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 アントラーズつくばで育った町田浩樹は、自宅からつくばアカデミーセンターまで、土日は試合会場までの道のりを父の運転する車で通っていた。車を降りるとき、いつも父にかけられていた言葉がある。「楽しんでこいよ」。当時何気なく聞いていた言葉が、最近になってフラッシュバックしたという。

「プロになると、どうしても楽しむことを忘れがちになる。最近、『チームがうまくいっていないときのマチくんは苦しそう。何か楽しんでないよね』と言われたことがあったーー。自分としては気負っているつもりはなかったけど、他の人からはそう見えているんだと思った。そこで、親父が言っていた『楽しんでこいよ』っていう言葉がリンクした」

 試合に出ることが増え、楽しめていないという自覚はなかった。それでも他人から見た自分のプレーの印象を聞いて、改めて考え直すきっかけとなった。”楽しむ“とは何なのか。ふと振り返ってみると、これまで監督から言われてきた言葉がつながってきた。

「剛さんとザーゴ監督からよく言われていた。剛さんは『プロだから戦わなければいけない義務がある。けれど、楽しむ権利がある』って。ザーゴ監督も『プロだから結果にこだわらなければいけないけれど、ゲームを楽しみなさい』と言ってくれていた。それを考えると、一昨年から試合に出られるようになって、その気持ちを忘れていたというか。改めて、“楽しむ”ことを大事にしようと思った」

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 ”楽しむ“とは何なのか。すると思い返したのは、意外にも今季のリーグ開幕戦だった。アントラーズが清水に1-3で逆転負けを喫したあの試合だ。

「結局、勝たないと楽しくない。清水戦の次の日とかは地獄だった。朝起きたくないし、クラブハウスにも行きたくない。やっぱり、どんなに自分のプレーが悪くても、試合に勝っていたら気持ちいい部分もある。そう、勝たなければ楽しくないと思う」

 勝たなければ楽しくない。味わった悔しさに気づかされた。では、勝つために必要なことは何なのか。2021シーズン、町田にはテーマにしていることがあるという。

「身体的な強さだけではなくて、1対1で守れるのはもちろん、数的不利でも守れるような“圧倒的な強さ”が必要だと思う。パワーだけではなくて、ディフェンス面での総合力というか、立ち振る舞いもそう。理想は源くん(昌子選手)の圧倒的な存在感。あれはすごかった。僕もああいう存在になりたい」

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 “圧倒的な強さ”。いまの自分にはこれが欠けている。そして、再び思い返したのが、清水戦。78分に今季の初失点を喫した場面だった。右サイドからクロスを入れられ、先に中山に触られると、ゴール前にいたチアゴ サンタナのもとへボールがこぼれる。チアゴ サンタナをマークしていた町田はすぐに身体を寄せたが、シュートは町田の股間を抜けて、ゴールネットに吸い込まれてしまった。

「そもそも、あそこまで持っていかれることが良くない。だけど、結局やられてしまった。”結局やられる”のと“結局やられない”の違いは、圧倒的な強さにつながると思う。そうなると、細かいことが大事になる。あのとき、右足を出して股を抜かれたけれど、左足を出していればやられなかったとか、そういった細かいディテールへのこだわりになっていく。右足からいくのか、左足からいくのか、それとも体の向きなのか。やはりそういう詳細を突き詰めた人が上にいると思う」

 “結局やられない”。これが圧倒的な強さへつながっていく。そして、その圧倒的な強さが、チームを勝利に導くことにつながっていく。進むべき道が見えた気がした。

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 直近の徳島戦、監督交代直後で大きなプレッシャーのかかる中、町田はセットプレーから決勝ゴールを決めた。守備でも1対1の駆け引きを楽しみ、プレーの細部までこだわった結果、今季リーグ戦初の完封勝利につながった。

「監督交代の責任は選手みんなが感じていたので、『今日はなんとしてでも勝ちたい』という、いつも以上に強い気持ちをもって試合に臨んだ。勝利という結果から逆算をして「ゴールを奪う」、「ゴールを守る」というプレーをみんなができていた。チーム全員で意識を統一してプレーすることができたと思う」

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 ユースからトップへ昇格して今年で6年目。プロとして着実にステップアップしていくなかで、大切なことに気づいた。守備の駆け引きを楽しむこと。細部にこだわること。それが圧倒的な強さにつながり、チームの勝利につながること。

 札幌戦は徳島戦から中2日。町田の出場可否はわからない。ただ、もし出場機会が与えられれば、たとえコンディションが整わずとも、勝利のために全力で戦ってくれるだろう。”楽しむ”ことを忘れずに。

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