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 3月19日、リーグ第5節のホーム湘南戦。松村優太が久しぶりにカシマのピッチへ戻ってきた。昨年10月2日の横浜FC戦以来、実に約4か月ぶりとなる公式戦の出場。「プレーできることが本当に楽しい」。その言葉からは、心からの喜びが伝わってきた。

 しかし、ピッチから離れていた期間は、とても苦しく、辛い時間だった。先の見えない暗闇を歩くような日々。これまでの人生を振り返っても、「本当に一番辛かったと言っても過言ではない」という経験だった。

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「自分よりも、もっと長い期間、ピッチを離れていた選手がいることは知っている。だけど、これまでの自分は、あまり離脱しないタイプだったから、余計に辛かったんだと思う。自分では少し前からプレーできる感覚があったし、スタッフの方には何回も『もう復帰できる。もうプレーしたい』と、繰り返し伝えていた。イライラしたし、フラストレーションも溜まった。自分が子どもだった部分もあったと思う。ただ、スタッフの方々からは、焦らないように、何回も気持ちをなだめてもらっていた。そんな助けがあって、ようやく、復帰することができた。ここからリスタート。つらい時期があったからこそ、ここから思う存分、プレーしたいし、頑張りたい。今はそんな気持ちでいっぱい」

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 そんな忍耐と我慢を強いられた数か月。ピッチから離れた期間は、自分を見つめ直す貴重な機会となった。そして、これから取り組むべきことも、より明確に捉えられるようになった。

「自分のプレースタイルを変える必要はない。自分のような特長をもった選手は、今のアントラーズにいない。自分が加わることで、『新しい風』ではないけれど、違った角度から違う個性を発揮できるはず。スピードを前面に出して、チームに大きく貢献したい」

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 すると、意識の変化はすぐに成果となって現れた。復帰を果たしたリーグ第5節の湘南戦で、積極果敢な仕掛けを繰り返し、短い時間ながら存在感を示すと、リーグ第6節の清水戦では大仕事をやってのける。

 0-1と1点ビハインドで迎えた78分、右サイドでボールを受けた松村が、早いタイミングで鋭いクロスを入れる。これを優磨がヘディングで合わせ、シュートはゴールネットに吸い込まれた。復帰後、初めてのアシストが貴重な同点弾となった。その後、試合終了間際に上田が決勝ゴールを決め、逆転に成功。守備で失点に絡んだ場面は反省点になったが、絶妙なクロスと果敢なドリブル突破で、逆転勝利に大きく貢献してみせた。

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 しかし、その後は、自身が納得できるパフォーマンスをなかなか披露できていない。

 リーグ第8節 横浜FM戦の試合後には「自分が出場してから3失点してしまったことに責任を感じる。途中出場でチャンスを確実に決めていけるような選手にならなければいけないと思った」と語り、ルヴァンカップのC大阪戦後にも、「勝つことができたのは良かったけど、個人的には良いパフォーマンスではなかった。反省材料しかない。下を向いていても仕方がないので、もっと戦っていかなければいけないと思う」と唇を噛みしめた。

 そして、直近のリーグ第9節 名古屋戦でも、「タイトルを争う上ではこういった拮抗した試合に勝っていかなければいけない。今日取れなかった勝ち点2が響くかもしれない。勝ち切りたい試合だった」と、勝利に貢献できない悔しさを語っていた。

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 ただ、松村はまだ21歳の誕生日を迎えたばかり。伸び盛りでこれからの活躍が期待される選手だ。レネ監督も松村への期待を隠すことはない。

「出場時間に対していい働きをしてくれているし、彼の姿勢は評価している。ゴールに迫る決定的な仕事をするには、1対1を仕掛けることが必要となるし、そのポテンシャルがあることを自分たちも分かっている。その意味では若い選手だし、これからの出場時間を勝ち取ってもらえればと思う。また、それを要求し、後押しするのも監督の仕事だと思っている」

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 指揮官からの期待は本人も強く感じている。練習後に個別で指導を受ける場面もあり、「高いポテンシャルがあることは間違いないから、努力を続けよう」と声をかけてもらった。監督、スタッフ、そして、ファン・サポーター。すべての人の期待に応えたい。復帰後はそんな気持ちも高まっている。

「レネ監督からは『もっと仕掛けても良い』と言ってもらったし、前にスペースがあれば、どんどん勝負を仕掛けていく。相手が守備ブロックを敷いてきたとき、目の前の相手を抜いたら、全体が崩れていく。自分の特長を活かして狙っていきたい。そして、『松村、ここからまた活躍するんじゃないか』、という期待をしてくれるファン・サポーターの方々もいると思う。そんな人たちを前に、離脱期間を言い訳にすることはできない。またたくさんピッチに立って、ここから思う存分、元気な姿を見せていきたい」

 もう制限するものはなにもない。唯一無二の長所を発揮し、思う存分、勝利のために走るだけ。若きスピードスター、松村優太のリスタートはまだ始まったばかりだ。

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