PICK UP PLAYER

photo

 ファン アラーノのキャリアは、実にブラジル人らしいエピソードから始まる。

「初めて両親からもらったプレゼントがボールだった。父と母が、僕をフットボールの道へと自然と導いてくれた」

   小さいころから活発で、丸みを帯びたものがあれば何でも蹴り飛ばして遊んでいたという。「ほぼフットボールしかしなかった」という毎日を送るなか、5歳のころに近所の友人に誘われる形でテハソというフットサルチームに参加した。

「そのころから本格的にフットボールの練習に取り組むようになった。ただ、幼少期の僕は、練習中もストリートで友達とボールを蹴るときも、心の中にあったのは『楽しい』という気持ちだけ。もちろん、プロになった今も楽しいけれど、当日はとにかく楽しくて夢中になった」

photo

 フットサルは12歳まで続け、12歳から13歳にかけての約半年間は、日本でいう地元の少年団に所属しながら、次のステップとなるチームのテストを受けた。そして、合格したのがトリエステのセレクションだった。受験者250名のうち、加入を許されたのはわずか2名のみ。狭き門を実力で潜り抜けた。

 トリエステへの加入で彼の生活は一変した。朝5時半に起きて、6時のバスに乗り、8時ごろに練習場に到着するという毎日だ。そして、練習後は再びバスに乗り、15時ごろに帰宅。夕方から学校へ行って授業を受けたため、寝る時間も日常的に遅くなった。当時を振り返り、アラーノはこう語る。

「朝、目覚めたときに『今日の練習は休もうかな..』と思うことは何度もあった。でも、そのたびに自問自答して、最終的には『自分が好きで始めたことなのだから、常に全力でやり続けよう』という気持ちが勝った」

photo

 トリエステの一員として研鑽を積むこと約2年。パラナ州選手権の試合直後に、見知らぬ男が歩み寄ってきた。ブラジルのビッグクラブの一つ、SCインテルナシオナルのスカウトだった。

「人生は偶然がつきものというか、本当に面白いことが起こる。当初、そのスカウトは、別の若手選手をチェックするために試合会場に来ていたみたい。だけど、その試合での僕のプレーを見て気に入ってくれて、SCインテルナシオナルのアカデミーのセレクションを受けてみないかと声をかけてくれた」

 セレクションの結果は見事合格。実家から通える距離にトレーニング場がなかったため、一人暮らしの必要があったが、人生初の一人暮らしの不安よりも、「世界的に有名なビッグクラブに足を踏み入れられる興奮。そして、『プロになる』という自分の夢に向かって、真剣に取り組むことのできる環境を手に入れられた喜び。『夢に通じる道が開かれた』という気持ち」の方が大きかった。迷うことはなくアカデミーへの加入を決めた。

photo

 そこからアラーノは、U-15、U-17、U-20と昇格し、着実に「夢に通じる道」を駆け上がった。U-20在籍時の2017年には、ついに念願のトップチームデビューも果たす。

 ただ、幼い頃からの夢を叶えても、満足することはなかった。トレーニングに真面目に取り組み、徹底した自己管理を続けた。

「非常に高い技術や特別な才能を持っていながら、他の要素でつまづき、プロになれなかった選手を何人も見てきた。約束事や規律を守れない。集中力に欠けている。目的が曖昧になっている。彼らを反面教師に、自分の長所を取り入れながら、より細かな戦術を極めていく。たとえプロになっても、自分の基本的な考え方は同じで、だからこそ常に上の目標に向かって全力で取り組むことができたのだと思う」

photo

 2019年には出場機会を求め、コリチーバへの期限付き移籍を決めた。コリチーバでは、プロ選手になって以来、初めて主力として1シーズンを戦い抜く。この活躍が評価され、アントラーズへの移籍も実現した。

「目標へ辿り着くまでの過程で、いかに努力してきたかという部分が大事だと思う。自分自身がやるべきことコツコツと続けていれば、突然ビッグチャンスが訪れたときにも、しっかりと自分の実力や才能を発揮することができる」

 自らのやるべきことを着実にこなしてきた自負がある。だから、人生の分岐点となるような大舞台では、必ず結果を残してこれた。それはきっとこれからも変わらないだろう。

photo

「アントラーズは本当にすばらしいクラブだと日々実感している。チームメートやスタッフはもちろん、各セクションで働いている人々も、とてもすてきな人間性を持っている。それを感じるたびに『できるだけ、アントラーズにいたい』という気持ちになる。そのためにも、僕自身はさらなる努力が必要だし、しっかりと結果を残すことが求められる。特に今シーズンはクラブ創設30周年という節目の年。アントラーズの一員として誇りを持ち、日々の練習に誠心誠意取り組みながら、クラブに必ずタイトルをもたらしたい」

 アントラーズを心から愛する背番号7。ファン アラーノはこの大一番で真価を発揮してくれるはずだ。

photo

pagetop