ACADEMY FREAKS COLUMN

ブラジルで知った“世界の当たり前” ―鹿島アントラーズアカデミー・ブラジル遠征の記憶―

ジュニアユースの3チームが、今年もブラジルへ渡った。今年で25回目を迎えた日伯友好カップ。世界を知り、本場の空気に触れ、海外で身体と心を“順応”させていく。そのすべてが、未来へと続く道の礎になる経験を重ねた。3チームを率いた鈴木修人アカデミーマネージャー、坂本光監督、杉本真監督、そしてユースの視点から遠征を見つめた岡本秀雄コーチの言葉をもとに、ブラジルで得たものとこれからについて紐解く。


第25回日伯友好カップが突きつけた「基準」

「予選突破するためには必ず勝たなければいけない。そこに行き着くために、何が足りないのかを見つめる時間になりました」

 

アントラーズとして25回目の大会参加。今年はJリーグ選抜が参加し、各組上位2位までが決勝トーナメントに進出する形式に変更となった。昨年まであった3位通過の可能性が消え、「強豪に勝ち切る力」そのものが問われる大会となった。ジュニアユースのなかで選抜されたAチームを率いた鈴木アカデミーマネージャーは、まずその現実を直視する。

 

「どのグループも強豪で構成されているなか、“きちんと勝つ”必要があるレギュレーションでした。残念ながら予選は突破できませんでしたが、全体として練習試合を含めて、いい相手とやれたことは大きな経験になりました」

 

3試合、3引き分け。結果だけを摘み取れば厳しいものだった。だが、初戦は劣勢のなかから終盤に追いついた。3試合目は先制しながらも打ち合いとなる攻防を繰り広げた。いずれも”勝負どころ”をいかにつかむかが問われる展開だった。技術やスピードだけではゴールをこじ開けることができない。アントラーズつくばを率いた杉本監督は課題を指摘する。

 

「“行ける”と判断して、行く強さはあるんです。ただ、相手の対応で“やめる”に切り替える柔軟さがまだ弱い。ボールを失わないために次の選択肢を持つこと、そして同じ強度を持ち続けないといけません」

 

ブラジルの選手たちは、勝つために必要な強度や集中力を一瞬も切らさない。その当たり前の差が、結果に現れた。試合の流れを読む感覚、そして勝負の呼吸。“勝負どころ”の温度を体感できたことは、選手たちにとって日常の練習では得がたい「基準」を知るための経験となった。

 

 

世界を知る――“勝つための当たり前”が違う

ブラジルのピッチに立ってすぐ、杉本監督は衝撃を受けた。それはサッカーの“流れ”そのものが違うということだった。まず試合の“切れ目の少なさ”に驚いた。

 

「スローインがとにかく少ないんです。体勢が悪くてもボールを残し、クリア一つにも“味方が競ることができる落下点へ蹴る”という意図がある。ボールを生かし続けるから、プレー時間が長いんです」

 

アントラーズノルテを率いた坂本監督は、ファウルの“使い方”に文化の差を見た。

 

「日本では“倒れない強さ”を美徳とするけれど、ブラジルの選手は倒れることも“勝つための技術”。試合の流れを読む冷静さが、勝負の一部になっていました。倒れることも一つの技術として“勝利の工程”に組み込まれている。感情的ではなく冷静に、時間と流れを読んでプレーする。勝つための合理性が徹底されていました」

 

きれいに止めて、きれいに蹴る――日本が育んできた美点は確かに通じる。だが、勝負の文脈に即した“ずらし”や“逃がし”が足りないと、最後の局面で押し返されてしまう。ブラジルでの3試合は、その実感を選手とスタッフの胸に強く刻むことになった。

 

スタンドを見守る家族やサポーターの”熱量”にも違う当たり前があった。点を取ったときの喜び方、ピッチ内外の熱の伝播――“空気の圧”そのものが戦術になるのがブラジルだ。杉本監督は言う。

 

「どんな一点でも全員が爆発的に喜ぶ。『ゴールの価値』が体に染み付いているんです。その熱量が、次の守備の一歩、次のプレスの連鎖を生むのだと思います」

 

