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 2021年11月27日、ホーム最終戦。試合後に行われたセレモニーで、三竿健斗は選手を代表して挨拶した。

「僕たちは若いチームですが、もっと個人が成長して、一人で試合を決めたり、一人ひとりがチームを勝たせられる選手にならなければいけません。そして、チームとしても変わらないといけないと思います。球際や切り替え、声を出すなど、フットボールの初歩的な部分だけを追求していても、タイトルを獲り続けるチームにはなれません。相手が僕らを見たときに恐れるような、ゲームを支配できるようなチームにならないと、これから先、また同じ気持ちになるだけです。ただ、これからも結束すること、仲間のために戦うこと、そして、タイトルへのこだわり。それだけは絶対に変えてはいけないと思いますーー」

 クラブを支えてくれるすべての人たちとともに、伝統を守りながら変革に挑みたい。涙をこらえながらスタジアムに詰めかけたアントラーズファミリーへ訴えた。

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 そして、迎えた2022シーズン。健斗はキャプテンマークを土居に託し、自らは選手会長に就任した。背負いすぎた重圧を仲間と分かち合い、一人の選手としてもっと成長したい。極めて前向きな決断だった。

「昨年はいろいろなことをやらなければいけない状況にあり、やはりタスクがすごく多かった。だから、今年はとりあえず自分のプレーに集中することで、チームに大きくプラスの面をもたらしたい。自分自身、ここ1、2年はすごく苦しんだ。それだけに、今年は大きく飛躍する年にしたいし、すごい覚悟を持って取り組んでいるので、これまでと違った姿を皆さんに見せたい」

 そんな一人の選手としての成長を追い求める健斗にとって、頼もしい存在がチームに帰ってきた。同い年、鈴木優磨の復帰だ。

「優磨は『向上心の塊』という表現が正しいか分からないけれど、彼がひとつバチンと行くことで、前線でスイッチを入れられるし、周りに伝えられる力がある。これまで僕一人がやろうとしていたことを、彼も一緒にやってくれる。また一緒にプレーできることが嬉しい。やっぱり彼はずっとアントラーズで育ってきて、どういうクラブなのかを一番理解している選手だと思うし、周りの若い選手にもすごく大きな影響を与えると思う」

 2人は互いの実力を認め合い、熱く激しく、切磋琢磨してきた。優磨も健斗への思いをこう語る。

「ベルギーにいた時も、いつもアントラーズの試合を見ていて、健斗が一人でチームを背負おうとしているな、という印象だった。彼が一人で背負っているものが大きいということは、画面越しに見ても感じられた。自分がチームに加わることでその負担を軽減し、その半分でも背負うことができればと思う」

 良きライバルであり、歴戦を勝ち抜いてきたチームメートだ。優磨の存在はとても大きい。

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 また、健斗にとってポジティブな変化は、優磨の加入だけではない。新たなコーチングスタッフから提示されたアイデアも、心を動かすものだった。

「今まで取り組んできたことが、より言語化されて、頭が整理しやすい状態になった。新しいことを取り入れながら、攻守両面で落とし込んでもらっているので、選手としてすごくやりがいがある。何か新しく変えるわけではないけれど、自分の中で思っていたことが確信に変わったというか、自分が考えていたことは合っていたんだなと思うことが多い。あとは、いまチームとして取り組んでいることを、どれだけ日ごろから意識して、状況が変わった中でできるか。だから、どんどん試合で実践して、いろいろなケースに直面したい」

 かねてより感じていた立ち位置や言語化の重要性。「新しいことをいろいろ教わっていてすごく楽しい」。そう語る健斗の表情は充実感に溢れていた。

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 しかし、新たな挑戦に困難はつきもの。変革が順風満帆にいくとは思っていない。特に開幕時点でのチーム力や完成度は「川崎Fには及ばない」と、冷静に現状を分析する。いまのチームは平均年齢がJ1最年少。完成度や経験値はまだまだ発展途上の段階だ。

「自信は結果が伴わないとついてこない。ただ、開幕したときにチームの完成度が低くても、そのなかで一つずつ勝ち点を積み重ねることによって、徐々にチーム力や戦術は精度が高くなってくるはず。そうすれば、より上の順位に行けると思う。とにかく結果にこだわってやっていきたい」

 いま取り組んでいることに手応えを感じているからこそ、最後に必ず逆転できると信じられる。苦難に直面したとき大切なのは、信念を曲げないこと。そして、仲間を信じて力を合わせ、同じ方向を向いて戦うこと。

「どんなときも、温かくも厳しい目で僕らを見てくれる、皆さんの存在が僕たちには必要です。シーズン中、勝てるときも、勝てないときも、うまくいかないときもたくさんあります。僕たちはいま苦しんでいます。そういうときに批判とも向き合いますが、どうか一緒に戦ってほしいです。僕らは常に一生懸命に戦います。皆さんもアントラーズファミリーです。僕たちの仲間です。2022シーズンは勝利を多く届けます。熱く、常に、ともに戦ってください」

 苦しみを乗り越え、一選手として飛躍を遂げ、タイトル奪還へ。そのために、まずは開幕戦の勝利を。三竿健斗の2022シーズンが始まる。

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