が活きたかなと思います」
選手たちは安心して前泊し、残りのメンバーはトップチームの寮や自宅に分かれて夜を過ごした。
「本来は決勝当日入りの予定でした。でも、逆に前泊できたことで選手みんなのコンディションが上がりました。すごく落ち着いて決勝を向かえることができたのは、クラブスタッフみんなのおかげ。アントラーズのクラブ力を実感しました」
決勝戦のスタンドにはトップの鬼木監督、昨年までユースを指導していた柳沢敦トップコーチ、曽ケ端準トップGKコーチや伊藤亮輔トップフィジカルコーチはじめトップチームスタッフやトップの選手たちも観戦に訪れた。結果、決勝戦は3-0。ピッチ上で見せた運動量と選手個々の躍動で、ベガルタ仙台ユースを圧倒した。クラブ全体で積み重ねた支え合いが優勝へと導いた。鈴木修人マネージャーはタイトルの裏にあった“クラブ力”を振り返りながら、安堵の笑みを浮かべた。
