クラブ創設30周年の今シーズン、遠藤康はクラブ在籍15年目を迎えた。ちょうど、クラブの歴史を半分、見届けてきたことになる。そして、昨季限りで曽ケ端準(現GKアシスタントコーチ)が現役を引退したことで、永木亮太とともに日本人選手として最年長になった。2021年は遠藤にとって一つの大きな節目の年と言える。
しかし、本人は成績以外の数字を全く気にしていない。プロ入り15年目という事実も周囲から伝えられて初めて知ったし、自然体で「特に数字は気にしていないな」と話す。日本人選手の最年長という周囲からの見られ方も、特別に意識はしなかった。
「日本人選手として最年長になったということも、自分なりにしっかり捉えないといけないのだろうけど、あまり気にしていない自分もいる。レオやスンテがいるし、チーム全体で見れば、自分よりも年上の選手がいるから。それに同世代としては亮太もいるし、キャプテンの健斗もしっかりしている。自分が率先して年上っぽく振るわなくても、チームを引っ張っていける人がたくさんいるから」
自分が率先してチームを牽引するつもりはない。言葉の裏を返せば、年長者としてチームを牽引するのは当たり前のこと。そのうえで、一選手として自分がどれだけチームに貢献できるか。遠藤はそこに意識を向ける。
「個人としても常に進化していかなければ、このチームでは生き残っていけない。アントラーズとは、そういうチームだし、そういうチームでなければいけないと思う。自分自身も生き残っていけるように、もっと上手くなれるように、毎日、毎日、練習している。そういう意味では、昨シーズンは途中出場が多くて、悔しい思いをしたから、今季はスタートから出られる試合を増やしたいし、自分を進化させたい」
33歳を迎えた今でも、技術上達への向上心と勝利への意欲は衰えることがない。いつも自然体のままでそれを体現しているからこそ、説得力が増す。
「気がつく人は気がつくし、学ぶ人は学んでいくもの。実際、自分もそうだったから。先輩たちの姿を見て、感じたことを表現してきただけ。だから、きっと、これからも自然とつながっていくと思う。伝統とか哲学って、無理につなげていくものではなく、僕は自然とつながっていくものだと思う」
今のチームにもそれを感じ取っている選手がいる。キャプテンの三竿健斗が「ヤスさんは試合に出ていなくても、僕たちへの振る舞いだったりで、アドバイスを普段からしてくれる」と事あるごとに感謝を話せば、犬飼智也も「普段はひゃっひゃっと言って笑っている人だけど、試合後のロッカールームで話す言葉がすごく響く。そういう空気を持っている選手がいるから、アントラーズはアントラーズなんだと思う」と語った。彼らは遠藤の姿からきっと多くのことを学んでいるのだろう。
だからこそ、遠藤は目の前の1試合に集中する。練習から良いプレーをして、試合でチームを勝利に導くこと。ただそれだけに意識を向ける。
「自分が出た試合では必ず勝つ姿をファン・サポーターには見せたい。でも、自分一人の力だけで勝つことはできないので、監督や仲間からの信頼というものを、日々の練習から勝ち取っていきたい。練習でしっかりと力をみせることで、自ずと出場時間や出場機会は増えていくもの。ただ、口で言うのはやっぱり簡単なので、ピッチで、プレーで示していきたい」
アントラーズがアントラーズらしくあるために、特別気負うことはない。遠藤康は自然体のまま、ただ勝利のためだけに戦う。