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 昨季、関川郁万はザーゴ前監督に高く評価され、開幕戦でスタメンの座を確保するなど、序盤はCBの主力としてプレーした。しかし、シーズンの経過とともに出場機会を失い、終盤はベンチ外の日々が続いた。終わってみれば、リーグ戦で15試合、カップ戦で2試合のみの出場に止まった。

 ただ、高卒2年目のプレータイムとしては、決して悪い数字ではない。関川も「まったく試合に出られなかった1年目よりも、昨季は試合に出られたことで間違いなく成長できたと思う」とポジティブに振り返り、「試合に出たことで、練習中もリアリティーを持って臨めるようになった」と意識の変化を語った。

「これまでより頭のなかで具体的にプレーが描けるようになった。例えば、昨季で言えば、オルンガはもっと速かったな、パトリックが相手だとこれでは弾き返せないな、ドウグラスはここまで足が伸びてきたなとか。昨季は何も経験がないなかで、そうした相手と戦って、競り負けることもあった。だけど、それを知った今は、競り負けるにしても、『競り負け方』があると思えるようになった。チームメートにカバーしてもらえる方法、フォローしてもらう手段、そして最後は自分で競り勝てるようにしたい。自分にとっては、これが今季の挑戦になる」

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 昨季の経験と悔しさを胸に、今シーズンは定位置を奪取する気持ちで臨んだ。しかし、プロの世界はそう甘くはない。序盤こそローテーションで起用されたものの、徐々にベンチ外の試合が増える。現実が思い描いた未来からかけ離れていく。試合から遠ざかることで、モチベーションを保つことが難しくなった。

 そんなとき、相馬監督から声をかけられ、トレーニング後に1対1で話し込んだ。監督は自分をよく見ていてくれた。ここから意識が変わった。

「相馬さんから喝を入れられ、トレーニングへの取り組み方や自分がチームに与える影響など、前よりも色々なことを意識しながら取り組むようになった」

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 たしかに、序列を覆すのは容易ではない。チームの大黒柱である犬飼と町田、著しい成長をみせる林、そして夏にはブエノがチームへ復帰する。ただ、この状況を変えるためには、自分が変わるしかない。トレーニングでアピールを続け、自分で道を切り開くことしかないと気づいた。

「1年目も2年目も、年齢的には若い自分たちが突き上げていかなければ、チームは強くならないと言われてきた。どうすれば、それができるかを考えたとき、やっぱり、練習からアピールしていくしかないと思った。たとえ無理な状況であろうとも、若い僕らがめちゃくちゃに、がむしゃらに、ボールを追いかける姿を見せる。ボール回しにしても、追いかけなければ、先輩たちはうまいので、簡単にフリーな状況になれてしまう。それでは先輩たちもきっと、これ以上は、うまくならないと思う。僕らが必死で食らいついていくことが、最終的にチームの成長につながっていくと思う」

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 すると、7月24日のアウェイG大阪戦でチャンスが巡ってきた。リーグ戦では4月3日の浦和戦以来となる久々の先発出場だ。「試合に出ることができていない期間はすごく悔しかった。自分の中ではラストチャンスという意識で挑んだ」。試合前には何時にも増して覚悟に満ちた関川の表情があった。

「試合に出れていない時期がけっこう続いたので、その分『チームのためにやってやろう』という気持ちが強くある。試合に出場できない選手の気持ちを改めて感じられた。出場できないチームメートの分まで全力で戦いたい」

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 結果は、1-0。関川は鋭い縦パスで決勝点に絡むと、守備でも落ち着いたプレーで完封勝利に貢献した。試合後に話を聞けば、「最終ラインの上げ下げや空中戦、対人の部分はもっと気を使ってやっていかないといけないなと感じた」と課題も口にしたが、「監督の目にどう映ったかは分からないが、自分の中では無失点で勝利できたことは良かったと思う」と手応えを感じた様子だった。そして、「やっぱりすごく楽しかった。試合に出てプレーする喜びを改めて感じられた」と、充実の表情を浮かべた。

 しかし、G大阪戦の後、8月9日のアウェイ湘南戦、8月15日のホーム徳島戦は、メンバー外になった。CBの序列を覆し、ポジションを奪取するためには、まだまだやるべきことがある。一番よく理解しているのは、関川本人だ。

「引き続き、課題である集中力は自分のテーマ。だけど、それだけが改善されたからといって、簡単に試合に出られるわけではない。ワンくんやマチくんは、すべてにおいて能力が高い。対人もビルドアップもコーチングも。だから自分も、CBに必要な基礎は、すべて伸ばしたい。実際、そこがたりないから、自分はCBとして3番手、4番手の域を脱せていないと思う」

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 試合に出場できない悔しさ、出場したことで味わう悔しさ。どちらも経験したことで、また一歩、成長の階段を登った。

「アントラーズは代々すごいCBを輩出しているので、自分もその一人になれたらいいなと。そのためには、自分も先輩たちからプレーを学んで、意志を継ぎながら、自分なりの新しいCB像というものを築き上げていきたい」

 20歳、関川郁万。無限の可能性を秘める若人が、アントラーズを勝利へ導く。

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