INTERVIEW
伝統の伝道者たち
鹿島ユース 曽ケ端準ユースGKコーチ

1993年のJリーグ開幕を控えた1991年、アントラーズが発足した。Jリーグのクラブは選手を育成する下部組織を持つことが義務づけられたため、アントラーズアカデミーが設立された。それから30年以上が経過し、どのような伝統が紡がれてきたのだろうか――。
鹿島ユースからトップに昇格し、23年にわたりアントラーズのゴールを守り続けた。リーグ戦通算出場数は533を数え、2位の古川昌明の125を大きく引き離す。GKとしてもっとも多くの出場数を誇り、まさに伝統の生き字引ともいえる存在だ。今はユースの選手たちを指導する曽ケ端準ユースGKコーチに、日々トップで主役となる選手を生み出すべく、子どもたちと向き合う今を聞いた。
12時間のバス移動が基準に
―アカデミーでの指導となり半年が経ちました。
「ユースで指導して1番最初の遠征が、広島遠征だったんです。バスで片道12時間かけて行って、朝に着いて、ちょっとしてすぐに試合。1泊してまた帰ってくる。それをいきなり経験したのでね。それも大型バスではなくて、マイクロバス。選手も一緒に乗って、僕とかミツ(小笠原満男テクニカルアドバイザー)は運転がなかったので、乗っているだけでしたけど、運転していたヤナギさん(柳沢敦ユース監督)とか岡本(秀雄)コーチはもっと大変だったと思うんですけど、それを最初に経験したので(苦笑)。その後にJヴィレッジカップがあって、3日間連続で鹿嶋と福島をバスで往復。他のチームは泊まったみたいですが、毎日片道3時間半くらいを往復する遠征もありました」
―キツかったのでは?
「いや、全然余裕でした。最初の広島遠征を経験すると、ちょっと仮眠したらもう着くぐらいの感覚で(笑)。」
―なるほど(笑)。曽ケ端コーチの身長でマイクロバスの座席に乗って長時間移動は膝が痛くなりそうですね……。
「そこは大丈夫でした(笑)。ここまでの移動はユース時代も経験したことがなかったので、人生で初めて。でも、最初に広島遠征があってそれが基準になると、もう余裕。インドネシア遠征もありましたけど、飛行機で7時間ちょっとなのでね。だからもう、底辺を経験したって言ったらあれですけど、移動のキツさの基準は変わりました(笑)」
―なるほど(笑)。トップではアシスタントコーチの立場でしたが、今年からユースGKコーチとして、自ら練習メニューを組んで指導する立場となりました。
「基本的に同じようなメニューにならないように、たとえ同じような動きになってもバリエーションを変えるようにしています。実際、練習メニューを考えるときに、自分が選手のときにどんな練習したかを振り返ってみると、意外と覚えていないんですよね」
―そうなんですか、それは意外です。
「GKは、基本的な練習の積み重ねです。例えば一つの動きの改善で、取れなかったボールが取れるようになったり、うまく足を運べるようになったり。そういう細かいことが大事になります。ステップを踏みながらキャッチするにしても、ボールが来たときに無意識にそのステップが出るのか、そのために練習のなかで意識づけをして、体に馴染ませていく。それが試合時に自然と出るようになっていくのは、自分も現役時代に実感しているので」
一一瞬の判断と動きのスムーズさはGKに求められるところですね。
「はい、なので、練習で選手が『ああ、またこの練習か』とならないように意識しています。体に覚えさせるためには、あり程度はルーティンっぽくやることが必要になるので、ステップは同じだけど他の動きを変えてみたり。現役時代は与えられたメニューをやりながら、今日は練習の流れが悪いなあとか思うこともあったけれど、今はその裏にあるコーチたちの準備における苦労や苦悩があったことを実感しています。練習のテンポが悪いと自分が思われる側なんだなと(笑)」
―練習のリズムを作る難しさはありますね。
「そうですね。今はユースに5人のGKがいますが、キャッチやキックなどを一回でも多くやれるように、練習の流れを作るのも大事なことです。さらに、体力的に追い込むことや、試合に向けてコンディションを上げていくことも必要になる。見る選手が多くなればなるほど難しくなりますが、だからこそ、そこはより考えるところですね」

アカデミー内での連携
―練習メニューをジュニアからユースまで共有し、同じ方向で育成が進んでいるそうですね。
「時代も進み、練習映像を毎回録画してカテゴリーに限らずスタッフ間で共有されています。また、練習メニューも資料として残すようになっています。データを積み重ねて、この時期にどんな練習をやっていたのかを見返すことができて、選手の評価基準にもつなげられるようになっています」
―練習映像も含めて?
