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 プロの世界に足を踏み入れて約2年半、上田綺世は類い希な進化を遂げてきた。身体的な逞しさは増し、シュート精度に磨きがかかり、オフザボールの動き出しにさらなるバリエーションが加わった。いまやアントラーズのエースとして誰もが認める存在になった。

 そんな順調な成長曲線を描くように見える綺世だが、昨年はチームの一員として、悔しい思いを味わった。開幕から思うような結果が出ず、シーズン途中で監督が交代。理想と現実の狭間で心は揺れ動き、思い悩むような時期もあったという。渋い表情を浮かべ「苦しいシーズンだったというのが率直な感想」と、1年間を振り返った。

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 ただ、苦い経験から綺世は多くのことを学んだ。今のチームがどのような立場に置かれているのか、勝利のためには何が求められるのか。冷静に分析することで、今後につながるヒントを得た。

「今のアントラーズは決して強いチームではない。現状をしっかりと見つめ、『どのようにしてタイトルを獲得するか』という部分を、戦術面も含めてもっと突き詰めて考えていかなければならないと思う。攻守において積極的に前に出て戦うというスタイルとともに、現状を打破し、より上位を狙っていくための戦い方が必要だと思った」

 どんな試合も勝利が義務づけられていることは変わらない。ただ、今のチームはまだまだ発展途上にある。タイトル獲得のためには、勝ち点とともに経験を積み、成長スピードを加速させていかなければいけない。上田はそう語る。

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「自分も含め、若手選手たちにとっては、アントラーズという『タイトル獲得を目指さなければならないチームにいるだけ』であって、実際のところ、タイトル獲得を経験したこともなければ、その方法もわからない。正直、今のアントラーズは決して強いチームではないし、僕らはもっともっと上を目指して強くなっていかなければいけない。リーグ戦のトップにいる3チームなどと比べれば、選手構成は若いし、一人ひとりの経験や実績、知名度の面でも劣っている」

 『今のアントラーズは決して強いチームではない』という言葉は、決してネガティブな意味合いではない。近年、タイトルから遠ざかっている現状を冷静に受け止め、ここから成長し、強くなっていく。そんな決意の表れだ。

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 では、強くなるために、何が必要なのか。綺世はこう続けた。

「ただそれでも、アントラーズがリーグ戦やカップ戦で勝利を手にできるのは、チームとしての一体感や団結力、そして若さゆえのアグレッシブさが大きな要因なのではないかと思う。特に、アントラーズの一員として共通理解が求められるプレーや動きに対しては、選手間に独特な共有力や協力態勢がある。僕らにはこうした『つながり』という強みがあるからこそ、勝ち点を積み上げて、ここまで首の皮一枚をつなげてこれたのかと思う」

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 勝利が義務づけられたクラブだからこそ、苦しいときも、一丸となって戦えた。一丸となって戦ってきたからこそ、苦しいときも、勝利することができた。勝ち続けるためには、選手だけでなく、監督、スタッフ、サポーターも含めた、すべてのアントラーズファミリーの思いが必要だ。

 だからこそ今、綺世は団結の重要性を説く。今のチームには若い才能が溢れているが、経験不足は否めない。シーズン序盤の苦しい時期をアントラーズファミリー全員の団結で乗り越えれば、その過程で必ず一人ひとりが成長を遂げる。全員が才能の花を咲かせたとき、チームは想像もできない進化を遂げているはずだ。

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「ここ数年は本当に特殊な状況で、無観客試合も経験した。自分は満員に近いカシマスタジアムでプレーしたこともあるので、やはりその違いはものすごく感じた。きっとスタジアムに足を運んでくれる方々が思っている以上に、僕らのなかでは『スタンドの一人ひとりの存在がモチベーション』になっている。試合を見に来てくれた皆さんが最高の環境を作ってくれて、僕らに大きな刺激を与えてくれている。カシマスタジアムが深紅に染まる姿は、変わらない『アントラーズらしさ』の一つだと思っている」

 今こそ変わらないアントラーズらしさを見せつけよう。深紅に染まったカシマスタジアムで、上田綺世がゴールを狙う。

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