天皇杯準々決勝のみどころを読む!
「悔しいです。本当に悔しいです」
激闘の余韻が残る記者会見。どんな時も言葉を選びながら思いを紡ぐ誠実な指揮官が、語気を強めて感情を放った。各国メディアから称賛の言葉を並べられる中、「手放しで褒められているが、本当は悔しいのでは?」という問いに対し、それを遮るかのように口をついて出たのが、冒頭の言葉だった。
FIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016、決勝。熱を帯びたピッチの上で繰り広げられた120分間の激闘。その先で、アントラーズは世界の頂へ登り詰めることはできなかった。2-4。背番号10の煌めきが2つのスコアを刻み、守護神が渾身のビッグセーブを連発し、2日後にJリーグベストイレブンに輝くこととなるDFリーダーも大車輪の活躍を見せた。それでも、“白い巨人”の壁を崩すことはできなかった。歴史に名前を刻むことはできなかった。
濃密で、それでいて瞬く間に過ぎ去った夢のような時間。全員で駆け抜けた11日間、4試合。そして今、胸に深く刻まれているのは、かつて経験したことのない、表現し得ない悔しさだ。もちろん、充実感や誇りも強く胸に宿っている。難敵との連戦で勝利を重ね、日々進化を遂げたことへの手応え、世界でも戦えるという自信。俺たちを笑う者はもういないだろう。世界が衝撃を受けただろう。しかし、だからこそ。悔しい。本当に悔しい——。
フットボールやJリーグとの接点を持たない日常を過ごす人々も、あの夜はピッチに視線を注いでくれた。職場や学校で「すごい」「惜しかった」「感動した」、そんな言葉の数々を贈られたアントラーズファミリーも多いのではないだろうか。反響の大きさに驚き、誇らしさと喜びを感じると同時に、刻まれた悔しさがふつふつと沸き上がる。
この思いを糧に——。誇りを胸に宿し、悔しさと向き合い、再び走り始めることもまた、フットボールの一部だ。あの激闘を経て、アントラーズが基準とするステージは変わった。夢を歴史にすることはできなかったが、夢が目標に変わったことは間違いない。練習に、そして試合に臨むたびに「世界で勝てるのか」という尺度を己に突き付け、己に向上を課す日々が始まったのだ。もしかしたらそれは、以前より苦しいものかもしれない。だが、あの景色を見たからこそ、以前の水準にはもう戻れない。レアル・マドリードとの対峙を思い出として語り継ぐだけならたやすいが、あの舞台に再び立つためには、長く険しい道のりを進んでいかなければならない。浮き足立つことなく、着実に歩みを進めていかなければならない。
さあ、再び戦いの日々が始まる。天皇杯準々決勝、サンフレッチェ広島との激突。彼らも1年前、世界の舞台で誇りを懸けて戦った。準決勝で南米王者リーベル・プレートに0-1と屈したが、3位に入って意地を見せた。彼らもまた、あの舞台への思いを強く胸に秘めていることだろう。再び世界で戦うために必要なACL出場権を得るためには、この天皇杯を制するしか道はない。並々ならぬモチベーションでカシマへと乗り込んでくるはずだ。
そしてもう一つ、彼らには勝利を渇望する理由がある。ともに戦った仲間との別れだ。ユースから計20年間、紫のユニフォームを纏って戦い続けたバンディエラがスパイクを脱ぐ決意をした。そして、最前線で得点を量産し続けたストライカーが、新たなキャリアを名古屋で歩み始める決断を下した。森崎浩司と佐藤寿人。一時代を築いた2人との別れを笑顔で飾るために、懸ける思いは強いだろう。大岩剛を栄光の記憶で送り出した、あの時を思い起こせばわかる。
アントラーズの前に何度も立ちはだかってきた、偉大なるフットボーラーに心からの敬意を。しかし、だからといって、俺たちが歩みを止めるわけにはいかない。2016年、カシマスタジアムで戦う最後の試合だ。聖地は来季に向け、サポーター席とベンチの入れ替え、そして大型映像装置の新設を行う。慣れ親しんだ光景はこの試合で見納めとなり、来季からはまた新たな歴史を紡いでいくこととなる。節目の一戦、勝つしかない。
激闘を終えた選手たちはつかの間の休暇で心身を充電し、J1王者として全員で参加したJリーグアウォーズを経て、トレーニングを再開した。グラウンドに満ちていたのは緊張感と次なる勝利への意志だった。世界で戦った11日間で充実の時を過ごした者、思うように出番を得られず、奮起を期す者。それぞれの切磋琢磨が競争意識が高め、チームを刺激する。そして試合前日には、多くの横断幕とビッグフラッグがチームを鼓舞した。思いはひとつだ。天皇杯を獲る。みんなで。
あの埼玉の夜、キャプテンは静かに語っていた。
「ここで浮かれてしまうか、“あのピッチにもう一度立ちたい”と思うかどうかで今後が変わる。ここでタイトルを獲ることで“また次も”という欲が出てくる」
リーグを制したからこそ胸に去来する、次のタイトルへの思い。ファイナルで敗れたことで芽生えた、リベンジと勝利への渇望。その全てをぶつける舞台が天皇杯だ。あの激闘を経て、かつてないほどに注目度は高いだろう。それは非常に喜ばしく、誇らしいことだ。そして同時に思う。注目されているから勝ちたいんじゃない。俺たちはアントラーズだから、勝ちたい。全ての試合に勝ちたい。
久々に帰還する聖地・カシマスタジアムで、ともに勝利を。アントラーズファミリー全員で、再び走り始めよう。
激闘の余韻が残る記者会見。どんな時も言葉を選びながら思いを紡ぐ誠実な指揮官が、語気を強めて感情を放った。各国メディアから称賛の言葉を並べられる中、「手放しで褒められているが、本当は悔しいのでは?」という問いに対し、それを遮るかのように口をついて出たのが、冒頭の言葉だった。
FIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016、決勝。熱を帯びたピッチの上で繰り広げられた120分間の激闘。その先で、アントラーズは世界の頂へ登り詰めることはできなかった。2-4。背番号10の煌めきが2つのスコアを刻み、守護神が渾身のビッグセーブを連発し、2日後にJリーグベストイレブンに輝くこととなるDFリーダーも大車輪の活躍を見せた。それでも、“白い巨人”の壁を崩すことはできなかった。歴史に名前を刻むことはできなかった。
濃密で、それでいて瞬く間に過ぎ去った夢のような時間。全員で駆け抜けた11日間、4試合。そして今、胸に深く刻まれているのは、かつて経験したことのない、表現し得ない悔しさだ。もちろん、充実感や誇りも強く胸に宿っている。難敵との連戦で勝利を重ね、日々進化を遂げたことへの手応え、世界でも戦えるという自信。俺たちを笑う者はもういないだろう。世界が衝撃を受けただろう。しかし、だからこそ。悔しい。本当に悔しい——。


