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 己への不甲斐なさからだった。第6節の清水戦、思い通りのプレーが出来ないまま途中交代を命じられたディエゴ ピトゥカは、苛立ちを抑えることができなかった。ペットボトルを蹴り上げて退場処分。この危険な行為に出場停止処分が課され、自分を見つめ直す機会が与えられた。

 この間、ピトゥカは真摯にフットボールと向き合った。トレーニングで若手選手に交ざり、一つひとつのメニューに全力で取り組んだ。「家族の温かいサポートに助けられた。チームとしても、個人としても、『優勝』という明確な目標を設定しているので、ブレることなく、目標から目を逸らすことなく、一つひとつのトレーニングに取り組んだ」。本人は、静かな口調でそう振り返る。

 そして、試合から遠ざかっていた期間は、レネ監督と会話する姿が頻繁に見られた。何を話していたのかを聞くと、優しくこう教えてくれた。

「レネ監督からは『ミスから学ぶことが大切だ』と声をかけてもらった。『誰もが人生で間違いを犯すことはある。そこから何を学ぶかが大事だ』とも伝えてもらった。だから、僕は『もう2度と繰り返さない』と監督に約束した。もちろん、フットボールに関するアドバイスもあった。『求められている戦術的なことをやりながらも、その中で、出来る限りの力を発揮して、全力を尽くすことを徹底してほしい』と伝えられた。みんなでそれを出来るようになれば、優勝に近づくと思う」

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 そんな周囲のサポートを受けながら、自分を見つめ直したピトゥカは、第11節のホーム磐田戦で公式戦の復帰を果たした。途中出場でピッチに入る際には、カシマスタジアムに詰めかけた大勢のアントラーズファミリーから温かい拍手が贈られた。この瞬間を思い返し、彼は次のように語った。

「やってはいけない行為をしてしまった後に、ああやって温かく迎え入れてくれた。これまで以上に、サポーターの皆さんへ感謝しなければいけないと思った瞬間だった。選手とサポーターでは、ピッチ内外で役割が違うけれど、皆さんはいつも全力で戦ってくれているし、後押ししてくれると信じている。だからこそ、僕らはピッチの中で全力で戦って、勝とうとする姿勢を見せて、結果を出さなくてはいけない。最後にみんなで喜び合えるように、全力を尽くしていきたい」

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 どんなときも、勝利のために全力を尽くす。その言葉に嘘偽りはない。研究熱心な彼は、日頃からさまざまな試合をチェックしており、次の対戦相手である札幌についても、「フットボールを観ることがものすごく好きなので、札幌の試合は観ているし、良いチームだと思う」と、当たり前のように語った。

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 しかし、彼が今季ここまで、持てる力のすべてを発揮できたかと言えば、そうではないかもしれない。本来のポテンシャルを考えれば、もっともっと、他を圧倒する活躍を見せられるはずだ。タイトル獲得のためには、彼がチームの新たなスタイルへさらにフィットし、真価を発揮することが必要になる。

「新しい戦い方を浸透させることは、決して簡単ではない。ただ、監督が代われば、目指すスタイルが変わるのは当然のこと。それと同じように、アントラーズの選手が考えるべきことは、何も変わらない。僕らがやるべきことは『アントラーズらしさ』を存分に発揮すること。TRABALHO(献身)、LEALDADE(誠実)、RESPEITO(尊重)からなるジーコ・スピリットを胸に、ピッチのうえで戦い続けたい。この『アントラーズらしさ』、『アントラーズならではの姿勢』をしっかり表現した先に、新たな戦術的な要素、新たにチャレンジすべき要素がある。とにかく、伝統的にアントラーズの一員として披露しなければならない姿を選手全員で示したい」

 アントラーズレッドを纏う誇りを胸に。ディエゴ ピトゥカは勝利のために戦う。

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