ACADEMY FREAKS INTERVIEW

U-15ドイツ遠征・第3回 「ゴールが3つ?」。一人の選手をどこまで深く見るか。GK大国ドイツで見た、育成の“専門性”

 

ピッチに運び込まれた3つのゴール。次のプレーまでを予測させるGKトレーニング。年代に応じて配置されるフィジカル、メディカル、リハビリの専門スタッフ――。ボルシアMGの育成を専門領域まで掘り下げると見えてきたのは、設備の充実だけではなく、一人の選手を多角的に見て、支える環境だった。一方、現地ではアントラーズのGKが持つ基本技術も高く評価された。世界基準をそのまま持ち帰るのではなく、アントラーズが持つものと、現地で見つけた新たな視点から「一人の選手を育てる」を考える。(第3回/全4回)

 

 髙橋覇気(鹿島JY・GKコーチ)がボルシア・メンヒェングラートバッハ(ボルシアMG)のGKトレーニングを初めて見たとき、ピッチには3つのゴールが運び込まれていた。

「向こうのトレーニングを最初に見に行ったときに驚きました。日本であれば一つのゴールを守りますが、GKトレーニングのところに大人のゴールが3つ運ばれていたんです」

 同じ場所から始まるトレーニングでも、GKが立つゴールによって直面する状況を変えていた。ある選手にとってはシュートへの対応、別の選手にとってはクロスへの対応、ボールを奪えば、今度は別のゴールを狙う。守るだけではなく、常にその次のプレーまで続けることが含まれていた。

「次への予測というのが、すごく強調されていました。ゲームにいかに落とし込めるかというところから逆算しているんだと思います」

 ボルシアMGが選手に求める「見る、考える、判断する」というアプローチ。それは、GKという専門的なポジションにも落とし込まれていた。

 髙橋はドイツへ渡る前から、「GK大国」と呼ばれる国の育成には興味があったという。実際に現地で目にしたのは、髙橋自身が当たり前だと思っていたものとは異なる考え方だった。

「日本だと一つひとつのプレーを確実に、正確に行うというのがメインになって、その積み重ねでミスのないプレーを目指します。ただ、向こうは一連の動作をスムーズに行うことがまず目的としてあって、その目的を達成するまでに、どれだけ効率よく進めるかをすごく重要視していました」

 例えば、ゴロのボールをキャッチするとき。日本では、ボールを後ろへこぼさないように片膝を曲げ、確実にキャッチする技術を身につけていく。一方、髙橋が現地で見た考え方では、その先に攻撃が待っているなら、膝をつくことで次の動作が遅くなることにも目を向ける。

 至近距離からシュートを受ける場面でも同じだった。必ず身体を倒して対応するのではなく、低いボールなら足、高いボールなら手を使う。重要なのは一つの動作を同じ形で行うことではなく、その状況を解決し、次のプレーへどれだけスムーズに移れるかだった。

「倒れなくて済むんだったら、それでもいい。倒れない方が次にすぐ動けるし、次へのアクションを起こせる。次のプレーへの移行をすごく強調していました」

 そのためのトレーニングにも、さまざまな工夫があった。

 大きさの違うボールや複数の色のマーカーを使う。クロスボールを受ける際に片目を隠す。ボールを見ながら、別の場所で光る色も認識させる。

 実際の試合では、相手選手によって視界が遮られることもある。ボールだけではなく、味方と相手の位置も把握しなければならない。技術を反復するだけではなく、試合で起こり得る状況をトレーニングのなかにつくり出していた。

 

 その一方で、現地へ行ったからこそ見えた鹿島の強みもあった。

「向こうのスタッフからは、自分たちが連れていったGKは基本技術がすごく高いという評価をもらいました」

 髙橋は、そこから一つの答えを出したわけではない。

 基礎に忠実なトレーニングを積み重ねれば、基本技術の高いGKが育つ。次のプレーへの移行を重視すれば、その状況に対応できるGKが育っていく。

「両方のバランスがすごく大事だなって思いました」

 ドイツで見た方法に置き換えるのではなく、鹿島が大切にしてきた基本技術を土台にしながら、新しい要素をどう加えていくか。

 帰国後、髙橋は実際のトレーニングでも試行錯誤を始めている。

 中学1年生では、まず基礎を積み重ねる。そこから年代が上がるにつれて、少しずつ試合に近いシチュエーションを入れて、認知や予測を求める場面を増やしている。

「そもそも基礎ができていないのに認知を広げてもしょうがない。年代によってうまく使い分けたり、人によってアプローチを変えたりできれば、より選手に合ったものを伝えていけると思っています。こっちとしても、いろいろな引き出しを持っていた方がいいなというのはすごく感じています」

 アントラーズのGKコーチ陣でも、どんなGKを育てていくのかを話している。

「まず第一に勝負強いGK、基本技術がしっかりと整っているGKというのはアントラーズとしてあります。そこに自分の強みだったり、アントラーズのプレーモデルだったり、各コーチの色をつけて、強みのあるGKを作っていきたいという話をしています」

