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 安西幸輝の存在はチームに欠かせない。いつも元気にチームを盛り上げ、底抜けな明るさで、自然と周囲をポジティブな方向へと導く。

 しかし今シーズン、そんな安西が人知れず悩み、もがいていた。チームスタイルの変化もあり、自身が思い描くプレーができず、そこから抜け出す方法も全く見つからなかった。これまでの人生で一度も経験したことがない不調。大好きで仕方なかった試合でプレーすることさえ、いつしか怖くなっていた。

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「通っていたパスも通らず、奪えるボールも奪えない。ドリブルで突破できたところも、できなくなっていた。全部が今までと真逆の感覚。次の試合の準備をしていても、だんだん怖くなってきた。『明日も同じ感じなのかな...』とか、『明日の試合はどうなるんだろう…』とか。試合前日が一番怖かった」

 すべてが思うようにいかない。精神的な余裕がなくなる中で、自身への批判の声は嫌でも耳に入ってきた。いまの状態で試合に出ていいのだろうか。そんな迷いすら生まれた。

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 だが、安西はそれでもネガティブな感情を表に出すことはなく、いつも通り、明るく振る舞った。「このプレーをしていれば、批判を受けるのは仕方ない」。期待の裏返しとも言える厳しい声を真摯に受け止め、ひたむきにトレーニングへ打ち込んだ。

「周りにマイナスな言葉を吐かないようにすることは意識していた。やっぱり、チームが明るくなるのが一番。これまでも自分が悩んでいる姿をチームメートに見せてこなかったし、気づかれないようにしていた」

 しかし、そんな苦悩をひた隠しする安西の異変に、長年ともに戦ってきた2人が気づかないわけがなかった。

「健斗や優磨たちが、自分のことを気にかけてくれた。健斗は小さい頃から一緒にプレーしているし、優磨も友達みたいな感じ。あの2人は自分のことをすごく気にかけてくれていた。気づかれないようにしていたけど、気づかれた。2人の存在は本当に大きかった」

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 信頼のおける2人に支えられ、安西は苦しいなかでも、とにかく前を向いて走り続けた。「自分の武器は走力。自分を信じて、チームメートを信じて、走っていれば、いつかチャンスは来るはず」。年齢と経験を重ね、視野が広がったからこそ生まれた新たな悩み。その悩みをどう乗り越えるか。自分が試されていると感じた。

「苦しい時期は、誰にでもある。そこにどう立ち向かって、自分と向き合えるか。それが人として変われるかという部分だと思う。試行錯誤を続ければ、どこかで“きっかけ“をつくれると思う。その“きっかけ“を大切にしたい」

 気づけば、シーズン終盤に突入した。今もまだ、完全に悩みから解き放たれたわけではない。みんなが思い描く“安西らしさ“と現在の自分には、まだまだ乖離がある。そして、何より自分自身に納得できていない。

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 ただ、それでも「前より気持ちは吹っ切れた」と、少しずつ活路が開けてきた感覚はある。そして、どんな状況だとしても、必ずチームの勝利に貢献しなければいけないという、強い使命感と責任感がある。それはアントラーズ復帰を決断したときに、固く誓った覚悟があるからだ。

「今シーズンはなかなか自分らしくプレーできなくて、苦しい時間が続いている。それでも、『背番号2』をつけている以上、自分には、アントラーズを勝たせる義務がある。(内田)篤人くんから特別な思いを込められて、もらった番号ということはわかっているし、今はその責任を感じながら、フットボールと向き合っているところ。だから、川崎Fが相手でも、責任をもってしっかりプレーして、自分の持ち味を出していきたい」

 自分らしいプレーで勝利へ導く。アントラーズの背番号2、安西幸輝は揺るぎない決意を胸に、これからも走り続ける。

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