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 今シーズン、沖悠哉には掲げているテーマがある。『存在感』だ。

「明確に“これ”という答えがないものに、自分自身でも挑んでいるというのは分かっている。考えれば考えるほど、余計に難しく思えてきて、悩んでしまうこともあるけれど...。おそらく存在感とは、教わることや学ぶことではなく、身につけるものだと思っている」

 目に見えないものをテーマにしたのには理由がある。プロ3年目にしてようやく出場機会を得た昨シーズン、ゴールマウスに立つ続けることで抱いた思考があった。

「昨シーズン途中から自分が試合に出させてもらえるようになったとき、チームメートから『GKによってゴールが小さく見えたり、シュートコースがまったく空いていないように見えたりする』という話を聞いた。ソガさんやスンテさんといった偉大な2人のGKと一緒に練習していると、自分とはまったく異なる雰囲気を感じる。きっと、そういうことを言っているんだなと思ったのが、きっかけだった」

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 もちろん、一朝一夕で身につくものではないことも分かっている。意識したからといって、テーマにしたからといって、そう簡単に変わるものではない。だからこそ、沖はそこに至るまでの過程に意味があると考える。

「きっと、自分がGKをやっていくなかでは、永遠の課題。今後、ずっと考え続けていくことだと思う。それこそ永遠に答えは見つからないかもしれないけれど、大切なのは、そこに自分がどうやってアプローチしていくかだということに辿り着いた」

 自分のなかで存在感を咀嚼していくと、日々いろいろなものが見えてきた。そのうちの一つが曽ケ端コーチとスンテが示してきた姿勢だ。

「失点したときにGKが落ち込んだ姿をみせれば、それをチームメートも感じ取り、気持ちが伝染していってしまう。見ている人は、そういった心の隙を見ている可能性もある。だから、失点した自分が『何ともない』、『次がある』という雰囲気を作り出すことが大事だと思う」

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 悔しくても、感情をみせない。これは偉大な先輩から学んだことだ。たった一度のミスも許されないGKというポジションだが、人間はトライ&エラーの繰り返しで成長していく。大事なのはミスを経験で終わらせるのではなく、次のプレーに生かしていけるかどうか。味わった悔しい経験を次に向かうエネルギーへ変えられるかどうかだ。

 沖はそれを曽ケ端コーチとスンテから学んだ。だから、U-24日本代表で感じた悔しさも成長の糧にするつもりだ。

「同世代と一緒に活動して、刺激になった。アントラーズでも常に安心しているつもりはないが、自分のなかでいまいち危機感が足りてない気がしていた。悔しさというものが改めて芽生えてきたし、今は『やってやる』と思えている」

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 U-24日本代表のメンバーからは残念ながら外れてしまった。目指していた舞台の一つだっただけに、溢れ出る悔しさもあっただろう。ただ、メンバー発表の翌日に行われた大分戦では、しっかりと気持ちを切り替えて戦った。

「自分にはポジティブにさせてもらえる素晴らしい環境が、ここアントラーズにはある。試合後には映像を編集してもらって、洋平さんと毎回、振り返っている。今シーズンは、そこにソガさんも加わってくれて、自分のプレーや判断についてアドバイスをもらっている。コーチ陣からビルドアップについて意見をもらえれば、スンテさんは飲水タイムやハーフタイムのたびにアドバイスしてくれる。山田も早川くんも含めて、みんなで高め合える環境があることに感謝しなければいけない。自分があぐらをかいてしまえば、すぐにでも追い越されてしまう環境がここにはある。日々、努力を怠らずに継続していきたい」

 いま置かれた環境に感謝すること。悔しさを力に変えること。どちらも決して簡単なことではないが、なりたい自分に辿り着くためならば、努力を続けたいと思える。

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「僕らは苦しいときこそ、満男さんやソガさんの背中を思い出して、やり続けることが大切だと信じている。アントラーズである以上、勝利が絶対だということは分かっているし、そこへの責任感も芽生えている。この責任は誰もが感じられるものではない。それを背負える者の一人として、プレッシャーを楽しみつつ、成長していきたい」

 こうした日々を、思いを、積み重ねていくことが、きっと沖が追い求める存在感につながるのだろう。

「もしかしたら存在感というのは、自分ではなく、周りが感じるものなのかもしれない。そこにはきっと、日々の表情や態度、立ち振る舞いがつながっているはず」

 永遠のテーマに挑む若き守護神は、さらなる飛躍を誓う。沖悠哉の活躍から目が離せない。

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