天皇杯2回戦の注目プレーヤーは、久保田和音!

「紅白戦ではボランチとサイドハーフでプレーしましたけど、試合に出られるのであればどちらでもいいです」

 20歳の若武者はそう言って、試合への飢えを隠そうとはしなかった。2015年、1試合。2016年、1試合。プロフットボーラーとして刻んだプレータイム、通算157分――。アントラーズのユニフォームに袖を通して3年目、険しき道のりを歩んできたからこそ、久保田和音は目前のチャンスに奮い立っている。「少しでも良いプレーをして、チームに貢献したいです」。小さな身体に秘めた闘志を静かに、そして力強く燃やしている。

 「まず、タイトルを獲ることです」。ルーキーイヤーの目標を聞いた時、鋭い眼光とともに返ってきた言葉のことを、今もよく覚えている。2015年1月末、宮崎キャンプ。まだあどけなさの残る18歳が口にした、勝利への揺るぎなき信念。キャリアの浅い選手たちは「まずはプロのレベルに慣れて…」「少しでも試合に…」といったコメントを残すことが多いが、背番号26のそれは、他とは一線を画すインパクトがあった。良し悪しではなく、しかし大いなる期待感を抱かせる一言だった。

 その言葉に根拠を持たせるかのように、1年目のキャンプで見せたパフォーマンスは出色のものだった。いち早くプロレベルのプレースピードに適応し、トレーニングゲームでは長短のパスで攻撃を司る。ルーキーながらセットプレーのキッカーを任され、得点を演出する場面もあった。日々存在感を高めていく久保田を、セレーゾ監督も高く評価。2月14日、水戸をカシマスタジアムに迎え撃ったダービーマッチで、指揮官は背番号26を先発に抜擢した。シーズン到来を告げる一戦で柴崎とともにボランチを務めたルーキーは、随所に可能性を感じさせるプレーを披露。「もっと視野を広げて、チームをコントロールするくらいの気持ちでやらないといけないですね」。聖地のピッチに立った高揚感と充実感が、その表情に滲んでいた。

 プロフットボーラーとして、滑り出しは上々だった。リーグ戦初のベンチ入りは4月3日。その後はなかなか試合に絡めなかったが、小笠原と柴崎が君臨するボランチというポジションにあって、そう簡単に出場機会が巡ってくるわけはない。久保田は己を磨き上げながら、虎視眈々と出番を狙っていた。全体練習を終えた後には、ウェイトトレーニングに打ち込んだ。そして9月9日、待望の公式戦デビューは天皇杯2回戦。聖地で行われたFC琉球戦でフル出場を果たし、3-1での勝利に貢献した。「反省点の多い試合」と納得はできなかったが、アントラーズでの一歩目をしっかりと刻んでみせた。

 だが、そこから日々は苦しいものだった。鹿島神宮の絵馬に書き入れた「貢献」を胸に誓って迎えた2016年。飛躍を期した2年目だったが、クラブはミドルゾーンに強力な補強を施した。リーグ屈指のボールハンター・永木を迎え入れ、さらに久保田と同い年の三竿健斗も獲得。一気に激しさを増したポジション争いに身を置き、背番号26は浮上することができなかった。ピッチに立ったのはわずか1試合、すでに敗退が決まっていたナビスコ杯の最終戦のみ。ルーキーイヤーと同じ出場数にとどまり、年末のクラブW杯では23名の登録メンバーにも入れなかった。新たに2つの星を刻んだチームにあって、「タイトルを獲ること」を渇望していたからこそ、そこにある己の不在はこの上なく悔しいものだった。20回目の誕生日、19個目の星を刻む瞬間をピッチの外から見届け、久保田の2年目は幕を閉じた。

 そして迎えた、3年目。柴崎がスペインへ渡ったミドルゾーンには、新たにレオ シルバが加わった。クラブ史上屈指の水準で繰り広げられる定位置争いに身を置き、久保田は不退転の決意を胸に宿している。1月24日、タイでのプレシーズンマッチ初戦。先発メンバーに名を連ねた背番号26は、キャンプイン直後という過酷な環境下にあって、激しいボディコンタクトを繰り返した。「守備の部分では良い形でボールを奪えて、球際のところは良かったと思います」。バンコクで掴んだ一定の手応えは、日々積み重ねてきたウェイトトレーニングの成果でもあった。コンディション調整を始めたばかりの段階、選手間の距離が開いて苦戦を強いられる中でゲームコントロールに腐心する姿に、あらゆる逆境を跳ね除けようという思いが現れていた。

 「今年こそは試合に絡んで、チームに少しでも貢献できるように」――。絶えず「貢献」と口にする背番号26が今季、絵馬に書き入れた言葉は「挑戦」だ。同期加入の鈴木優磨が背番号9を託されるまでになり、大橋が新天地の金沢で定位置を掴む一方、久保田は今も険しき道のりを進む。それでも、その強い意志が揺らぐことはない。ひたむきに己と向き合い続け、広州恒大とのアウェイゲーム、大岩監督の初陣となった広島戦でベンチ入りを果たした。少しずつではあるが、しかし着実に。ピッチへ立つ瞬間は迫ってきている。

「“ボールをはたいて、それをまた受けて、またはたく”というようなプレーをしたいですね。剛さんからは『“ボールを出して、受けて”という連続プレーをすぐにやめるな』とコーチ時代から言われています」

 聖地のピッチに立つ自分の姿をイメージしながら、背番号26は試合前日のクラブハウスを後にした。「攻撃のリズムを作る」という任務を遂行した先で、輝かしい未来が待っていると信じて――。久保田和音、20歳。険しき道のりを経て、いざ。「出場したら、積極的にミスを恐れずにやりたいです」。己の存在価値を示す時が、やってきた。

 
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