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 土居聖真が故郷の山形を離れ、鹿嶋にやって来たのは中学1年生のときだった。少年はアカデミーで成長し、2011年にトップチームへ昇格。そして、月日は流れ、今年の5月に30歳になる。人生の大半をアントラーズで過ごしてきた彼は、ここまでの道のりをこう振り返った。

「先輩たちの行動をたくさん見て、心に響く言葉をたくさん聞いてきた。僕は先輩たちから伝統を受け継いでいると思う。ときには、その重しを外したくなることもあるけれど、自分のなかには、常にアントラーズのエンブレムを背負って生きているという意識が染みついている。すべてはそれありきで自分の生活が進んでいると思う」

 心から尊敬できる先輩たちとともに戦い、喜びも苦しみも味わった。数々のタイトルを争い、幾多もの激闘を繰り広げ、アントラーズとは何たるかを学んできた。すると、経験を積み重ねるにつれて、ある思いが芽生えるようになった。キャプテンに挑戦してみたいーー。

「ここ数年、面談などで『キャプテンをやってみたい』と言っていた。なかなか実現しなかったけれど、今年はチームから『できるか?』と聞かれたので、即答で『はい、やります』と答えた」

 これまでキャプテンを務めた経験はほとんどない。ただ、いまの自分はチーム内の誰よりもアントラーズのことを知っているという確信があった。自分にしかできないことがきっとある。そして、「選手としても、人としても、いい刺激になる」と思った。だから、キャプテンに立候補した。

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 そんな土居は理想のキャプテン像について、小笠原満男の名前をあげて、次のように語る。

「満男さんはお世辞にもよくしゃべるタイプとは言えないし、普段の練習でもリーダーシップを取ってやっていたという感じではなかった。ただ、やっぱりみんなが困ったときとか、ちょっとチームが道を外れそうになったときに正してくれる。それも自分だけの意見ではなく、みんなの意見もしっかり聞いて、取り入れつつ、臨機応変に話し合ってくれた。決して上から物事を言うのではなく、『解決策は一つだけじゃない』と、みんなの気持ちになってキャプテンをしてくれていた」

 影響を受けたのは小笠原だけではない。跡を継いだ内田篤人からも多くのことを学んだ。

「篤人さんも満男さんが引退したときに『俺は満男さんにはなれない』と言っていた。同じように、僕も篤人さんにはなれない。満男さんから受け継いだキャプテンとしての振る舞いや、アントラーズの選手としてあるべき姿を、篤人さんは篤人さんなりに表現していた。だから、僕も僕なりのやり方でアントラーズを背負っていきたいと思う」

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 多くの言葉は必要ない。先輩から学んだことは、行動で後輩たちに示す。これまで貫いてきた姿勢をこれからも変えるつもりはない。

「誰がキャプテンだろうと、やることは変わらないのがアントラーズだし、気負ったり、威張ったりすることは考えていない。チームスポーツなので、試合に出ている選手も出ていない選手も、みんなで強いチームをつくり上げていきたい」

 新たな挑戦に向けて、土居は並々ならぬ覚悟を語る。ただ、その話す表情はどこか明るく、希望に満ちているようにも見えた。

「今シーズンはもう少し楽しく、楽しそうにプレーしているな、とも思われたい。今までも楽しくプレーしてきたけど、これまでとまた違った『土居聖真』を見せたい。キャプテンという役割を担って、また人としても、選手としても、大きくなりたいと思うし、アントラーズというクラブも大きくしたい。コロナ禍という状況もあるし、地域の人たちにも、もっと勇気を与えられるようなプレーを自分が示していきたいと思う」

 自分らしい、新しい自分へ。新キャプテン土居聖真が、2022シーズンへいどむ。

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