広州恒大戦の注目プレーヤーは、永木亮太!

 1点を追う広州の夜。試合終盤に得た、2つのFK。願いと希望を託され、背番号6は右足を振り抜いた。中国王者を脅かした強烈なシュートは、しかし、ゴールネットを揺らすことはできなかった。0-1。「負けてしまって悔しいです。でも、まだ半分が終わっただけですから」。そう言って、永木亮太は前を向いた。

「アントラーズはACLで優勝していないので、このタイトルを獲りたいという思いが一番強いです。そうすればクラブワールドカップに出られるので、またあの舞台に戻りたいという思いが強いんです。国内タイトルももちろんそうですけど、一番はACLを獲りたいです」

 アントラーズ2年目、初挑戦のACL。永木は新たなるチャレンジへの決意を語っていた。しかし、プレシーズンは苦しい日々だった。タイと宮崎での5試合、刻んだプレータイムは36分のみ。レオ シルバという偉大なライバルが加入する中、負傷離脱を強いられてリハビリと別メニュー調整を余儀なくされた。「コンディションを早く上げていかないと」という言葉に、焦りともどかしさが滲んだ。

 指揮官へのアピールを続けるチームメイトを横目に、黙々と汗を流していた永木。キャンプを終えて鹿嶋に戻ってからも、復帰を目指す日々が続く。2月11日の水戸戦はベンチ外。今季の公式戦初戦、浦和とのFUJI XEROX SUPER CUPが待望の復帰戦となった。メンバー入りを果たし、69分に途中出場。勝利の瞬間をピッチで迎えることができた。

 それから3日後、ACL初戦。聖地で迎えた重要なオープニングマッチで、永木は先発メンバーに指名された。絶対に勝たなければならないホームでの一戦、重苦しい雰囲気の中で先制点をもたらしたのが永木だった。64分、左CKを蹴り込むと、金崎のヘディングシュートへ結び付く。ゴールネットを揺らし、カシマスタジアムが歓喜に包まれた。

 苦しみ抜いたプレシーズンを経て、初めて挑むアジアでの戦い。その幕開けとなった一戦でフル出場を果たし、1アシスト。上々の船出となった。「90分を通して主導権を握らせないようにしなければいけないですね」と言って、さらなる向上を誓った永木。その口調に満足感はなかったが、戦いの場に帰還した安堵感は確かにあった。「勝ちに行った試合で勝ち点3を取ることができてホッとしています」。永木の2017シーズンが、真の意味で始まりを告げた瞬間でもあった。

 永木亮太、28歳。フットボーラーとして円熟の時を迎えるボランチがアントラーズへの移籍を決断したのは、2015年末のことだった。湘南で築いてきた充実のキャリアを捨ててでも、新天地での飛躍を選択。「今まで培ってきた自分の全てを出し、タイトル獲得のためチームに貢献できるように全力を尽くします」。その言葉に、不退転の決意が滲んでいた。

 しかし、アントラーズでの時間は思うようには進まなかった。リーグ戦開幕からベンチを温める日々が続く。初先発は第7節、4月16日まで待たなければならなかった。湘南のスタイルとは異なるサッカーに、永木は戸惑っていた。今季加入の三竿雄斗は「亮太くんは“慣れるまでに半年かかった”と言っていました」と明かす。幾多もの実力者がポジション争いに敗れてきたアントラーズのミドルゾーン。湘南で実績を残してきた背番号6にとっても、一筋縄ではいかない競争だった。歓喜の時を迎えた1stステージ、先発はわずか2試合のみ。計374分の出場にとどまった。

 永木は腐心した。アントラーズのサッカーを身体に染み込ませるべく、指揮官とチームメイトの信頼を得るべく、トレーニングに打ち込み続けた。そして迎えた2ndステージ、ついに充実の時が訪れる。1stステージの約3倍となる1064分のプレータイムを記録。11月には聖地・カシマスタジアムで日本代表デビューも果たした。それから訪れた激動の日々。痺れるような戦いを繰り返す中、フル稼働でチームを支えたボランチのキャリアに2つのタイトルが加わった。12月3日、魂の90分を演じた後には「アントラーズの底力を体感できました」。興奮気味の口調から発せられた言葉に、苦しき日々からの鮮やかな挽回を果たしてみせた喜びがあふれていた。

 低空飛行を続けたシーズン序盤戦を経て、ついにアントラーズに不可欠な存在となった永木。思えば、そのキャリアも決して順風満帆と言えるものではなかった。東京Vジュニアから地元のクラブを経て、川崎Fユースに加入。トップチーム昇格は果たせず、中央大学に進学して大学サッカーの舞台で台頭すると、念願のプロ入りが実現した。

 “憧れの選手”として挙げている小笠原からは「お前と俺、そもそもプレースタイルが違うだろ」とイジられたという。かつてはより攻撃的なイメージの、いわゆる司令塔タイプのボランチだった永木。より高いレベルに己を到達させるために能力を磨き上げた結果、驚異的なタフネスで攻撃の芽を摘み続けるプレーヤー像を作り上げた。かつて描いたイメージとは異なるのかもしれないが、困難に直面するたび、己と向き合って着実に進化を遂げていたからこそ、今がある。“憧れの選手”とともにコンビを組む、今がある。

 一歩ずつ、一つずつ――。幾多もの困難を乗り越えてきた永木の次なるチャレンジは、アントラーズで絶対的な存在になること。今季は勝利の後でさえ、「もっとゲームをコントロールしないといけなかった」と反省の弁を繰り返している。理想はもっと高いところにある。だからこそ永木は己と向き合い、ボールを追い続けている。

 今夜は2点差以上での勝利が求められる大一番。とはいえ、攻撃だけに注力するわけにはいかない。失点が極めて重い意味を持つ中、“舵取り役”としてボランチが担うタスクは重要だ。永木がミドルゾーンを支配することが、勝利への絶対条件となるはずだ。

 「このタイトルを獲りたいという思いが一番強い――」。背番号6が決意を体現した先に、逆転突破の瞬間が待っている。永木は今夜もピッチを駆ける。アジア制覇への道のりを切り拓くために。初挑戦のACL、その物語に新たな章を書き加えるために。

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