これまでの人生でキャプテンを任されるのは初めてだった。三竿健斗は「だからなのか、ちょっと背負いすぎてしまった」と苦笑いしつつ、昨シーズンを振り返る。

「キャプテンだからこうしようとか、いろいろ考えすぎてしまった。アントラーズは伝統と歴史があるし、常に結果を求められるチーム。最初はやはり重かった。でも、少しずつ堅苦しく考えなくてもいいんだと思えるようになった」

　アントラーズ史上最年少のキャプテンと聞いて、自然と肩に力が入った。だが、一人で抱え込んでも始まらないと途中で気づいた。周りに意見を求めながら、知恵を借りながら、キャプテンという大役に向き合った。

「チームが緩んでいるなって思ったら、引き締めるために厳しく言わないといけないけれど、ミスが起きたときに『大丈夫。次に行こう」と声をかけてあげることも大事。そうやって前向きな雰囲気をつくっていけば、仲間を助けたい気持ちが強くなっていくし、チームの一体感やまとまりが自然と高まっていくはず」


　三竿は“チームの一体感“や”まとまり“を大切にしてきた。「いまきつい時ね！きつい時こそ、みんなでまとまってやろう！」。トレーニング中に響く大きな声は三竿が発したものだ。以前、GKの沖悠哉も三竿について、こんな話をしていた。

「健斗君から試合前に『沖が後ろから前向きな声をみんなにかけてあげることで、チームのみんなももっと動いてくれると思う。だから、沖はいつも以上にみんなとコミュニケーションを取ることを意識してみて』と声をかけられた。やっぱり、健斗君は自分のことだけではなく、チームのことをしっかりと見ているんだなと、改めて感じた瞬間だった」

　三竿に聞けば、ウォーミングアップの雰囲気を見て、沖に声をかけたのだという。これはたった一つの例だが、三竿の「他の選手の異変に気づけばすぐに声をかける」という些細な言動の積み重ねが、いまのチームの一体感を生んでいるのだろう。


　もちろん、“チームの一体感“や”まとまり“を大事にする一方、トレーニングが馴れ合いになることは、絶対に許さない。普段は落ち着いた印象だが、フットボールになれば、闘争心を剥き出しにしてチームを牽引する。勝利のためであれば、味方との衝突も厭わず、厳しく接することができる。

「アントラーズのエンブレムをつけていれば、優勝できるわけではない。問われるのは、僕らの日々のトレーニングの質や強度。ピッチ外ではリラックスして、ふざけていてもいいけど、いざピッチに入ったらすぐに切り替える。トレーニングが始まっても戦闘モードになっていなかったら、厳しく言い合うべきだし、みんながそういう気持ちで取り組むことが大事」

　こうした姿勢はまさにアントラーズスピリットの継承者と言える。

「これまでは満男さんやソガさんといった先輩たちに引っ張ってもらいながらやってきたけど、今度は自分たちが引っ張っていく番。チームはかなり若返っているし、自分は年齢的には真ん中くらいだけど、在籍年数でいったら上から数える方が早い。普段の振る舞いやトレーニングに向かう姿勢を通して、『アントラーズとはどういうクラブなのか』をしっかり伝えていかないといけない」


　責任感が強く、自らを客観視できる選手だ。その分、今シーズンはチームと自身のパフォーマンスに納得できず、悩みもがいていた。ただ、そんな苦しい時期でも「今は人間的にも成長する機会を与えられている気がする」と、周囲には前向きな姿勢を示し続けた。チームがここから浮上するために、目の前の試合に勝利するために、いまの自分に何ができるのか、考え抜いた。

「自分の良さをなかなか表現できていない試合が続いている。まずはそこに集中すること。言葉で伝えるのも大切だが、まずはプレーで仲間に良い影響を与えたい。戦う部分を出していきたい」

　勝敗すべてを背負いすぎる必要はない。結果が強く求められる世界だからこそ、互いに支え合って戦う。自分と仲間を信じて、まずは目の前の戦いに集中する。改めて、自らのプレーに意識を向けた。


　すると、監督交代を機に三竿は輝きを取り戻した。ピッチの中央で最終ラインや前線の選手に指示を飛ばし、全体の陣形をコンパクトに保つ。その結果、持ち味である球際の強さや読みの鋭さを守備で発揮できた。さらに、守備でつくった良い流れは攻撃へつながる。苦境を乗り越えたチームの中心には間違いなくキャプテンの存在があった。

「1日、1日を大切にしながら積み上げていくうちに、自分なりのキャプテン像ができあがっていくと思う。周りにきついことを言って、“あいつ、うるさいな“って思われるかもしれないけれど、誰かが困っていたり、チームがうまく回っていないときに頼られる存在になりたい」

　チームの一体感、まとめりを大切にするアントラーズスピリットの継承者。若きキャプテン、三竿健斗に導かれ、アントラーズはただ勝利のために戦う。