PICK UP PLAYER

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 今年4月、ディエゴピトゥカは、言葉も文化も異なる日本へやってきた。海外移籍は初めて。さらに、コロナ禍という特殊な状況下での移籍だった。環境への適応には、時間を要することが予想された。

 チームへ合流した当初、彼はブラジルと日本の違いを強く感じた。両国のフットボールにおける最大の違いは『プレースピード』だと言う。ブラジルと比べると、日本はかなりスピーディーな試合展開で、「パスを受けるかなり前の段階から、色々なことを想定して準備する必要がある」と話す。来日前にも把握していたことだが、実際にプレーすると感覚の違いはかなり大きく、冗談交じりに「日本ではたまにサッカーではなく、ラグビーをやっているかのような感覚になる」と話すほどだった。

「選手一人ひとりの動きは速いし、激しいボディコンタクトが多い。『もう少し冷静にプレーしてもいいのでは?』と感じるときもあるくらい。日本人選手を中心にJリーグのテクニックレベルが高いだけに、なおさらそう思うことがある」

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 そんなスタイルの違いを感じながらも、ピトゥカは適応をする努力を懸命に続けた。練習中は通訳を介して、積極的にコミュニケーションを取り、試合中は「身振り手振りのジェスチャーを交え、『ここにパスが欲しい』、『こう動いてもらいたい』と意見交換した」。そして、日々のトレーニングから「素早いプレッシングにも対応できるよう、判断スピードを上げたい」と、プレーの改善に意欲的に取り組み、試行錯誤を欠かさなかった。

 また、彼のピッチ外での振る舞いも適応を早める要因となった。普段は物静かで落ち着いた印象を受けるが、情に厚い人柄であることはチームメートの中でも評判だ。同胞のアルトゥール カイキの誕生日には、前日から小麦粉と卵を自ら用意し、サプライズでカイキを祝福。本人はチームメートとの関係性についてこう語る。

「個人的には、プロのチームが長いシーズンを戦うにあたり、一人の選手がチームのなかで不可欠な存在になってはいけないと思っている。さらにいえば、ピッチに立つ11人だけでなく、在籍している選手全員が大切なメンバーであり、食堂のスタッフなど裏方で選手を支えてくれる人たちの存在も欠かせない。チームが一体となり、文字通りファミリーとして活動するためにも、僕はよりアントラーズのこと、大切なチームメートやスタッフたちへの理解を深めていきたいと考えている」

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 こうして仲間から厚い信頼を得たピトゥカは、日を追うごとに、チームの中でスムーズにプレーできるようになった。また、懸命なトレーニングを続けたことで、コンディションもみるみるうちに向上し、あっという間にチームの中心選手になった。

 しかし、本人の求めるレベルはさらに高い位置にある。ここまでの自身のパフォーマンスに全く満足しておらず、「自分自身の感覚としては、まだまだ本調子とはいえない」と話す。そして、「もっと自分らしいプレーが表現できると感じている。日々の練習のなかで、日本のフットボール、日本人の特長を理解しようと継続して取り組んでいるが、この先はもっともっと理解を深めていく必要がある」と語った。

 理想をどこまでも追求し、乗り越えることで、成長してきた自負がある。その姿勢は日本でも変えるつもりはない。

「僕は自分に対して、とてもシビアで厳しいタイプ。常に自分のベストなパフォーマンス、あるいは、それ以上のプレーを求めてしまうところがあり、その実現のために、自分の持ち味をトレーニングで磨き続けている」

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 ただ、プロフットボーラーとして過ごしてきた約10年間で、すべてが理想通りにいかないことも学んできた。「いいこともあれば、嫌なこともたくさん経験した」。フットボールも人生も理想と現実のバランスを取ることが必要である。特に試合中は、自らの理想に固執せずに、いまの自分にできること、つまり、チームの勝利につながるプレーを優先すべきだと心得る。

「試合中、ボールコントロールやパスの精度が理想とかけ離れているときには、ハートでプレーする意識を高めるようにする。体を張ってスライディングしたり、運動量を増やして戦う姿勢を示す。僕自身はフォア・ザ・チームの精神を持って取り組むタイプなので、どのような形であろうとも、チームの勝利に貢献できるプレーを常に模索する」

 どんな状況でも、仲間のために、勝利のために、家族のために、献身的に戦い、全力を尽くすことを誓う。それがディエゴピトゥカだ。

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「日本で生活するなかで、ファン・サポーターやクラブ関係者をはじめ、アントラーズに関わる多くの人々がブラジルを、そしてブラジル人を愛してくれていることが、言葉がなくても自然に感じられるし、とても伝わってくる。僕らブラジル人選手は、皆さんの気持ちや期待を絶対に裏切るわけにはいかないし、アントラーズのユニフォームに袖を通した者は、その責務を果たす義務があると思う。ここ数シーズンは残念ながら、タイトル獲得から遠ざかっているが、日々熱心にトレーニングへ取り組み、最大限の準備をして、シーズン後半戦に向かっていくつもり。いろいろと制限はあるけれど、この先も選手だけでなく、ファン・サポーターの皆さんも、ともに戦ってほしい」

 愛する仲間のため、そしてアントラーズに関わるすべての人々のために。ディエゴ ピトゥカが今日もピッチで熱い闘志を示す。

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