2010年、J1第16節。夏の夜に輝いた天才。
4連覇を目指す道のりが折り返しを迎えようとしていた第16節。日が沈んでも暑さの残るカシマの夜、アントラーズが誇る天才が眩いばかりの輝きを放った。2010年7月31日。野沢拓也がピッチに魔法をかけた。
ショーの幕開けは開始8分。左サイドでボールを持ったフェリペ ガブリエルからのクロスに反応し、前方へ走り込みながらヘディングシュートを決めた。ブラジルで“天使”と呼ばれていたフェリペから鹿島の天才へ、たった1本のパスでゴールへとたどり着いた。2人が同じ絵を描いた次の刹那、ゴールネットが揺れていたのだった。神戸は4人のDFを並べていたが、もはや無力だった。
そして32分、ファインゴールは一瞬の出来事だった。左CKのキッカーを務める小笠原は、視界に背番号8を捉えるや否や、グラウンダーのパスを供給。ペナルティーアークの前方に空いたスペースに走り込んだ天才は、迷うことなく左足を振り抜く。慌ててコースを消しに走った神戸DFの願いは叶わない。放たれたシュートはクロスバーを叩き、ゴールライン上を跳ねた後、再びバーに当たってゴールネットを揺らした。数センチでも異なる軌道を描いていたら、決まらなかったであろうシュート。試合後、野沢は事もなげに言った。「自分は蹴るだけだった」と。
野沢の華麗な2ゴールで、アントラーズは勝利への道を突き進む。オリヴェイラ監督は67分に本山を投入。ファンタジスタを隣に得た野沢は、みたび輝きを放った。74分、背番号10からの優しいパスを受け、前を向いてドリブル。ハーフウェーラインを越え、選択肢を探る。そして放たれたスルーパス、その軌道にはマルキーニョスがいた。全速力で駆けるゴールハンターは、スピードを落とすことなくボールへ到着し、右足を一閃。グラウンダーのシュートが左ポストを叩いてゴールへ吸い込まれた。マルキーニョスからすれば、「ボールに追い付くために走った」のではなく、「走った先にボールが待っていた」、そんな感覚だったに違いない。技術とアイデアの結晶。極上のラストパスだった。






3-0。天才が放った輝きが、アントラーズを会心の勝利へ導いた。今も鮮やかな記憶とともにある、夏の夜のゴールショーだ。
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