浦和戦の注目プレーヤーは、西大伍!

 10月29日、ビジターチームの選手紹介。北の大地で、5年ぶりにその名がアナウンスされる。ドームは万雷の拍手に包まれた。呼応するように、ビジタースタンドは愛情と信頼を高らかに歌い上げた。「走り抜けろ大伍、俺たちの大伍」。赤黒を纏って産声を上げたプロフットボーラーは今、アントラーズレッドの誇りとともに輝きを放ち続けている。築き上げてきた日々が凝縮され、鮮やかに照らされた瞬間。西大伍、古巣との対峙――。「今でも応援してくれる人がいるので、地元でプレーできることは嬉しいですね」。そう言って足を踏み入れたピッチに、背番号22が鮮烈な足跡を描いた。

 19分、赤黒のエース・都倉へのスルーパスにいち早く反応。瞬時の判断でペナルティーエリア左側まで進出し、スライディングでピンチの芽を摘む。後半開始からわずか25秒、タッチライン際から正確な縦パスを放ち、三竿健斗のプロ初スコアへとつながる波状攻撃の起点となる。55分、エリア右側でパスを受けると、アイデアの詰まった右足を一閃。意表を突いた一撃でゴールを襲う。75分からは主戦場をサイドハーフへ移し、より高い位置で司令官を担った。そして後半アディショナルタイム。レオ シルバからのフィード、その落下点に添えられた右足が磁石のようにボールを吸い寄せる。激闘の最終盤で見せた、超絶技巧のボールコントロール。攻守両面で剛柔を組み合わせながら、観る者を唸らせ、そして魅了してみせた。

「うーん、まあ特にはないですけど…。でも、無意識下のうちの気合いの入り方というか、いつもと違う感じはしましたね」

 西は“らしい”表現で、古巣と対峙した心境を紡いだ。2-1。90分を走り抜いて任務を遂行すると、札幌U-18時代に指導を受けた恩師・四方田監督のもとへ歩み寄る。戦いを終えた表情に柔らかさが戻った。そして、ホームスタンドに一礼。両手を挙げて思いを示し、故郷のピッチを後にした。

 「褒められた試合ではないというか、そこまで良かった試合ではないと思うけど」と西は言う。結果を出すこと、勝利を収めることはもちろん、“その先”にあるものを追求し続け、「何かを感じ取ってもらえる試合やプレーをしたい」と常々語るフットボーラーにとって、納得のいくプレーぶりではなかったのかもしれない。それでも「ここまで来ると、最後に勝っていることが大事」と、シーズン終盤に掴み取った3ポイントの価値を語った。いつになく慌ただしく歩き回ったミックスゾーン、かつてのチームメイトやスタッフ、そして地元の記者たちまでもが次々と再会に訪れたひと時で、西は充実の表情を見せていた。

「ブーイングは、もっともだと思います。良い形で終えることができませんでした」

 今から遡ること1年、2016年11月3日。もがき苦しみ続けていた、あの時――。公式戦4連敗という暗闇に迷い込んだアントラーズは、不穏な雰囲気とともに2ndステージを終えた。最終節の神戸戦、0-1。怒号とブーイング、悲痛な叫びが聖地を覆う中、西はピッチの中央に立った。ホーム最終戦セレモニーは、後に待ち受けるタイトルマッチの日々へ出港する儀式でもある。「皆さんのおかげで、今年も戦うことができました」。感謝の思いを紡ぐ中、スタンドから痛烈な声が響き渡った。「優勝できると思ってるのかよ。やることをやってから言え」。選手会長は確固たる決意で受け止めた。そして鋭い眼光とともに、言い放った。「絶対に、僕らは勝てると思っています」と。栄光の日々は、この一言から始まった。

 「一発勝負はアントラーズが得意とするところだから」とカメラの前で言い残し、カシマスタジアムを後にした西。その言葉を総力戦で証明し続けたアントラーズは、元日まで続いたノックアウトマッチを戦い抜き、2つの星を刻んで2016シーズンを駆け抜けた。12月3日、埼玉の夜に魂の90分を演じた後、背番号22の目には熱いものが込み上げていた。決意と覚悟を結果で示した、万感の思いがあふれていた。

「毎年成長していかないといけない。個人もチームも、右肩上がりで行けるかどうか。絵馬には“感動”って書いたんだけど、年末に刺激を受けて、自分たちも感動しながら試合をすることができた。そういう戦いをしたいし、見せたいと思う」

 今年2月、極寒の宮崎。つかの間の充電期間を終え、新たなる戦いへ照準を合わせる西が見据えていたもの――。その原点には、世界との激闘がある。栄光の日々に刻まれた、忘れ得ぬ記憶がそこにはある。昨年末のクラブW杯、各大陸王者との4連戦は、進化を続けるフットボーラーに大いなる刺激をもたらすものだった。「日本以外の国のクラブとの対戦を楽しめているし、戦いながら成長できていると感じている」と充実の時を過ごし、そして頂点に立てなかった悔しさを胸に宿した。「追い詰めたと言っても、負けたわけだから意味がない」。そう言って、決勝の地を去った背番号22。ただ、“白い巨人”を相手にしてもなお、不敵に、冷静に、そして鮮烈に「西大伍」を表現してみせた姿は、アントラーズファミリーの誇りだった。だからこそ、皆は叫ぶ。誇りと信頼を、高らかに歌い上げる。「俺たちの大伍」と――。

「大伍は攻撃にフォーカスして評価をされていると思うが、個人的には守備のレベルも高く、質が高いと思っている。一人での守備も、グループでの守備もそう。攻撃ではチームを落ち着かせてくれる」と、指揮官は全幅の信頼を語っていた。鹿のエンブレムを纏って迎えた7年目、押しも押されもせぬ不動の地位を築き上げた西は今、次なる栄光だけを見据えている。残りは3試合。「全力を尽くす」。シンプルな言葉に決意を込めた。

 カシマの空に決意を響かせてから1年。円熟と進化の日々を突き進む背番号22は今日も、フットボーラーとしての己を鮮やかな色彩で表現し続ける。「アントラーズはタイトルが懸かった試合を全て獲るつもりで挑んでいる」。勝利を、そして感動を――。俺たちの大伍が聖地のピッチを走り抜けたその先に、歓喜の瞬間が待っている。

   


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