磐田戦の注目プレーヤーは、ペドロ ジュニオール!

 4月16日、杜の都でゴールショーを演じたアントラーズ。仙台の夜に、3試合ぶりの勝利を告げるホイッスルが鳴り響く。ビクトリーホワイトに身を包んだ選手たちは戦いを終え、互いを労い合った。終了間際に交代を告げられるまでチームの羅針盤であり続けたキャプテンももちろん、その輪に加わる。

 勝利という任務の遂行がもたらす、つかの間の安堵感。さらなる進化と向上への誓い。様々な思いが胸に去来する中、刹那、その表情に光が灯された。目の前には、背番号7。ハイタッチ、そして笑顔が弾ける。白い歯がこぼれる。ペドロ ジュニオール、アントラーズでのリーグ戦初ゴール――。開幕から1か月半、第7節で刻まれた待望のスコアを、キャプテンは祝福した。苦しんだ道のりを知っているからこそ、喜びもひとしおだった。

「自分自身の形を出せたゴールだった。試合ではなかなか、あのようなボールを受けることができていなかったけど、良いパスが来たので決めることができた」

 3分と表示された後半アディショナルタイム。3-1とリードを保って最終盤に突入したアントラーズは、3試合ぶりの歓喜まで目前に迫っていた。勝敗はもはや決していたと言っていいだろう。しかしそれでも、次なるスコアへの渇望は衰えていなかった。自陣左サイド、三竿健斗がボールを持つと、視線の先には広大なスペースが映し出される。「自分自身の形」――。俊足を武器とする背番号7にとって、これ以上ないシチュエーションだった。

 健斗が前を向く。パスが出る直前まで、ペドロはスプリントを仕掛けていない。カバーに戻っていた石原の手前を走っている。しかし次の瞬間、健斗が左足を振り抜くと同時に、背番号7はギアを上げた。一瞬の加速で相手を振り切ると、今までの鬱憤をぶつけるかのようにゴールへと突進した。駆け引きの妙、そしてゴールハンターとしての本能。強烈なシュートを突き刺すと、笑顔でベンチへと駆けた。今季からともに戦う仲間が、歓喜の輪を作って待っていた。

「重要なのはチームが勝つこと。アントラーズでのリーグ初ゴールより、チームの勝利に貢献できたことが良かった。上位陣に離されないためにも、公式戦の連敗を止めるためにも、今夜の勝利は重要だった」

 試合後のミックスゾーン。多くの報道陣がスコアラーを囲む。一つひとつの問いに、丁寧に答えていくペドロ。いつものように、静かに淡々と。しかしそれでいて、その表情は普段よりも柔らかく見えた。そして隣では、レオ シルバが穏やかな笑顔で取材の様子を見守っている。ペドロが受け答えを終えるまで、まるで弟を待つ兄のように、バスに乗り込まずに連れ添っていた。ストライカーにとって、シーズンのファーストゴールは極めて大きな意味を持つ。新天地で迎えた1年であればなおさらだ。それを理解しているからこそ、レオは本当に嬉しそうだった。

「現代サッカーではFWが守備をしないと後ろに負担がかかる。今までのクラブでも当たり前だったし、特別な要求だとは考えていない。全員に役割があって、それを果たすべきだと思っている」

「メディアの皆さんやサポーターの方々からの大きな期待を寄せられて補強をしたと思う。重要なことは勝ち点3が懸かった試合で、どのくらいチームの手助けができるかどうか。勝負どころで、みんなで貢献できればと考えている」

 プレシーズン期間に紡がれた、殊勝な言葉の数々。少し驚いたサポーターもいるかもしれない。2007年、弱冠20歳での初来日から、ペドロは大宮、新潟、G大阪、FC東京、神戸と渡り歩いてきた。母国ブラジルや韓国でプレーした時期もあった。2010年には指揮官との衝突の末、G大阪を去っている。“内紛”、“造反”――。一度植え付けられたイメージの払拭は容易ではない。短期間で移籍を繰り返している足跡を見れば、どこかネガティブな印象を持たれていてもおかしくはない。

 だが、それは虚像に過ぎない。心優しき誠実なプロフェッショナルは1月に30歳を迎え、フットボーラーとして円熟味を増していく。そんなタイミングで、神戸での充実の日々を捨ててでも移籍を決断したのは、アントラーズのことを「日本に来てから、ずっと憧れていた」から。「アントラーズがこれだけ大きなクラブであり続けるために来た。自分たちの新たなページを作れればと思っている」――。仙台のゴールネットを揺らし、鹿のエンブレムにキスをしながらピッチを駆けた瞬間は、“アントラーズのペドロ”という物語が真の幕開けを告げた時でもあったのだ。

 かつては対戦相手として、そして今はチームメイトとして日々マッチアップを重ねている昌子は「得点王だって狙えると思う」と信頼を語る。誰もがその能力の高さを知っている。だからこそ、仙台で刻んだスコアが本領発揮の契機になると信じてやまない。攻撃陣の熾烈なポジション争いにあって定位置を約束されているわけではないが、先発でもスーパーサブでも、ペドロはアントラーズのために走り続ける。相手にとって、これほど嫌な存在はいないだろう。

「ずっと憧れていたクラブに加入できた。全てのタイトルを獲りたい」。アントラーズの7番、ペドロ ジュニオール。次は聖地で、ゴールを。憧れのクラブとともに歩む日々は、これからが本番だ。

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