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 今シーズンの序盤を振り返って、三竿健斗はこう語る。

「チームとして結果が出せないのは辛かったし、同時に自分のプレーも出せていないことにすごくネガティブな感情があった。自分のパフォーマンスが良くないから、チームの結果が出ていないと考えたこともあった。キャプテンとしての立場もあり、チームを持ち上げるような言動が必要だったが、自分自身の調子が上がっていないなかで、思ったことを口に出しづらいところもあった。そういう部分にすごくもどかしさを感じていた」

 チームが不振に陥る中、自身のパフォーマンスもなかなか上がらない。そんな中でも、キャプテンとして常に前を向く姿勢を周囲にみせなければいけない。振り返れば、「ずっともがいている状態で、すごく苦しい時期」だった。

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 それでも、現状を打破するためには何が必要なのか、ひたすら自問自答を繰り返した。これまで取り組んできたこと、今取り組んでいることを振り返り、すべての行動に「なぜ?」と、疑問を突きつけた。そして、「自分にとって一番大事なことはなにか」という本質的な部分に目を向けたとき、ある答えに辿り着いた。

「新しいことや自分に足りないと思ってつけ足したり、積み上げた部分をいったん削ぎ落そうと思う」

 自らの武器を見つめ直し、原点に立ち返る。それが導き出した答えだった。

「昨年は1年間を通して、自分の守備がJリーグのなかでは自信をもってやれることが分かったので、今年はボールを受けて相手を1人剥がすプレーなど、攻撃の個人戦術の部分にフォーカスしてきた。ただ、そこに意識が傾きすぎて、自分の良さである守備の部分で持ち味を発揮できていなかった。それは監督が交代する1、2試合前に気がついたことだった」

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 そんな自身の意識が変化したタイミングで、ちょうど指揮官の交代が告げられた。相馬監督により、チーム全体としても『まずはいい守備から』という考え方が、いま一度、徹底された。すると、監督交代を機にチームは復調し、三竿個人のパフォーマンスも徐々に上向いていった。

「全体をコンパクトにして、周りの選手との距離感が近くなったことで、特に守備の部分では、僕自身がボールを奪いにいくときの移動距離が、今までよりも5メートルから10メートルくらい短くなった。その分、ボールにアタックしたときにまだまだパワーが残っているので、僕にとって今の守備のやり方は、自分の武器を発揮しやすい環境になった」

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 復調の要因は戦術的な変化だけではない。試合に臨むメンタリティの部分でも大きくチームは生まれ変わった。

「相馬監督からは『我々は過去のタイトル数では一番だけど、今の順位やJリーグの立ち位置では“チャレンジャー“なんだ』と言われている。その姿勢がチームに大きな影響を与えた気がする。シーズンごとに選手の入れ替わりがあるなかで、『アントラーズだから勝って当然』、『アントラーズだから勝たなければいけない』というプレッシャーもあって、試合の結果や自分のミスに対して過敏になり、選手個々が本来の力を出し切れていないようなところもあった。そういう部分に対して、“チャレンジャー“という言葉がすごくポジティブに作用して、今は『勝たなければいけない』というよりも『勝ちたい』という前向きな考えで試合や練習に臨めるようになった」

 結果がついてきたことにより、チーム全体の雰囲気も良くなった。また、多くの選手が試合に絡んだことで、チーム内の競争も激しくなった。三竿も「周りにもポジティブな声掛けができたり、広い心で物事を捉えられる状況になった。それがいい雰囲気を作ることにつながっているし、チームとして少しずつ前進していくなかで、いいリズムをつかめていると思う」と、よりリーダーシップを発揮しやすい状況になった。

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 ただ、自身のパフォーマンスも上がり、チームも結果がついてきた今だからこそ、三竿はキャプテンとして、気を引き締める必要があると心得ている。自分たちはファン・サポーターの方々から何を求められているのか、自分たちがやるべきこととは何か。アントラーズのキャプテンとして、彼はチームメートにその責任と思いを伝え続けている。

「ファン・サポーターの方から手紙をいただく。読み進めるなか、『新型コロナウイルス感染症の影響で声を出して応援ができず、チームもなかなか勝てずにもどかしいです』、『どうにかして選手たちと一緒に戦いたいのですが、円陣のときに1人分空けてもらえませんか?』という内容が書かれているものがあった。ファン・サポーターの皆さんも含めてのアントラーズファミリーなので、チームメートたちにも『こういう手紙をもらったのだけど、やらない?』という感じで声をかけた。それをきっかけに、円陣のときには1人分のスペースを空けて、『一緒に戦おう』という気持ちを表現している。ファミリーが一体となって戦いたい」

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 時代が移り変わり、“チャレンジャー“として新たな一歩を踏み出した今も、本質的な部分は何も変わらない。今年で加入6年目を迎える若きキャプテンは、しっかりとアントラーズの一員として戦う意味を理解している。

「ファン・サポーターの皆さんの期待に応えるために、自分たちがやるべきをことを大切に、常に謙虚な気持ちで、“チャレンジャー“として、一つひとつの勝利を積み上げていきたい」

 苦しみを乗り越えて、彼はまた一段と逞しく、頼もしくなった。チームの先頭に立ち、熱く、激しく戦い、勝利へ導く背番号20。これからも三竿健斗とともに戦おう。

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