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 昨季を振り返り、永戸勝也は「正直きついなと感じていた時期もあった」と語る。戸惑いは少なくなかった。自分のプレーの特長を知ってもらうこと。同時に味方の特長を掴むこと。相互理解を深めるには時間が必要だった。

「環境が変わって、外国人監督のもとでプレーするのも初めてだった。自分でも分かるくらい上手くいっていなかった」

 それでも、昨年8月29日の明治安田J1第13節、アウェイ柏戦で好転のきっかけを掴んだ。この試合の89分、左サイドの高い位置にポジションを取った永戸は、中央の三竿からのパスを受け、少し内側へボールを運びながら縦に勝負。柏の選手に引っ張られながらも力強く突破を図り、ニアサイドへ鋭いボールを送り込んで、土居のゴールをアシストした。

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 このゴールは永戸が意識している「3つのポイント」がうまくゴールにつながった場面だった。まずはチームメートと連動すること。サイドハーフが空けたスペースを見逃さずに高い位置へ進入することが重要だと言う。次に、オーバーラップのタイミング。「いかにいいタイミングでボールを引き出せるか」を考えながらランニングすることを意識する。そして最後はパスを受ける瞬間、ファーストタッチに全神経を集中させること。「自分のキック力を活かすためにも、蹴る前のコントロールを大事にする」と、ボールの置きどころに最大限の注意を払うことを意識しているという。

 これら「3つのポイント」を試合で表現し、チームとして「理想的な左サイドからの崩しの形」をみせられたことは、大きな自信につながった。永戸はこの試合を機に「夏以降はだいぶ手応えのある試合が増えた」と語っていた。

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 そんな手応えを感じた1年目を終え、迎えた2年目の今シーズン。永戸は「ゴールとアシスト合わせて2桁」と明確な目標を掲げた。

 しかし、開幕から左サイドバックで不動の地位を確立するも、チームの不振も影響し、なかなか良い形でボールを受けられない。良い位置でパスを受けたときには、持ち前の広い視野で最適解を選択し、高精度のクロスを送っていたが、チームとしての再現性はなく、攻撃面でインパクトを残すことができない時期が続いていた。

 それでも、4月7日の明治安田J1第8節柏戦できっかけを掴む。1-1で迎えた試合終盤、左サイドの深い位置まで駆け上がってボールを受けると、広い視野でペナルティエリア手前のエリアが空いているのを見逃さず、ダイレクトでマイナスのグラウンダークロスを入れる。このパスをフリーの白崎が決めて、決勝ゴールのお膳立てに成功した。永戸の意識する「チームメートとの連動」、「オーバーラップのタイミング」が見事に発揮されたアシストだった。

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 柏戦できっかけを掴んだ永戸は、つづく4月11日の明治安田J1第9節札幌戦でアントラーズ加入後初ゴールを決めると、4月17日の明治安田J1第10節徳島戦ではコーナーキックから町田のゴールをお膳立てした。さらに、5月9日の明治安田J1第13節FC東京戦でも松村のゴールをアシストし、順調に数字を伸ばした。

 本人も目に見える数字がついてきていることに充実感を感じているようで、「開幕当初は数字がついてこなかった中で、ここ最近は結果が出るようになっている。この勢いを切らさずに増やしていきたい」と手応えも語っていた。

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 そんな好調の永戸に影響を与えているのが相馬監督の存在だ。相馬監督といえば、現役時代はアントラーズ不動の左サイドバックだった。同じポジションの先輩にあたる指揮官から要求されるレベルは高い。

「ザーゴ監督のときより(自分への)指示は増えたと思う。サイドバックが守備も攻撃も目立つように、中心となってやっていくような指示をもらっているので、僕としては充実感がある。そのなかで結果も残さないといけないので、新たな責任感も生まれている」

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 アントラーズにはチームを勝利に導ける名サイドバックの系譜がある。これまで在籍した選手たちとはタイプが違えど、永戸にもそのポテンシャルは間違いなく秘められているだろう。本人もかつてこう語っていた。

「僕ら世代の選手が新しいアントラーズの中心となっていかなければいけないと思う。タイトル獲得を目指すなかで、今後はチームを引っ張っていくという面でも頑張っていきたい」

 チームの中心選手として責任感は増している。左サイドのキーマン、永戸勝也がアントラーズの新たな歴史を創る。

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