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 この夏、安西幸輝がアントラーズへ復帰した。2シーズンを過ごしたポルトガルでは、チームに欠かせない主力選手としてプレーし、出場機会を確保していた。周囲から見れば、なぜこのタイミングで日本へ戻ってきたのか、疑問をもたれてもおかしくはない。復帰の理由を問うと、安西は次のように答えてくれた。

「ポルトガルでの2年目のシーズンが終わったタイミングで、鈴木FD(フットボールダイレクター)をはじめ、プロチームの方たちから、アントラーズに戻ってこないかと声をかけてもらった。正直、自分の思いとしては、まだ海外でやりたいという気持ちもあった。だけど、その考えを鈴木FDに伝えたところ、『返事はギリギリまで待つから、ゆっくり考えてくれ』と言ってくれた。まずはその言葉が自分にとって大きかった。もともと僕自身も、2年間、ポルティモネンセSCでプレーして、ステップアップできなければ、日本に戻るという選択肢が頭にあった。欧州に挑戦したのも、目標であるW杯に出場するためだったので、自分のなかで目安としていた2年間で、ステップアップできなかったのであれば、アントラーズに戻って活躍して、目標であるW杯出場を目指そうと考えた。それが最終的な決め手になった」

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 決断に至るまでにはさまざまな葛藤があった。W杯に出場するためには、海外でプレーしていた方が、アピールになるのではないか。ポルトガル1部のクラブで主力選手としてプレーできている状況において、日本に帰る選択をしていいのか。「自分の人生においてダントツ、一番悩んだと言えるくらい、本当に悩んだ」という。ただ、そんな葛藤のなかで安西の心を最も動かしたのは、アントラーズへの熱い思いだった。

「最終的にはアントラーズでタイトルを獲りたいという思いがまさった。(ポルティモネンセSCに移籍する前は)1年半しか在籍していなかったけれど、本当に多くのことを経験させてもらった。今度は自分がアントラーズも含めて経験してきたことを、チームに還元していきたいと思う」

 アントラーズで結果を残せば、必ず周りの見る目や評価を変えられる。自分の気持ちを信じて、覚悟を決めた。

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 すると、ちょうど復帰を決断したタイミングで、クラブOBの内田篤人から電話がかかってきた。「2番をつけろ」。まさに青天の霹靂だった。

「アントラーズの背番号2といえば、ジョルジーニョさん、名良橋晃さん、そして篤人さんが背負ってきた番号なので、1年半しか在籍していなかった自分には『まだまだ遠い存在です』と返事をした。でも、電話を切ったあとに、篤人さんからLINEで『自分は全力を出し切れていないなかで、背番号2をつけて引退してしまったから、お前が背負って、その続きを見られることを楽しみにしている』というメッセージが届いた。『自分の次の背番号2がどう活躍するか楽しみだ』とまで言ってくれて、その言葉は僕の心に強く、強く刺さった。自分がアントラーズにいるのに、他の選手が背番号2をつけるのも嫌だなと思い、それならば自分が背負おうと考え、最後は『自分が背番号2をつけます』と伝えさせてもらった」

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 内田と過ごした日々は、安西の脳裏に焼きついている。怪我を抱えながら、言い訳することなく、黙々とトレーニングに励む姿。どんな苦境に立たされても、チームの先頭に立ち、鼓舞する姿。背番号2の重みは誰よりもわかっているつもりだ。

「篤人さんがアントラーズに残したものを、今度は僕らが次の世代に伝えていかなければいけない。篤人さんに『背番号2の続きを楽しみにしている』と言われ、さらに重みも感じた。この番号を背負って、アントラーズでタイトルを獲ることで、自分自身の目標でもあるW杯という道が開けると信じている」

 やるべきことはわかっている。どんな逆境でも明るく、諦めず、勝利へ導く。背番号2の継承者、安西幸輝の挑戦はまだ始まったばかりだ。

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