川崎F戦の注目プレーヤーは、町田浩樹!
失意の90分を終え、ロッカールームを後にする。決して軽くはない、軽いはずもない足取りで、ミックスゾーンへと歩みを進める。視界に報道陣を捉える。デビュー、そしてフル出場。祝福と労いの言葉をかけられ、一瞬だけ柔らかくなったその表情は、再び険しいものとなった。19歳、プロ2年目で刻んだJ1初先発初出場。メディアが背番号28を取り囲む。刹那の沈黙、そして始まる質問。悔しさに満ちた90分を経て、若武者は今、何を思うのか――。
「自分が試合に出て負けてしまったので…。自分のところから失点をしましたし、チャンスもありました。最後のところで決められるかどうか、そういうところなのだと思います」。町田浩樹はしっかりと前を見つめ、思いを紡ぎ始めた。「本当に、周りの選手に支えてもらいました。悔しいです。勝ちたかったです」。静かに、そして誠実に並べられた言葉に、そしてその表情に、進化への決意が滲んでいた。
5月14日。厚い雲に覆われた聖地は、キックオフからほどなくして動揺に包まれた。開始10分、セットプレーからのオウンゴール。公式戦4連勝で迎えた一戦、思わぬ形で負ったビハインド。まだ試合は序盤、挽回の時間は十分に残されている。だが、襲いかかるビジターチームの前に、アントラーズは後退していった。失点直後にも決定的なシュートを許し、迎えた14分――。
背番号28が咄嗟の判断で相手の縦パスに反応。昌子が「マチの武器」と言うインターセプトを狙うと、そのチャレンジは成功した。だがクリアボールは、神戸のもとへ。次の瞬間には右サイドのスペースへ展開され、クロスを上げられる。センターバックの相棒・昌子が指し示していたのは、神戸の背番号19。町田自身も把握はしていた。だが、視界に捉えていたはずの標的を見失い、そのことに気付いた時にはもう、遅かった。
「ニアに来ると思って先に走り過ぎて、ファーで決められてしまいました。あれがJ1レベルですね。そこで対応できるようにならないと試合には出られないと思います」。円熟の時を迎えたゴールハンター・渡邉千真が見せた駆け引きの妙に、太刀打ちすることができなかった。揺れるゴールネットを見て、思わず天を仰ぐ。後半には左足ボレーで神戸ゴールを脅かしたが、無情にもクロスバーへ。1-2。自らのマークミスから失った1点が、結果的に決勝弾となった。リーグデビュー戦のセンターバックにとって、残酷な現実。それでも19歳の若武者は「これからまた、練習からしっかりと取り組んでいきたいです」と、目を逸らすことなく己と向き合っていた。
つくばジュニアユース、そしてユースと、鹿のエンブレムを胸に走り続ける町田。左利きの長身センターバックは早くから将来を嘱望され、着実に進化の階段を登ってきた。トップチームの練習やキャンプにも参加し、超高校級の能力を誇示。190cm近い長身から繰り出されるエアバトルは圧巻の存在感で、「空中戦を制すのは、お前だけ」というチャントに乗って、並み居るストライカーたちを封じ込めてきた。
そして昨年、ついにプロとしてのキャリアが始まった。1年目の公式戦出場はナビスコ杯の2試合のみ。昌子、植田、そしてファン ソッコと代表クラスの面々が並び立つセンターバック陣にあって、先輩たちの壁は厚く高かった。そんな中、町田は己の課題と日々向き合っていた。食事とトレーニングの管理を徹底し、身体作りを進めていく。その結果、昨季開幕時のプロフィールから身長が2cm伸び、体重が6kg増えた。現時点の数値はさらに大きなものかもしれない。今年の宮崎キャンプでも、試合日の夜に体幹トレーニングをしながら自身のプレー映像をチェックする姿が見られた。宿舎のエレベーターホールに開かれたスペースに器具を持ち込み、黙々と。「いつ試合で使ってもらっても大丈夫なように準備をして、監督に安心して使ってもらえる選手にならないといけないです」。その言葉を現実のものとするために、着実に努力を積み重ねてきた。
「『DFはやられて成長する。失点した数だけ学ぶ』と言われました」
神戸戦から一夜明けたクラブハウス。悔しさを胸に押しとどめ、町田はリカバリートレーニングに励んだ。グラウンドを走る隣には、昌子の姿も。フル稼働を続けるチームリーダーは、背番号3の先代・岩政大樹から告げられた言葉を町田に託した。継承されていく思いとともに、センターバックコンビは堅守構築を誓う。
U-20ワールドカップ代表メンバーから落選したのは今月2日のこと。だが失意の12日後、J1デビューの瞬間が訪れた。フットボールの神様は気まぐれだ。代表に招集されていたら、町田が神戸戦のピッチに立つことはあり得なかったのだから。「ここでチャンスが巡ってきたのは何かの縁だと思います。落選したのは悔しいけど、その反面、ここでやってやろうという気持ちです」。その決意を勝利に結実することはできなかった。それでも、プロフットボーラーとしての第一歩を刻んだ価値は計り知れない。
