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 昨季、味わった悔しさは決して忘れることができないだろう。スンテに“時を戻すならいつか“と聞けば、即座にこう答える。

「1年前、僕のフットボール人生であってほしくないシーズンだった。戻って、改めて塗り替えたいという思い」

 だが、彼が腐ることはなかった。スタメンで出る沖に対して、声をかけ続けた。試合後に場内を一周する際、いつも2人は会話に夢中で最後尾になる。その理由について、スンテはこう明かしてくれた。

「若い沖選手が出場することでいいこともあるけれど、大変なこともある。もちろん、僕も通り過ぎてきた道で、若くして試合に出ていたとき、ベテラン選手からアドバイスをもらえなかった経験をした。だからこそ、その役割を果たさなければいけないと思っている」

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 ポジションを争うライバルでも、同じ勝利を目指すチームメート。だから、自らの経験を惜しみなく後輩へ伝える。正しいこととは言え、感情をコントロールするのは容易ではないだろう。だが、スンテはそれをやってのける。アドバイスを受ける沖はこう語る。

「スンテさんからはプレーひとつひとつのことだけでなく、立ち振る舞いについてもアドバイスをもらう。『失点したときにGKが下を向いてはいけない』と言われたこともあれば、『GKはしっかり堂々と構えて、何事にもブレないようにする。そうすると、フィールドの選手たちは安心する』とか、『士気が下がったときこそ、GKが声を出せ』とも言ってもらった。経験ある先輩からアドバイスをもらえるのは感謝しかない」

 試合に出ていても、出ていなくてもスンテの姿勢は変わりない。「やらなければいけないことをやり続けてきた。それが一番大事」。自身の言葉に背いたことは一度たりともない。

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 大きな変化が起きた2020シーズンが終わり、アントラーズ加入5年目の2021シーズンがスタートした。スンテの胸の内にはこれまでと少し違った感情があった。

「シーズン初めのキャンプは、いつも生き残ることで必死だった。だけど、今年は肩から重いものを置いた感覚があった。気持ちよく幸せな1年にしたい」

 さまざまな経験を経て、辿り着く境地があった。追う追われるの競争関係を強く意識するよりも、いま『やらなければいけないことをやり続ける』ことに集中する。それがいまの自分を幸せにする方法だと。

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 そして、その姿勢を貫き続けて迎えた3月27日。ルヴァンカップ福岡戦でスンテは久々に先発出場を果たした。公式戦のゴールマウスを守るのは昨年7月26日のFC東京戦以来、244日ぶりだった。

 その福岡戦でスンテは試合勘の不足など一切感じさせないパフォーマンスを披露した。自分にいつ出場機会が巡ってくるかわからない状況にも関わらず、毎日、真摯にトレーニングに取り組んできた。人目につかないところで努力してきた。それを感じずにはいられない試合だった。

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 ルヴァンカップでは福岡戦を機に第3節・札幌戦、第4節・鳥栖戦と3試合連続でスンテがゴールマウスを託された。スンテのコーチングは人を動かし、チームを動かした。

 相馬監督も札幌戦後の会見で「キャプテンの亮太やヤスとスンテ、ベテランである彼らが、重心を下げることなく前に行きながらもバラバラにならないようにうまくコントロールしてくれた」とその存在の大きさを改めて語っていたが、ベテランの経験はチームにとって大きな財産だ。

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「僕が見てきたアントラーズは、闘争心を前面に出してどんな相手も圧倒していたし、相手からするととても嫌なチームだった。たとえ0-3で負けていようと、アントラーズなら4点取れるという雰囲気を醸し出していた。どんな状況でも『勝利にこだわる』のがアントラーズ。そのあるべき姿をいま一度周囲に示していきたい」

 かつてスンテはそう語っていた。「肩から重いものを置いた」今もなお、彼には人を動かし、チームを動かす力がある。

 いろいろな思いを込めて戦う今季も、やるべきことは変わらない。すべては勝利のために。アントラーズのゴールマウスは、我らがクォンスンテが守る。

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