遡ること2年前、クォン スンテはポジションを失った。これまで己の体一つで、大きな責任を背負い、情熱と誇りを持ってゴールマウスを守ってきた。それを感じることのできない日々が、どれだけの苦痛を伴うか。「僕のフットボール人生で、あってほしくないシーズンだった」。その心情を想像することは憚られる。
しかし、彼は強かった。決してネガティブな感情を表に出すことはなく、腐らず、プロフェッショナルな姿勢を貫いた。そして、ポジションを明け渡した後輩へのアドバイスも惜しまず、経験のすべてを伝えていった。
「自分が若くして試合に出ていたとき、ベテラン選手からのアドバイスをもらえなかった。だからこそ、その役割を果たさないといけないと思った」
自分の感情をコントロールし、孤独とも戦いながら、ひたむきに努力を続けた。すると、昨シーズンのラスト5試合で、チャンスが訪れた。
「毎試合、毎試合、自分のフットボール人生で最後の試合になるかもしれない。1試合、1試合を無駄なく、必ず勝って終わるという気持ちだった」
もう「残りの現役生活は長くない」。その覚悟がプレーに表れたと振り返る。5試合で許したゴールは、わずかに1つ。これまで培ってきたGKとしての基礎技術に加え、百戦錬磨の経験を活かした的確なコーチングと声かけで、味方に安心感をもたらした。チームの成績は、4勝1分無敗。実力と努力、チームへの献身で守護神へ返り咲いた。
そして、迎えた2022シーズン。スンテは今年も「いつ終わるかもしれない覚悟」で試合に臨む。「3人に挑んでポジションを勝ち取りたい」と、向上心に衰えはないが、やはり若手3選手へのアドバイスを惜しむこともない。その両方を両立させることこそ、「チームが優勝のために挑んでいく姿」に繋がると、スンテは考えている。
「若い選手の成長なくして、強いアントラーズには戻れないと思っている。やはり選手を成長させたい、強いアントラーズを戻したいという気持ちがあるので、アドバイスを送っている。ただ、一つ言っておきたいのは、僕もチャレンジャーとして、ライバル3人に負けたくないという気持ちがある。切磋琢磨して、僕も含めて4人が成長していきたい」
世代交代は進み、今やチームに優勝を知る者は少なくなった。若い選手たちは、皆一様に「正直、僕らは経験したことがないし、まだ優勝の仕方を知らない」と語る。だからこそ、幾多もの激闘と修羅場をくぐり抜け、栄冠を掲げてきた、我々の守護神が担う役割は大きい。その立ち振る舞い、言葉、存在すべてが、アントラーズとは何たるかを示し、チームを優しくも力強く支える。
「自分はベテランとしての姿勢が大事だと思っている。それがピッチ内だけでなく、ピッチ外でもしっかりサポートしないといけないし、それがベテランの役割だと思っている。そこは心がけていることの一つ」
そんなスンテに聞いてみた。今の若いチームが優勝するためには、どんなことが必要なのか。
「今は毎試合、勝つことに集中してやるだけ。それが毎試合できれば、最終的に優勝の可能性も高くなる。今まで通り、毎試合勝つことができれば、選手たちも自信を持ち、自分たちで考えて、明確なプレーができると思う。それが良い結果へとつながっていく」
答えはシンプルだった。目の前の一戦に集中すること。ありふれた毎日のトレーニングをひたむきに、地道に続け、次の1試合で勝利する。それが己を信じ、味方を信じることにつながり、長期的な結果へと結びつく。「毎試合、勝つことに集中する」。一切の準備を怠らないスンテの言葉だから、説得力がある。
次の「目の前の一戦」は、浦和レッズとのアウェイゲーム。相手はリーグ15位と下位に沈むが、埼玉スタジアム2002ではいつも苦戦を強いられる。スンテも「相手はサポーターの人数も多いし、力も強いと思う」と、警戒を強めた。
だが、大丈夫。我々のゴールマウスには、頼れる守護神がいる。ピッチに彼の声が響き渡れば、絶大な安心感と闘争心が沸々と湧き上がる。
「今は良い集中力で戦えていると思う。でも、これから夏になって暑くなるし、スプリントや強度が求められている中で、より集中することが大事になってくる。後ろから声を出して、良い集中力を保てるようにしたい」
クォン スンテとともに戦える喜びを胸に刻み、埼スタで必ず勝利を掴み取ろう。