観る者の熱狂が、プレーの強度と速度を底上げする。そのなかで試合を運ぶ難しさと、同時にその熱に背中を押されて“もう一歩”足が出る感覚が生まれる。選手たちにはそれに呼応して、「この一点で世界が変わる」という覚悟が宿る。本場の空気とは、技術や戦術を、さらにもう一段階引き上げることにつながるものがあった。

 

 

海外にある非日常の連続への“順応力”。

遠征は“非日常”の連続だ。時差、気候、食事、ピッチのコンディション。順応力は実力の一部であることを、ブラジル遠征ほど痛感するものはない。

 

自身がジュニアユース時代にブラジル遠征を経験した坂本監督。体重の推移を毎日確認し、選手のコンディション変化を見つめた。

 

「疲労で食が細くなる子もいれば、慣れて摂取量を増やす子もいる。食べる力が、最後に走り切る力につながる。そこを自分で整える“図太さ”が、海外ではなおさら必要になります。そこまで含めて実力です」

 

食べ慣れない食事や味付け。食べる力=戦う力となる。どんなに才能があっても、順応できなければ力を出し切れない。帰国後、自主的に走る選手が増えたり、食事に気を配る選手が増えた事実は、彼らが“順応”を自分ごとに引き寄せ始めた証拠だろう。

 

鈴木アカデミーマネージャーは、ピッチ外の姿勢にも基準を求める。

 

「自己主張と自己犠牲。よくアントラーズでは口にする言葉の一つですが、チームのために声を出したり、一生懸命にやることをいかに恥ずかしがらずにやり切れるか。日常のコミュニケーションから、勝負どころでの決断力は育つと思っています」

 

ユースの視点――“勝てる集団”は、役割と責任を自分で取りにいく

 

来シーズン、今回のメンバーから多くの選手がユースへ昇格する。ユースを指導する岡本秀雄コーチはこう振り返る。

 

「ブラジルの選手は『どこで自分を見せて、どこで見せないか』の切り分けが明確にありました。日本の選手は、見せてはいけないところで無理をしてしまい、ボールを失うことがあるんです。自分の得意不得意を理解して、どう見せていくか。そこは大事になると感じました」

 

勝ち上がるチームには、必ずリーダーがいた。苦しい時間帯に声を出し、流れを変えようとする選手はいるのか。常に小笠原満男アカデミーアドバイザーの横でともに指導をするなか、岡本コーチ自身が大切にしていることがある。「満男さんだったらどんな言葉をかけるかな」。いつも意識していることだ。

 

「満男さんは前から行く姿勢と、主導権を握る意思を大切にしています。“勝てる集団”は、役割と責任を自分で取りにいくもの。そのためには、苦しい時間に誰が声を出しているのか、どんなプレーで流れを引き寄せているのか。そんな視点で見ていました」

 

ユースで求められるのは、単なる技術の底上げだけではない。試合に臨む準備、食事や休養の管理、練習後の振り返り。すべてを“自分の責任”として実行する力である。

 

選手たちは帰国後、手応えと反省をそろえた。

 

土井空芽選手(つくば)

「1対1で積極的にボールを奪いに来たので、トラップで少しためて、飛び込んできたところを交わすなど、工夫してプレーすることができました。シュートを決めきるという決定力があれば、あと5点は取れたと思います」

 

佐野幹太選手(ノルテ)

「自分で前を向いて相手のラインを越えたり、ボランチのポジションから相手ゴール前に侵入したり、守備面では球際を強くいったり、味方のカバーをするなどのプレーは通用して自信になりました」

 

三﨑斗馬選手(鹿島)

「特に足りないと思ったことが適応力と勝負強さです。どんな状況でもベストを出せる選手にならなければいけないと強く感じました。また決勝戦のフラメンゴの勝負強さには驚きました。やはり勝たないと上にはいけないと実感しました」

 

勝てなかった悔しさと同じ重さで、多くの選手たちが口々に「もう少し試合がしたかった」「あの空気をまた味わいたい」「楽しかった」と振り返った。悔しさと喜びが混ざるその声こそ、成長の証だろう。世界で通用する“勝つための当たり前”。それを日常の練習、そして日々の試合から落とし込んでいくつもりだ。関東リーグそして高円宮杯で、“結果と成長”を示すために。