「センターバックは源くん、ナオくんだけで戦っていくのでなく、自分もいるのだとアピールしたい」。強い決意を持って臨んでいる、2年目。代表落選、J1デビュー、敗戦。激動の日々から得た全ての思いと経験を糧に――。そして今夜、勝利という新たな章を書き入れる瞬間が訪れると信じて。「何かの縁」を感じずにはいられない巡り合わせが、輝かしい未来への出発点になると信じて。町田浩樹、19歳。その物語はまだ、始まったばかりだ。
「自分が試合に出て負けてしまったので…。自分のところから失点をしましたし、チャンスもありました。最後のところで決められるかどうか、そういうところなのだと思います」。町田浩樹はしっかりと前を見つめ、思いを紡ぎ始めた。「本当に、周りの選手に支えてもらいました。悔しいです。勝ちたかったです」。静かに、そして誠実に並べられた言葉に、そしてその表情に、進化への決意が滲んでいた。
5月14日。厚い雲に覆われた聖地は、キックオフからほどなくして動揺に包まれた。開始10分、セットプレーからのオウンゴール。公式戦4連勝で迎えた一戦、思わぬ形で負ったビハインド。まだ試合は序盤、挽回の時間は十分に残されている。だが、襲いかかるビジターチームの前に、アントラーズは後退していった。失点直後にも決定的なシュートを許し、迎えた14分――。
背番号28が咄嗟の判断で相手の縦パスに反応。昌子が「マチの武器」と言うインターセプトを狙うと、そのチャレンジは成功した。だがクリアボールは、神戸のもとへ。次の瞬間には右サイドのスペースへ展開され、クロスを上げられる。センターバックの相棒・昌子が指し示していたのは、神戸の背番号19。町田自身も把握はしていた。だが、視界に捉えていたはずの標的を見失い、そのことに気付いた時にはもう、遅かった。
「ニアに来ると思って先に走り過ぎて、ファーで決められてしまいました。あれがJ1レベルですね。そこで対応できるようにならないと試合には出られないと思います」。円熟の時を迎えたゴールハンター・渡邉千真が見せた駆け引きの妙に、太刀打ちすることができなかった。揺れるゴールネットを見て、思わず天を仰ぐ。後半には左足ボレーで神戸ゴールを脅かしたが、無情にもクロスバーへ。1-2。自らのマークミスから失った1点が、結果的に決勝弾となった。リーグデビュー戦のセンターバックにとって、残酷な現実。それでも19歳の若武者は「これからまた、練習からしっかりと取り組んでいきたいです」と、目を逸らすことなく己と向き合っていた。
つくばジュニアユース、そしてユースと、鹿のエンブレムを胸に走り続ける町田。左利きの長身センターバックは早くから将来を嘱望され、着実に進化の階段を登ってきた。トップチームの練習やキャンプにも参加し、超高校級の能力を誇示。190cm近い長身から繰り出されるエアバトルは圧巻の存在感で、「空中戦を制すのは、お前だけ」というチャントに乗って、並み居るストライカーたちを封じ込めてきた。
そして昨年、ついにプロとしてのキャリアが始まった。1年目の公式戦出場はナビスコ杯の2試合のみ。昌子、植田、そしてファン ソッコと代表クラスの面々が並び立つセンターバック陣にあって、先輩たちの壁は厚く高かった。そんな中、町田は己の課題と日々向き合っていた。食事とトレーニングの管理を徹底し、身体作りを進めていく。その結果、昨季開幕時のプロフィールから身長が2cm伸び、体重が6kg増えた。現時点の数値はさらに大きなものかもしれない。今年の宮崎キャンプでも、試合日の夜に体幹トレーニングをしながら自身のプレー映像をチェックする姿が見られた。宿舎のエレベーターホールに開かれたスペースに器具を持ち込み、黙々と。「いつ試合で使ってもらっても大丈夫なように準備をして、監督に安心して使ってもらえる選手にならないといけないです」。その言葉を現実のものとするために、着実に努力を積み重ねてきた。

神戸戦から一夜明けたクラブハウス。悔しさを胸に押しとどめ、町田はリカバリートレーニングに励んだ。グラウンドを走る隣には、昌子の姿も。フル稼働を続けるチームリーダーは、背番号3の先代・岩政大樹から告げられた言葉を町田に託した。継承されていく思いとともに、センターバックコンビは堅守構築を誓う。
U-20ワールドカップ代表メンバーから落選したのは今月2日のこと。だが失意の12日後、J1デビューの瞬間が訪れた。フットボールの神様は気まぐれだ。代表に招集されていたら、町田が神戸戦のピッチに立つことはあり得なかったのだから。「ここでチャンスが巡ってきたのは何かの縁だと思います。落選したのは悔しいけど、その反面、ここでやってやろうという気持ちです」。その決意を勝利に結実することはできなかった。それでも、プロフットボーラーとしての第一歩を刻んだ価値は計り知れない。
「センターバックは源くん、ナオくんだけで戦っていくのでなく、自分もいるのだとアピールしたい」。強い決意を持って臨んでいる、2年目。代表落選、J1デビュー、敗戦。激動の日々から得た全ての思いと経験を糧に――。そして今夜、勝利という新たな章を書き入れる瞬間が訪れると信じて。「何かの縁」を感じずにはいられない巡り合わせが、輝かしい未来への出発点になると信じて。町田浩樹、19歳。その物語はまだ、始まったばかりだ。

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