 変化は少しずつ選手にも表れている。

 今回ドイツへ渡ったGKは帰国後、予測や一歩目の動き出しが良くなっていて、公式戦の失点を項目ごとに記録しているデータでも、至近距離からの失点が減ったという。

「もちろん選手の能力、選手の頑張りがあってのことです。ただ、実際に選手が取り組んでくれた結果、見えるものとして微量ではありますけど出ているというのは、すごく感じています」

 GKという一つのポジションを深く見ていく。

 すると、その選手を育てるために必要なものは、トレーニングメニューだけではないことも見えてくる。

 髙橋が印象に残ったものの一つに、GKスタッフだけが集まる部屋があった。

 ボルシアMGにはGK部門を統括するポジションがあり、各年代を担当するGKコーチたちがカテゴリーを越えてコミュニケーションを取っていた。さらに試合後には、GKを6つの分野に分け、それぞれ5つ星で評価。評価理由を記したレポートを作成し、スタッフ間で共有していた。

「映像を使った振り返りだったり、選手一人にフォーカスしているところは日本とそんなに変わらなかったです。ただ、より細かく分けて、毎試合数字で評価しているところは違いました」

 そこにあったのは、GKを専門的に見るための「人」と、その知見を共有する「環境」だった。

 

 視点をピッチの外へ広げると、同じことが別の領域にもあった。

 コンディショニングを担当する福原俊裕がドイツで強く感じたのも、施設の大きさだけではなく、そこにいるスタッフの厚さだった。

「純粋にクラブの規模というか。そこの差はすごく感じましたし、施設の充実さもそうですし、スタッフの人数も違いました」

 ボルシアMGの施設内には、一般の人も利用する医療施設があり、福原はそこで育成年代の選手がリハビリに取り組む様子を見る機会を得た。理学療法士など現地スタッフとも話をした。

 アントラーズでは、一人のスタッフが複数の領域を担うこともある。一方、ボルシアMGでは、選手の年代が上がるにつれて専門スタッフの配置も手厚くなっていた。

 福原が現地で確認した体制では、U-8からU-11にはフィジカルコーチを置かず、U-12からU-14では1人のフィジカルコーチが3カテゴリーを担当。U-15以降になるとPT(理学療法士)が各カテゴリーに入り、さらにリハビリトレーナー2人がU-15からU-23までを横断して担当していた。年代ごとに一律の体制を敷くのではなく、選手の成長段階に合わせて専門スタッフの関わり方も変えていく。

「やっぱりスタッフの人数ですね。育成年代でもPTがいて、リハビリのスタッフがいて、トレーナーがいて、フィジカルコーチがいる。そこはやっぱり充実していました」

 ケガをした選手を診る。リハビリをする。ピッチへ戻るための身体をつくる。そして、日常のパフォーマンスを高める。一人の選手を支える過程を細かく見ていくと、それぞれに異なる専門性があった。

 設備にも違いがあった。福原が訪れた医療施設にはさまざまなトレーニングマシンがあり、リハビリに取り組める環境が整えられていた。

 ただ、福原が持ち帰ったのは「ドイツの方が進んでいる」という単純な結論ではなかった。

「変にリスペクトしすぎて行きましたけど、実際、日本も全然負けてないなっていうのは改めて感じました」

 治療やリハビリの現場で行われていることのすべてが、日本と大きく違うわけではない。

 選手たちを見ても、中学生年代では体格に大きな差を感じなかった。技術やクイックネスでは、日本の選手たちが持っているものもある。

 世界の環境を見ることで、足りないものだけではなく、今のアントラーズでできていることも見えてきた。

「今やっていることと、今後やらなきゃいけないこと。できること、できないことの整理ができたような感覚はあります」

 福原は現地で見た環境について、すでに関係する医療スタッフとも共有しているという。今後、クラブの環境を考えていく上で、現地で見た体制や施設は、その基準の一つになる。

 GKという専門ポジションを深く見ること。身体をつくること。ケガをした選手を治療し、リハビリを経てピッチへ戻すこと。

 それぞれ違う領域に見えて、その中心にいるのは同じ一人の選手だ。

 世界基準を知ることは、同じ施設をつくり、同じ人数のスタッフを揃え、同じトレーニングをすることではない。

 目の前の一人を、どこまで細かく見ることができるのか。その選手を伸ばすために、どんな専門性が必要なのか。

 GKにはGKの視点がある。身体をつくる専門家がいて、ケガをすれば治療やリハビリに携わる人がいる。

 それぞれが違う角度から一人の選手を見ることで、育成の解像度は上がっていく。

 ピッチの中から、その外側まで。

 ドイツで見た専門性の厚さは、アントラーズがこれから「一人の選手を育てる」という仕事を、さらに深く考えていくための新たな基準になった。