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 日本でプレーすることは、アルトゥール カイキが抱く夢の一つだった。

「妻が日系ブラジル人ということもあり、(移籍先を決める前に)『日本からオファーがあればいいのに』と家族で話していた。その直後に、アントラーズからのオファーが届いたのでビックリしたし、大きなサプライズだった。妻にとって日本で生活することは夢の一つ。自分にとっても日本でプレーすることは憧れであり、目標の一つだった」

 大きな夢と希望を抱き、移籍を決断したカイキ。しかし、コロナ禍の影響で来日は大幅に遅れ、トレーニングに合流できたのは、開幕から約2ヶ月が経った4月23日のことだった。チームはちょうど過密日程の真っ只中にあり、適応は時間を要した。

「アントラーズは世界的に名前を知られているし、ジーコTDが関わって作り上げたクラブだから、当然知っていた。ただ、Jリーグについては、そこまで知識が豊富なわけではなかった。だから、来日してからは日本とブラジルのプレースタイルの違いをとても強く感じた。日本のフットボールに慣れるには時間が必要だった」

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 長い間、公式戦から遠ざかっていたこともあり、なかなかコンディションは上がらなかった。自分の思うようなプレーができず、本人にとって非常にもどかしく、フラストレーションの溜まる時間が続いた。

 ただ、カイキはそんな苦しい状況のなかでも、腐ることなく努力を続けた。それは同胞の先輩、レオ シルバの存在があったからだ。

「レオの存在は大きい。彼はアントラーズに在籍して5年目、日本でプレーして9年目だ。ピッチ内外で大いに助けられている。プレーにおいては、ポジショニングがずれていると、すぐに指示を出してくれるし、日本語も理解しているので、チームメートとの間に入ってコミュニケーションを取ってくれている。ピッチ外のところでは、若手選手とも冗談を言い合っていて、僕らをその輪の中に入れてくれる。また、アントラーズで成功するためには、日々のトレーニングで全力を出し切るようにと、アドバイスをもらった。監督や選手たちをリスペクトし、自信をもってプレーする必要があるとも教えてくれた。ジーコTDと同じく、彼の一言、一言に重みを感じる」

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 レオの助言を心に刻んだカイキは、試合に絡めないなかでも、常に全力でトレーニングに取り組んだ。そして、今年で29歳になったカイキは、若い選手たちを牽引する役割を自ら担った。「経験があるからこそ、年齢の若い選手たちに伝えていくことも役割の一つだと考えている」と、積極的にコミュニケーションを取ってチームメートに自分の意図を伝えた。

「アントラーズには、テクニックのある荒木やスピードのある松村といった若く才能のある選手たちがいるので、彼らの秘めている能力を、さらに引き出したい。彼らと、もっともっとコンビネーションを築いていけるように、つたない日本語も使って、英語やポルトガル語を交えながら、コミュニケーションを取っていきたい」

 すると、チームメートとの連係は徐々に深まっていき、それに比例する形で自身のパフォーマンスも向上する。10月23日のFC東京戦では、今季リーグ戦3ゴール目となる先制点を奪取し、チームの勝利に大きく貢献した。試合後には、本人も「今、ものすごくいいコンディションを維持できている」と手応えを話し、「今後もゴールを決める」と自信に満ちた表情をみせてくれた。

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 今季もリーグ戦は残り5試合となったが、来季のACL出場権を獲得するためには、カイキの活躍が必要不可欠だ。

「ファン・サポーターの皆さんに約束したいのは、ピッチのなかで皆さんの思いを背負って、チームのために献身性や犠牲心を持って戦うということ。それが自分自身のプレースタイルだと思う。そして、皆さんが与えてくれている優しさや温かさに対して、勝利という結果で恩返しがしたい」

 献身性と犠牲心。背番号17、アルトゥール カイキがアントラーズを勝利へ導く。

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