新潟戦の注目プレーヤーは、中村充孝!

 「ポテンシャルを信じていた」と、新指揮官は期待を託してピッチへ送り出した。その希望は、新体制最初のスコアという形で結実した。6月4日、J1第14節。夏のような暑さに見舞われた広島で、ハイパーピンクの背番号13が輝きを放った。14分。視界に見据えたゴールマウス、ボールに込めた不退転の決意――。右足から放たれた強烈な一撃が、紫のスタンドを沈黙させた。「何が何でも勝たなければいけなかったから」。任務を遂行した中村充孝は、少しばかりの安堵感と充実感、そして進化への自信を携えて広島の地を後にした。

「彼の特長はボールを持った後のプレー。ボールを持ってから力を発揮するタイプだけど、それだけでは相手に対応されてしまう。ボールをもらう前の動きやボールをはたいた後のプレーが向上していけば、もっと活躍できると思っていた」

 チーム屈指のテクニックを誇りながら、そしてトレーニングで出色のプレーを見せながら、燻り続けていた中村。停滞と沈黙の日々、その全てを知る指揮官は、能力と才能を高く評価しているからこそ、強く要求する。「一つのプレーで終わりじゃないんだ。パスを出して、すぐに動き出すんだ」――。ボールに魔法を吹き込むテクニシャンは、しかし、ボールがなければ魔法を使えない。「ボールを持つ前の動き、その質と量を高めていけば…」。大岩監督は確信している。「そうすれば、もっと活躍できる」。

 広島戦から2週間後、6月17日。纏い始めた自信を確信へ変えるかのように、背番号13が再び輝きを放った。札幌戦、開始75秒。ペナルティーエリア右奥へ飛び出すと、繊細なタッチでゴールライン際まで持ち込む。足の裏でボールを止めた瞬間、中村にだけ見えていた景色があった。「この感覚はね、記者の方に言ってもわからないかなと思うんですよね。言葉にするのも難しくて、自分の中で大事にしたい感覚でもあって」。1人だけ別の時間軸に生きているかのような、独特なリズムでのプレー。次の刹那、ループパスをゴール前へ送り出す。アイデアとテクニックの結晶を前に、札幌の壁は無力だった。「全員の逆を突けたことが印象的なポイントですね」。ファーサイドで待っていた山本がヘディングシュートを突き刺し、聖地が歓喜に包まれる。1-0。ホーム初采配の指揮官に、そしてカシマでの勝利を渇望するサポーターに、勇気をもたらすアシストだった。

 持ち味を存分に見せ付けてから、13分後。指揮官からの要求を胸に刻み、進化への道のりを力強く歩む中村が、その証を聖地に刻み込む。15分。右サイドで西がボールを持った瞬間、敵陣深くへ疾走。刹那の判断で上体を動かし、相手の重心を逆に取らせてマークを置き去りにすると、背番号22から正確無比のスルーパスが届いた。大岩監督が求める「ボールをもらう前の動き」で守備を攻略した会心のプレー。「大伍くんが持った時点で相手の動きは見えていた」。ボールを支配下に収めれば、魔法の時間が始まる。ゴールライン際、鋭い切り返し。目前にそびえる3人の敵がフリーズした。冷静に繰り出されたクロスに反応したペドロは、相手の脅威を感じることなく、ボールをゴールへ届けるだけだった。

 2試合で1ゴール3アシスト。そのアイデアとテクニックで、中村は日々存在感を高めている。「流動性はより高まっていると思う」と手応えを掴んだマジシャンは、充実の日々を継続すべく、そしてさらなる進化を遂げるべく、胸に秘めた闘志を燃やす。「やらないといけないことをしっかりとやる。前回の試合よりも質を上げる。それを続けていきたい」。

  2013年にアントラーズへ加入してから、早5年目。背中に纏う“13”こそ、クラブの期待がいかに大きいかを物語っている。しかし過去4年間、超絶技巧から繰り出されるプレーは瞬間的な輝きを放つにとどまった。リーグ戦では全136試合中、半数に満たない64試合の出場。誰もがその才能を知っているからこそ、燻り続ける日々にもどかしさが募っていた。

 2015年夏には、石井監督就任後に3試合連続で先発出場。指揮官交代を合図に、開花の時を迎えたかと思われた。しかし、充実の日々は長くは続かない。4試合目の先発となった仙台戦、前半35分で途中交代。その後に演じられた大逆転劇を見届けると、再び暗闇に迷い込んでしまった。そして昨年夏、2ndステージ開幕後に3試合連続ゴールを記録。ついに本領発揮か――。期待感が膨らんだ。しかし、痛恨の負傷。開かれかけていた走路は、暗幕で閉ざされることとなった。

 そして今、みたび訪れた覚醒の兆し。「結果を出すという強い思いを心の中に持っている」と中村は言う。苦しい道のりを歩んできたからこそ、このチャンスを逃すつもりはない。過去2回の失望を思えば、継続と進化こそが重要なテーマになるだろう。「続けていきたい」という言葉の強調に、その思いが滲む。札幌戦後、多くの報道陣に囲まれる姿を見て「そんなに多く引き連れちゃって」と笑っていた指揮官は、自らの起用に応えた2試合を喜び、そしてさらなる進化を求めた。「満足せずに今以上のプレーを見せていってほしい」。その言葉に呼応するかのように、中村は「もっと質を上げられるように成長しないといけない」と誓っていた。

 継続の先に進化を遂げた時、中村は揺るぎなき攻撃陣の柱として君臨することになる。アントラーズの背番号13が燦然と輝くことになる。だからこそ、今夜も――。決意を胸に秘めたマジシャンが、聖地のピッチに魔法を描く。

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