「はい、ジュニアやジュニアユースのGKコーチがユースの練習を映像で見たりしていて、それをもとに会話をすることもあります。また練習メニューもですね。ただ、例えば今日この練習をやりますという練習メニューがファイルとして共有されていても、なかなか詳細は伝わらないものです。僕自身もそうですし、他のカテゴリーのものを見ても、どういう意図なんだろうというときもありますが、話を聞いたりコミュニケーションを取るとよく分かって、やっぱり実際にはグラウンドでやってみないと分からないことがあるんです。ちょうどこの話を岡本コーチとしたばかりだったんですが、映像を含めて会話することで確認した方が伝わりやすいし分かりやすいんですよね。資料だけを見て分からないことも、聞けばこうだったのかということがあったりして、ユースに限らずコミュニケーションを取りながら進めています」
―予定した練習メニューとピッチ上で流れる練習とは違ってしまうこともあるのでは?
「そうなんです。実際に自分でこういう練習メニューを作ってやってみようとやってみたけれど、実際にグラウンドではうまくいかないことももちろんあります。トップでアシスタントコーチをしていたときも、あの経験豊富な洋平さん(佐藤洋平:現トップチームGKコーチ)でもあって、うまくいかないとすぐにパッと練習メニューを変えることもありました」
―例えば、ビルドアップの練習をしようとしても、アカデミー年代ではまだ選手にキックの正確性がなければ成り立ちませんね。
「それもそうですね。ロングボールを蹴る練習であれば、選手のミスキックが続くと、自分の意図しないような形になってしまうこともありました。それはもう、ユースとかジュニアユース、ジュニアと年代が下がれば、多分もっともっと増えるはずです。でも、ボールを数多く蹴らせることもやっぱり練習の一つだし、練習での成功失敗を重ねないと成長はありません。可能な限り蹴る回数やキャッチの回数を増やすことと、練習のテンポや流れをよりスムーズしないと、より効率良く質の高い練習になっていきません。そこのバランスは難しいですね」
―練習において一つひとつのプレー回数が多くなる流れがないといけないし、順番を待つ時間はできるだけ短くして、より質と強度の高い練習につなげたいところですよね。
「そうなんですよね。だから僕自身も蹴る回数を増やさなければいけないし、キックの練習では選手が蹴る回数をより多くしないといけません。今、ユースには5人いるので、トップの4人と比べると、基本的にどうしても少なくなる。その分、トップは技術的な部分で高いレベルにあるので、それに乗じてテンポも良くなるんです。だから、カテゴリーが下に行けば行くほど指導は難しくなるなと感じています。そんな話をアキ(佐藤昭大:鹿島ジュニアユースGKコーチ)とも話したんですが、ジュニアユースとかジュニアを教えるのは本当に大変。上に行けば行くほど、複雑な練習とかができるようになるんですけどね」
トップとアカデミーの違い
―トップでのGKアシスタントコーチから指導者としてスタートしました。今はユースを指導していますが、どのような違いを感じていますか?
「プロでももちろん個の成長が必要になりますが、育成年代を指導する上では、下のカテゴリーになればなるほど、プロ以上に個の成長に特化する割合が大きくなると感じます。その成長に応じて、ジュニアはジュニアユースへ上がれるか、ジュニアユースはユースへ上がれるかという競争もあるので、また違うものですね」
―アントラーズアカデミーは選ばれた選手がそろう組織です。そのなかでも選手間の能力差は生まれてくるものでしょうか。
「例えば、高校1年と高校3年だと、そこまで大きく差は出ません。ただ、中学1年と中学3年になると、やはり差が出てきます。これまで小学生だった子が、いきなり中学3年の試合に出るのは、まあなかなか大変なことです。自分が中学1年のときも、やっぱり中学3年との差はすごく感じました。ただ今後は、中学3年の試合に年下でも出たりということは、増えてくると思います。だからこそ今年の夏につくばジュニアユースの1年生がスタメンで試合に出ていましたが、すごいことだと思いますよ」
―全国大会は選手としていい経験ですね。
「早くに経験できるに越したことはありません。さらに今後もその流れになってくると思います。ただ、見方は慎重にしないといけません。上のカテゴリーへの練習参加については、上のレベルに慣れさせる良い面もありますので、今もやっていますが今後も続けていければ、より選手の成長につながるのではないかと思っています」
―やはり選手の成長が大事ですね。
「もちろんそうですね。まず考えるべきは、選手が成長するためにどうするか、です。そのために日々の練習と試合経験が一番大事になります。僕自身も現役のときにワラさん(藤原寿徳:現FC東京GKコーチ)に教えてもらって、日々の練習でうまくなる実感など、いろいろと感じながらやれました。さらに、練習に加えてゲームがあったからこそ、そういった成長を感じられるものです。日々の練習に加えて、試合に出てこそ成長、気づきがあるもので、公式戦での経験は、やはり練習試合ともまた違うもの。昔は準公式戦の形でサテライトがあったのは大きかったと思います。練習と試合経験によって、選手の成長を目指していければと思います」

アントラーズのGKの伝統とは
―曽ケ端GKコーチは鹿嶋で生まれ育ち、アカデミーからトップに昇格。プロとしてプレーを続けて今があります。アントラーズのGKとして大事だなと先輩の背中から感じたものはありますか?
