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 昨年7月末、上田綺世は契約を前倒しする形でアントラーズに加入した。ルーキーとして13試合4ゴールは上々の成績だ。2年目でさらなる飛躍を遂げ、エースストライカーにーー。周囲からの期待は自然と高まった。

 しかし、今季の上田は苦難のシーズンを送っている。まずは今年1月、U-23日本代表の一員として臨んだAFC U-23選手権で負傷し、帰国してからしばらく別メニュー調整が続いた。そして、チームへの合流が遅れた影響もあり、新加入のエヴェラウドとのポジション争いに敗れてしまう。先発の座を確保できないまま、中断期間に突入した。

 中断期間が明けても、チーム内の序列はなかなか変わらなかった。それでも、7月16日の第5節横浜FM戦でチャンスを掴む。開始早々に見事なボレーシュートを叩き込み、今季初ゴールを奪うと、同点に追いつかれて迎えた後半には、上田の真骨頂ともいえる絶妙なポジション取りでクロスを呼び込み、ワンタッチゴールを決めてみせた。連敗が続いていた不振のチームを救い、勝利の立役者となった。

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 だが、ゴールを決めた次の試合で不運に見舞われてしまう。第6節湘南戦で再び怪我を負ってしまい、戦線離脱を余儀なくされた。ようやくここからーー。そんな兆しが見えたときの負傷だった。

 それでも不屈のストライカーは、懸命なリハビリを経て、約1ヶ月後に復帰を果たした。しかし、上田が離脱していた期間、ポジションを争うエヴェラウドはゴールを量産し、エースとして確固たる地位を築いていた。上田はベンチからの再スタートとなった。

 復帰から3試合目となった9月9日の第15節仙台戦、早くも結果を残した。後半途中から投入されると、後方からのロングボールを見事なトラップでコントロールし、対面した相手選手と1対1を仕掛けて、カットインから右足を振り抜く。低く鋭いシュートはゴールネットを揺らした。チームの4連勝に大きく貢献した。

 ただ、試合後のインタビューで上田はすぐに次を見据えていた。「チャンスをもらっている試合で、チャンスをモノにできていない試合のほうが僕的には多い。それが今の出場時間につながっていると思う。勝ったけど、チーム内の戦いは続く。そこに向けてまた準備をしていきたいーー」。必ずいまの現状を打破する。そんな強い覚悟が伝わってきた。

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 その後、上田は第16節の清水戦から前節札幌戦まで8試合連続で途中出場した。しかし、本人の気持ちとは裏腹に、ゴールは生まれていない。

 限られた出場時間で結果を残することは非常に難しい。だが、それを言い訳にするつもりはない。「後半アディショナルタイムの残り1分で、出てきた選手がワンチャンスをもらって決めることもある。逆にどんなスーパースターでも90分のなかで点が取れるとは限らない。だからこそ、時間に関係なく、こいつを出せば1点以上取ってくれるというFWになりたい。不可能に近いけど、ストライカーの本質を追い求めると、理想はそこになる」。厳しい要求を自分に課すことで、結果を残せると信じている。

「FWは点を取れる時期と、取れない時期がどうしてもある。取れない時期から抜け出すためには、何が必要なのか。試行錯誤が必要になるーー。チャンスを決め切るために必要なことは一つではないし、これを改善したから点が取れるようになるという明確な答えはない。だから、毎試合、毎試合、改善点を見つけて直して、より自分の武器にしていくことが必要」

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 己と向き合い、課題の改善に取り組む。地道な努力を続けることでしか、道は開けないことを知っている。これまでもそうやって逆境を乗り越えてきた。

「選手として目指しているところに向かって躍進するのか、迷走するのか、今年が一つの分岐点になる。自分の価値を左右する瞬間は一回かもしれないし、何回かあるかもしれない。どこに大きなきっかけがあるのか、わからないけど、そのために必要な準備を常にしながら、地道に、足元を見つつ、たまに背伸びをしながら、頑張っていきたい」

 若きストライカーは覚悟を語った。限られた時間で結果を残すーー。過密日程がつづくアウェイ3連戦、上田綺世は貪欲にゴールを狙う。

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