C大阪戦の注目プレーヤーは、土居聖真!

 78分、スコアレス。ホームチームは焦っていた。シュートを、そしてゴールを渇望する声がオレンジのスタンドから聞こえてくる。開幕4連敗中という事実が、トンネルの出口を見つけなければならないという切迫した思いが、彼らの秩序を乱していく。そんな変化を眼前にして、土居聖真は冷静だった。「相手のサイドバックが焦れて、高めの位置を取り始めて…」。だから、狙っていた。戦況を見極め、虎視眈々と“その時”を待っていた――。

「サイドバックが焦れて、高めの位置を取り始めて…。点を取りたくて上がってきているのかなと思っていました」

 79分。安部が河本にプレスをかける。初めてJの舞台に立った強心臓のアタッカーがボールに触れる。この時点で、ビクトリーホワイトに身を包んだ背番号8はまだハーフウェーラインの手前に立っていた。任務を遂行し、自陣のスペースをしっかりと捕捉していた。中継のカメラが映し出したピッチに、その姿は見えない。

「“あの時”は良い形でボールを引っ掛けて、取れたのが良かったですよね。相手のサイドバックが上がりかけていたので」

 大宮のパスは進路を失った。ルーズボールが転がった先に、待っていたのは中盤の支配者だった。レオ シルバ、パスカット。カウンター発動を意味する瞬間、土居はまだ、敵陣に入っていない。しかし、すでにスタートを切っていた。背番号8は誰よりも早く、そして速く、前だけを見て駆けだしていた。カメラが切り取った常緑のピッチ、その左端に映し出された、前傾姿勢の土居。戦況を見極めて準備をしていなければ、繰り出すことのできないスプリントだった。

「距離は結構長かったけど、パスが出てくると信じて走りました。信じて走ることができて良かったです」

 レオから優磨へ渡ったボールが、ペナルティーエリアまで疾走した土居のもとへ届く。大宮の右サイドバック・奥井は置き去りにされ、カバーに戻った江坂も及ばない。パスを受けた背番号8は、トラップから間髪入れずに右足シュート。そのアイデアが相手のタイミングを外したからこそ、「GKに触られたけど」ボールはゴールへ転がり込んでいった。“カウンターから鈴木のパスを受けた土居のゴール”と、一行で表現するのはあまりにも味気ないだろう。その戦術眼、試合終盤にスプリントをかけるタフネスと決断力、スピード、そしてアイデアとテクニック。フットボーラー・土居聖真の凄みが凝縮された、会心のゴールだった。

  「個人的にも本当に厳しい戦いになるし、勝負の年だと思っています。結果を残せなければ、自分の存在価値は厳しいものになると考えているんです」

 遡ること3か月、元日決勝。19個目の星を手に入れた歓喜を味わった直後とは思えないほどに淡々と、そして静かに言葉を並べていたのが土居だ。来たる2017シーズンへ、クラブは積極的な選手補強を施した。攻撃陣にも実力者が加わることが決まり、土居は「存在価値」という言葉まで持ち出して、今季に懸ける強い思いを明かしていた。「レアル戦を終えて、求めるレベルが上がらないのであれば、それは“ただの経験”になってしまうと思うんです。もちろん、プレッシャーや目に見えないものもありますけど、それは成長のための材料なので。その中で優勝できれば、もう一段も二段も、上に行けると思いますから」。自分に言い聞かせるように、中心選手としての自覚と決意を滲ませながら、土居は新シーズンを見据えていた。

 そして迎えた、2017シーズン。土居はリーグ開幕5試合、その全てで先発メンバーに名を連ねている。途中交代は甲府戦の一度のみで、ベンチへ退いたのは89分だった。左サイドハーフという過酷なポジションを主戦場にする今季、センターバックコンビに次ぐプレータイムを刻んでいるという事実が、背番号8がチームに不可欠な存在であることの何よりの証左だ。

 とはいえ、土居の心に充足感など宿らない。勝利の立役者となった大宮の夜も「点を取れたことは良かったけど、他にも決められる場面が2、3回ありましたからね。2、3点取れていれば、もっと楽に試合を進められたと思いますし」と、課題を口にして気を引き締めていた。試合を終えるたびに発せられる「もっと良くなると思う」という言葉は、進化への確信があるからこそ。長く険しいシーズン、背番号8は浮き足立つことなく、着実に歩みを進めていく。

「土居聖真という新しい8番を作り上げていきたいし、そうでなければいけないと思います。優勝に貢献できるような選手にならないといけないです。しっかりと責任を持って、アントラーズの顔になれるように、プレーで見せていけたらいいと思います」

 あの決意表明から、早3年目。土居は国内三大タイトルを全て手中に収め、その言葉を体現してみせた。そして今、さらなる高みへ――。アントラーズの8番、その進化に終わりなどない。「もう一段も二段も、上に行ける」。そう信じて、土居は今日も走り続ける。チームのために、勝利のために。

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