PICK UP PLAYER PART2

photo

「タイトル獲得の力になれるよう、身を粉にして頑張りたいと思います。よろしくお願いします」

 2019年1月16日、新体制発表会見。少し緊張した面持ちで、伊藤翔は新天地アントラーズでの第一声を発した。「勝つために来ました。年齢も年齢なので、チームのことを見たり、いろんな選手を助けながらやりたいと思います」。プロ13年間で獲得タイトルはなし。言葉からは勝利に一身を捧げる決意が感じられた。

 会見の1週間後にスタートした宮崎キャンプは、「サッカー選手としても、一人の人間としても、受け入れられるかどうかは最初が大事になってくる」と、積極的なコミュニケーションを意識して臨んだ。自分のボールが欲しい場所、タイミングを仲間に伝え、意思疎通を図っていく。パスをもらえば、必ず決めてやる。だから、出してくれ。そんなストライカーとしての矜持が練習中から溢れていた。

 迎えたシーズン開幕。「滑り出しでうまくいかないとサポーターの人はもちろん、イメージが悪くなる。『俺はこれだけできる』と示さなくてはいけない」と語っていた伊藤は、その言葉通りの活躍をみせた。

 アントラーズ加入後、初の公式戦となったACLプレーオフでいきなり初ゴールを記録すると、続くリーグ開幕戦でも公式戦2試合連続得点を奪い、第2節のアウェイ川崎F戦では絶妙のトラップから美しいゴールを決めた。さらにACLのアウェイ山東戦で2ゴールを記録し、リーグ第4節アウェイ札幌戦でも2ゴールを決めてみせた。公式戦出場6試合で、7ゴール。「絶対に点を決めなきゃいけないと思っていました。だけど俺、『ここでやらなかったらヤバい』っていうシーンでは、これまでもほぼ成功してきているんですよ」。驚異的なペースで得点を量産した伊藤は、頼もしく語ってくれた。

photo

 しかし、シーズン序盤のゴールラッシュは長く続かなかった。連戦による影響で徐々にコンディションが低下し、身体の感覚にズレが生じてしまう。アウェイ札幌戦から約2ヶ月もの間、ノーゴールと苦しんだ。

 2019シーズン、伊藤は通算16ゴールを記録した。負傷で一時期離脱していたことも影響し、シーズン開幕前に語った目標「シーズン20得点」は、天皇杯決勝のみを残す現時点で、達成できていない。「優勝のためにはゴールが必要になってくるから決めないといけない」。そう語っていた本人にとっても、納得のいく数字ではないだろう。

 ただ、それほど個人記録にこだわりがあるわけではないのもまた事実だ。伊藤は「昨年の17得点を上回りたいので、20得点と言いました。でも、正直何点でもいいんです。とにかく優勝したい」と、チームへの貢献を最優先に考えていることを明かしていた。

 味方にプレースペースをつくる動き、最終ラインを押し下げる動き出し、イーブンなボールを収めるポストプレーなど、目立ちにくい部分の仕事をしっかりとこなし、守備の局面では、背後のパスコースを気にしながらプレスを行い、後方の選手を大いに助けていた。ゴール、アシストの記録はつかずとも、最も大切な「チームの勝利に貢献する」部分で大きな影響力を与えていたことは間違いない。チームへの貢献度は、本人も満足できるものだったはずだ。

photo

 「勝つために来ました」。徹底した勝利への希求をもつ男は、ギラギラとした目で語っていた。大事な試合で必ず結果を残してきた彼ならば、きっとこの大舞台でも成し遂げてくれるはずだ。

新国立のピッチで、伊藤翔がゴールを決める。



PART1 レオ シルバ 編はこちらからご覧ください。

PART3 セルジーニョ 編はこちらからご覧ください。

PART4 内田 篤人 編はこちらからご覧ください。

pagetop