「僕自身、もちろんJリーグ初期からアントラーズを見てきました。例えば93年のマサさん(古川昌明:現清水GKコーチ)だったり、その後の洋平さんだったり、やっぱり真似から入るわけです。例えば、パントキックの蹴り方だったり、タイミングの取り方、ボールを受ける前の動作であるプレジャンプを見て真似たり。子どものときは、そういったプロの選手のプレーを見て、真似するところから入るもの。僕自身、それはプロになってからも同じでした。上の人だけでなく、下の選手がやっていることに対しても、自分の成長のきっかけを掴むために、いろいろと盗んだり試してみたり。現役時代は、タイミングの取り方やキャッチの仕方や動き方だったり、常にいろいろなことを取り入れて試すことを繰り返してきました。だから、いつの時代にとかあの先輩から感じたという感覚ではないんですよね」
―長く続けられたのは、その向上心があってこそなのでしょうね。スンテ選手が加入してライバルになったことで、「現役の期間が伸びたかもしれない」と話していたのが印象的でした。先輩後輩に限らず、いいところを常に取り入れる姿勢があったのですね。
「ありましたね。それは技術的なところだけではなく、メンタル的なところもです。誰にも負けたくないと、それは阿江さん(阿江孝一:現広島ジュニアユースGKコーチ)や西部(洋平)が他クラブからきたときもそう。小澤(英明)さんもそうだし、ユニバーシアード日本代表で大卒新加入のテツ(杉山哲:現つくばスクールコーチ)が入ってきたときもそう。アキが入ってきたときもそうだし、櫛引(櫛引政敏:現ザスパクサツ群馬)や(クォン)スンテが入ってきたときもそうでしたね。
―もっともアントラーズでGKとして出場数が一番多いのが曽ケ端コーチで、つまりは伝統を作り上げた本人でもあるといえます。アントラーズらしさとは、曽ケ端コーチそのものとも言えると思います。
「なんですかね、他を知ればアントラーズらしさというものがわかるのかもしれません。 でも、他を知らないので、何もかもが日常で当たり前のことなんですよね。でも、よく言われた“タイトルに対する貪欲さ”や“勝利に対する執着心”というのは、僕自身こだわってやってきたことです。それはもちろんフロントの人たちもそうだし、クラブ内にあるそういった雰囲気が当たり前だと思ってやってきました。優勝争いをしていないときの寂しさというのは、他のチームだったらあまりないと思います。優勝、そしてトップにいることが当たり前で、ヒリヒリしたゲームが続くことが当たり前で、リーグ戦が終われば年末には天皇杯があるのは当たり前。“らしさ”というのは、そういうところですかね」
―これからアントラーズの中心となる選手を育成していくにあたり、大事なことはどんなことが挙げられるでしょうか。
「うまい選手は今までたくさん見てきました。僕らの年代もそうですけど、いくらでもいますよ。そこからプロで試合に出て活躍するとなると、やはりうまいだけの選手ではありません。負けん気の強さみたいな、そういった熱量の高さがないと試合には出続けられません」
―ピッチ上の能力だけでなく、メンタル面の重要性ですね。その上で、チームとして勝ち続けることでしょうか。
「そうですね。勝ち続けることでいろいろなことがうまく回っていきます。その上で、自信をつけるのはものすごく大事なことです。無失点でチームが勝ち続けることはもちろん、学びながらも勝ち続けて試合に出続ける経験は何者にも代え難い。あとはその自信をいい方に向けないといけません。鼻が伸びてしまうと良くない」
―鼻が伸びて失敗するのは、どの年代でも一緒ですね。
「柳沢監督がよくユースの選手にも言いますが、やはり献身・誠実・尊重はすごく大事だと思います。安心していたらすぐにライバルに追い抜かれるし、そういった気持ちがないと『あいつ勘違いしていないか』と言われてしまうこともあるでしょう」
―チームは今、プリンスリーグで首位に立っていますが、ここから正念場を迎えます。
「プレミアリーグへ昇格するために、一つひとつという感じですが、点を取ることに対して今のチームは自信を持てています。柳沢監督もよく『2点差までなら大丈夫だ』と伝えていますが、そこは選手たちも感じているところだと思います。フィジカル面でも、鍛えることをテーマに、里内さんと大岩コーチが週の初めにGKもうまく入れてもらったメニューを取り入れていますが、ベースが上がっている手応えがあります。チームとしての武器をうまく活かしながら、チームの勝利にフォーカスしていきたいと思っています。やはり勝った上で反省できるのが一番いいですからね。プレミア昇格に向けて、ユースの応援よろしくお願いいたします」
