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 土居聖真が故郷である山形を離れ、鹿嶋にやって来たのは中学1年生のときだった。少年はアントラーズのアカデミーで成長し、2011年にトップチームへと昇格して青年となった。6年間を過ごしたアカデミーがなければ、いまの土居聖真はない。

「カシマスタジアムでボールボーイをやらせてもらっていた。だから、トラップしたときの音、キックしたときの迫力を、すごく身近に感じることができた。プロとはこういうところなんだ、こういう雰囲気なんだとイメージしやすかったし、いちファンであり、憧れだった。自然と目指す存在になったと思う」

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 プロを目指すということは、アントラーズで活躍するということ。ジュニアユースのころからトップチームは身近な存在だった。スタジアムや練習場で国内トップレベルのプレーを直接見て、模倣して、技術を盗んだ。

「満男さん、野沢さん、誓志さん、あとは本山さん。アントラーズで好きな選手は他にもたくさんいたけれど、自分がしなければいけないプレーをしている選手のいいところばかりを見てきた。みんなのいいところを全部盗んで『土居』を形成してきた」

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 目標となる存在が近くにいたことで、己に求めるレベルも自然と高くなった。シュートでも、パスでも、ドリブルでも、周りに絶対負けたくない。練習から常に一番を取れるように技術を磨いた。

 ただ、アカデミー時代に受けた数々の教えの中で、最も印象に残っていることは「技術うんぬんではない」という。「アントラーズのエンブレムをつけているからには、どんな状況でも、戦う姿勢や最後までボールを諦めずに追うこと、相手に立ち向かって戦うことだった。技術うんぬんよりも、戦う姿勢、アントラーズの選手とはこうあるべきだというのを教わった」と話す。そして、「やっぱり“ジーコスピリット“。そこに尽きる。自分としては他の要素も挙げたいところだけれど、結局のところ、そこに行き着く。技術どうこうよりも、特に僕らの世代はジーコのスピリットだったと思う」と語った。アカデミー時代に培った“ジーコスピリット“は、いまなお土居聖真の心と体に刻み込まれている。

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 トップチーム昇格後も、アントラーズでプレーする意味を深く学んだ。ユースの頃は「自分一人だけでも上手くなりたいと思っていた」というが、プロに入ってから考え方が変わった。「サッカー選手でうまい人なんてってごまんといる。満男さんやヤスさんもよく言ってるけど、『うまい選手よりも勝つ選手になりたい』と思う」と、尊敬する先輩の言葉に大きな影響を受けた。数々のタイトルを争い、激闘を繰り広げるなかで、アントラーズとは何たるかを学んできた。

 そして2020年、節目のプロ10年目を迎えた。選手の入れ替わりが激しくなり、若手選手が台頭しているいま、背番号8には“ジーコスピリット“を自ら体現し、伝統を次世代へと継承する役割が期待されている。

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「これまで先輩たちの行動や言動、心に響く言葉をたくさん見て聞いてきた。僕にもしっかりアントラーズの先輩たちから受け継がれている。ときにはその重しを外したくなることもあるけれど、常に自分のなかにはアントラーズのエンブレムを背負って生きているという意識が染みついてしまっている。すべてはそれありきで自分の生活が進んでいると思う」

 伝統を背負う責任は重い。だが、使命を全うする覚悟がある。背番号8は偉大な先人たちをずっと近くで見てきた。一昨年は小笠原満男、今年8月には内田篤人と、尊敬する二人の先輩の引退を見送ったが、彼らの背中は誰よりも見てきた。今度は自分の背中でチームを牽引する番だ。

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「篤人さんも満男さんが引退したときに『俺は満男さんにはなれない』と言っていたけれど、僕も篤人さんにはなれない。満男さんから受け継いだキャプテンとしての振る舞いや、アントラーズの選手としてあるべき姿を、篤人さんは篤人さんなりに表現していた。だから、僕も僕なりのやり方でアントラーズを背負っていきたいと思う」

 言葉には力がこもった。「チームメートやスタッフもシーズンによって変わるし、そのときの状況に臨機応変に対応しながら、アントラーズらしさを引き継いでいくことが大事。毎年同じことをやるわけではなく、その時々に合った振る舞いを身につけていかないといけない」。チームの牽引役として、さらなる成長を誓っていた。

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「1試合ごとにみんなの自信と一体感を感じる。序盤戦のきつかった時期、苦しかった時期をみんなで乗り越え、一歩ずつ前に進んできた。10年のキャリアのなかで僕が学んだことの一つでもあるけれど、サッカー選手としても、チームとしても、もがいていた時期をバネにすれば、より上へ上へとステップアップできる。だから今年も、必ず這い上がっていけると信じていた」

 ここまで苦しい時期も前を向き、リーダーの一人として、チームを牽引してきた。やっとの思いでこの位置まで這い上がってきた。そして今節は、ついに首位川崎Fとの対決に臨む。ACL出場権獲得のためにも、幾多もの屈辱を晴らすためにも、アントラーズレッドの意地とプライドにかけて、絶対に勝利が求められる一戦だ。

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「カシマはやっぱり僕らの家なんです。その空気を作ってくれるのが、サポーターの皆さん。スタンドのアントラーズレッドを感じたら、もうやめられない」

 アントラーズファミリー全員で背番号8に大きな拍手を送ろう。彼ならばきっと期待に応えてくれる。培った経験、託された思いを胸に刻み、土居聖真はアントラーズの勝利だけを目指して戦う。

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