PICK UP PLAYER

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 鈴木優磨の復帰でアントラーズが変わった。これは決して大げさな表現ではない。それだけ彼が放つ熱量と存在感は圧倒的で、チームメートに与える影響も絶大だ。

 試合における存在感は、誰もが認めるところ。抜群の得点感覚のみならず、巧みなポストワークで味方に時間とスペースを与え、サイドに流れては味方の得点機会を演出。守備でもチームのスイッチを入れる猛烈なプレスをかけ、苦しい時間帯でも自陣深く戻って、味方の負担を最大限減らす。その風貌とイメージで誤解されることも多いが、彼は誰よりも勝利のために献身を尽くしている。

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「FWとして点を取ることはもちろん重要。でも、そこにプラスして、チームを勇気づけるプレーやチームが奮い立つようなプレーというものがあると思う。少なからず自分が見てきたアントラーズには、満男さんやソガさん、篤人さん、ヤスさんといった、そういうプレーを見せてくれる先輩たちがいて、その背中を見てきた。そこはアントラーズとして絶対に変えてはいけない部分だし、なくしてはいけない部分。だから、俺は俺らしく、そうしたプレーを見せていきたい」

 この献身性に、「刺激を受けた」と話すのが上田綺世。今季、2トップの採用が増えたことも一つの要因ではあるが、自身の守備強度が上がったのは「優磨くんの隣でプレーしている影響もある」と話す。同じポジションの後輩、染野唯月も「守備のスイッチを入れることができるし、チームが苦しいときに、前でボールを収めて時間をつくれる」と、尊敬の念を語った。優磨のプレーから後輩が学ぶことは多い。

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 ただ、彼の影響力はピッチの中だけに止まらない。優磨はトレーニングが始まるかなり前からクラブハウスを訪れ、入念に準備を行う。トレーニング終了後も筋トレルームへ直行。食事の管理も含め、体のケアに気を使うほか、1週間に少なくとも3試合以上は他チームの試合を観戦する。さまざまな面からプレーの向上を目指すその姿勢は、若手選手にとって、最高の手本となる存在だ。

 勝利と成長のために手を抜くことはない。だからこそ、ピッチ内では、味方に対しても強く要求するし、獰猛に戦う。そのせいか、ピッチ外で「若手に気を使われてる」と感じることもあるが、その分、自ら若手選手に声をかけることも心掛けている。

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 何気ない会話の中で中村亮太朗が「フィジカルを強化したい」と話すのを聞けば、練習後の自主トレに誘い、そこからそれが恒例になった。本人に聞くと、「単純にみんなで一緒になって成長していきたいという思いが強い。勝ちたいという思いに加えて、成長したいという気持ち。しっかり若手も一緒に巻き込んでやっていきたい」と、その理由を明かしてくれた。

 また、試合翌日、リカバリートレーニングで自身のメニューが早く終わったときも、最後まで他の選手の練習を一人、ピッチ脇で見続けていた。本人にその意図を聞くと、次のように教えてくれた。

「副キャプテンということもあるし、チーム全体を見ながら、誰かがモチベーションを落としていないか、気になって練習を見ていた。自分も若い頃、ヤスさんとかに気にかけてもらった。もう年齢的にそういう立場になってきたから。周りを見ながら、落ち込んでそうな選手には、声はかけるようにしてる」

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 アントラーズのために、自分ができることはすべてやる。優磨からはそんな強い信念が感じられる。

「シーズンはまだまだ始まったばかり。これから嫌なこともたくさん起きると思う。今はそれを乗り越えるだけのチーム力、すべての基盤になる『戦う部分』をつくっていこうとしている。どれだけ苦しいことが待ち受けていても、この先、ブレちゃいけないことは全員が分かっているはず。そこに対して、経験のある俺だったり、聖真くんだったり、その辺の選手がうまく選手全員を巻き込んでいかないといけない。『俺、関係ねぇよ』って選手を出さないようにね」

 確固たる実績を残してきたエースにも関わらず、誰よりもチームのため、勝利のために、献身を尽くす。その身一つでアントラーズの伝統を体現し、味方の闘争心に火をつける。

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 そんな優磨は、アントラーズファミリーへの熱き思いを抱く。アカデミーで育った優磨にとって、自身をずっと信じて応援してくれたサポーターは「大きなモチベーション」になる存在だ。特にスタジアムへ到着するときのサポーターの応援は、感情を揺さぶるものがあると言う。

「やっぱり、バス入りだったり、試合前の雰囲気は、選手にとって間違いなくモチベーションになる。自分がアントラーズに帰ってきた意味を、あの瞬間、もう一度身に染みて、感じさせてもらえる。『絶対に勝たないといけねぇな』って。そんな気持ちになる。こんなに多くの人にスタジアムに来てもらっているのに、ホームでのリーグ戦ここ2試合、勝てていないことは不甲斐ないけれど、だからこそ、もっともっと、たくさんのサポーターにスタジアムへ来てほしいし、後押しして欲しい。絶対に選手の力になると思う。一人でも多くの人に、スタジアムで一緒に戦ってほしい」

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 彼は全身全霊をかけてアントラーズのために戦っている。だから、我々も彼への信頼と愛情と期待を表現し、スタジアムで背番号40を迎えよう。

 仲間思いの頼れるエース。鈴木優磨は貪欲に勝利を求め続ける。

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