この思いを糧に——。誇りを胸に宿し、悔しさと向き合い、再び走り始めることもまた、フットボールの一部だ。あの激闘を経て、アントラーズが基準とするステージは変わった。夢を歴史にすることはできなかったが、夢が目標に変わったことは間違いない。練習に、そして試合に臨むたびに「世界で勝てるのか」という尺度を己に突き付け、己に向上を課す日々が始まったのだ。もしかしたらそれは、以前より苦しいものかもしれない。だが、あの景色を見たからこそ、以前の水準にはもう戻れない。レアル・マドリードとの対峙を思い出として語り継ぐだけならたやすいが、あの舞台に再び立つためには、長く険しい道のりを進んでいかなければならない。浮き足立つことなく、着実に歩みを進めていかなければならない。


そしてもう一つ、彼らには勝利を渇望する理由がある。ともに戦った仲間との別れだ。ユースから計20年間、紫のユニフォームを纏って戦い続けたバンディエラがスパイクを脱ぐ決意をした。そして、最前線で得点を量産し続けたストライカーが、新たなキャリアを名古屋で歩み始める決断を下した。森崎浩司と佐藤寿人。一時代を築いた2人との別れを笑顔で飾るために、懸ける思いは強いだろう。大岩剛を栄光の記憶で送り出した、あの時を思い起こせばわかる。
アントラーズの前に何度も立ちはだかってきた、偉大なるフットボーラーに心からの敬意を。しかし、だからといって、俺たちが歩みを止めるわけにはいかない。2016年、カシマスタジアムで戦う最後の試合だ。聖地は来季に向け、サポーター席とベンチの入れ替え、そして大型映像装置の新設を行う。慣れ親しんだ光景はこの試合で見納めとなり、来季からはまた新たな歴史を紡いでいくこととなる。節目の一戦、勝つしかない。




「ここで浮かれてしまうか、“あのピッチにもう一度立ちたい”と思うかどうかで今後が変わる。ここでタイトルを獲ることで“また次も”という欲が出てくる」
リーグを制したからこそ胸に去来する、次のタイトルへの思い。ファイナルで敗れたことで芽生えた、リベンジと勝利への渇望。その全てをぶつける舞台が天皇杯だ。あの激闘を経て、かつてないほどに注目度は高いだろう。それは非常に喜ばしく、誇らしいことだ。そして同時に思う。注目されているから勝ちたいんじゃない。俺たちはアントラーズだから、勝ちたい。全ての試合に勝ちたい。
久々に帰還する聖地・カシマスタジアムで、ともに勝利を。アントラーズファミリー全員で、再び走り始めよう。
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