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 奈良竜樹は成長と刺激を求めてアントラーズにやって来た。前所属の川崎フロンターレでは、「監督、チームメート、サポーターと、だいたい自分のことをわかってくれている」という恵まれた環境で、「ものすごく居心地が良かった」というが、「リーグ連覇とリーグ最少失点を達成して、自分の中で一つサイクルが終わった感覚があった」と、新たな挑戦に踏み出す決断を下した。

 そこで選んだのはアントラーズだった。他のクラブという選択肢もあったが、勝利にこだわるこのクラブのスタンスや培ってきた伝統が、自分の負けず嫌いな性格と合致していると感じ、直感で決めたという。

「他のクラブでも違う刺激はあったと思う。でも、自分を一番厳しく律することができるのは、アントラーズだと思った。タイトルを獲ることへのプレッシャーや常に上位にいなければいけない使命感。対戦したときにも、その強いこだわりや雰囲気は感じていた。だから、その直観に従った」

 託された背番号は“3”だった。加入後、初めて知らされたときは、「正直、驚いた」という。アントラーズの背番号3といえば、秋田豊や岩政大樹、近年では昌子源がつけ、チームを支える象徴のナンバーだ。本人も「アントラーズにとって特別な背番号だし、今まで着けてきたどの選手も、チームの顔だった。それに見合う覚悟と責任を持ってプレーしないといけない」と、その重みをしっかりと受け止めていた。周囲からの大きな期待を背負い、本人も十分な意気込みで今シーズンに臨んだ。

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 しかし、いざシーズンが始まると、試合から遠ざかる日々が続いた。本人が非常に悔しい思いを味わっていたことは想像に難くない。それでも前節、ついに先発のチャンスが巡ってきた。対戦相手は奇しくも古巣の川崎フロンターレだった。

 8月19日の明治安田J1第11節横浜FC戦以来、約3ヶ月ぶりとなる先発出場だったが、奈良は安定感のあるパフォーマンスをみせた。空中戦ではレアンドロ ダミアン相手に一歩も引かず、気持ちのこもったシュートブロックや味方を鼓舞する声で存在感を発揮した。1失点こそ喫したが、準備期間が限られていたことを考えると、見事なパフォーマンスだった。

 試合後、オンライン会見に登場した奈良は、「昨季まで在籍していたチームとの対戦で、一緒にやっていた選手がたくさんいて不思議な感じだった。その中で、(プレーしていて)ハラハラしたり、ワクワクする感覚があった」と、ポーカーフェイスを少し緩ませた。久々の先発出場は間違いなく嬉しかっただろう。ただ、奈良はすぐに表情を引き締めて、「いつも試合に出ていない選手が入ることになった。ただ、『誰が出るからアントラーズ』ではなく、『誰が出てもアントラーズ』。試合に出場した選手が、チームのために戦うのは当たり前のこと」と、冷静に語った。目線の先はすぐに次の試合へと向かっている。

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 仙台戦でも、町田浩樹と関川郁万は出場できない。彼の力がいまこそ必要だ。背番号3の真価を発揮するときだ。

「来るときは、誰しもがいいイメージを持って加入する。でも、すべてがイメージどおりに進む人生なんてない。それは札幌の時も川崎Fの時もそう。調子がいいときにケガをするときもあれば、試合に出られないこともあった。一方で、いいときって、試合に負けるとか、自分が負けるというメンタリティーではないし、相手にやられると思ってプレーすることはない。自分がいいときは王のように振る舞えるというか、どんなに名の知れた選手に対しても、対等以上の思いで向かっていける...。そういうメンタリティーを、常に持つことが大事。今はそれをつくり上げていく段階。こうしたこともアントラーズに来なければ感じられなかったことーー」

 これまで味わった歓喜も苦悩も、すべての経験を糧にして、真価を見せてくれ。アントラーズの背番号3、奈良竜樹を我々は信じている。

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